何が物語だ

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2016 [2016年12月04日 01時00分]
富士コーヒー物語。富士コーヒー株式会社の代表取締役である塩澤敏明氏は若き日にブラジルへ渡り、日本人初のクラシフィカドール小室博昭氏(1937-2002)の薫陶を受けた「名古屋の三羽烏」の一人である。その塩澤敏明氏が、2016年11月2日に69歳で歿した。私が氏を目の当たりにしたのは、日本コーヒー文化学会(JCS)第22回総会後のシンポジウム「愛知県・岐阜県を中心とする喫茶店のモーニングサービスの文化とその変遷」でパネラーとして登壇した2015年6月7日が最後となった。そして、設立10周年記念と銘打った2003年6月22日の日本コーヒー文化学会(JCS)第10回総会後の三遊亭圓窓(六代目)氏の講演も思い出深い。私にとっての富士コーヒーは、東海ラジオから流れてくるコマーシャル、圓窓師匠が語る「富士コーヒー物語」だから…何が物語だ。
 何が物語だ (1) 何が物語だ (2) 何が物語だ (3)

 「末期のコーヒー」 (珈琲小咄 12)
 沢田家のおじいちゃんは一徹者。外国の流行にしっぽを振って喜ぶ日本
 の国情を憂い、横文字を一切嫌った。家族の者が、食後、コーヒーを飲ん
 でも、おじいちゃんだけは番茶を飲み、そして必ずこう言った。
 「コーヒーなんざ、日本人の飲むものじゃあない。日本には昔からお茶が
 あるじゃあねえか」
 そんなおじいちゃんも年令(とし)には勝てず、米寿を祝った翌年、病床に
 臥し、今日か明日かの命となった。おじいちゃんもそれと知ったか、家族
 の者を枕許に呼び、か細い声で言った。
 「あたしの命も、もうこれまで……生まれてこの方、頑としてコーヒーは飲
 まなかったが……みんなが旨そうに飲んでいるのを見て……本当はあた
 しも飲みたかった……末期のコーヒーを飲ましてくれ……」
 家族の者はみな涙を流して、おじいちゃんの言葉を聞いた。すぐに、老妻
 はコーヒーを沸かし、スプーンでコーヒーを口に含ませてやった。すると、
 どうだろう! おじいちゃんは、目をパッチリとあけ、ムックリ起き上がると、
 床から離れて歩き出すではないか! 家族一同が唖然としている中で、老
 妻がつぶやいた。
 「コーヒーは眠気をさますというが、永遠の眠りをさますとは……」
 (三遊亭圓窓 『圓窓五百珈琲小咄を読む本』 pp.30-31)
 
 「菩薩のコーヒー」 (珈琲小咄 866)
 極楽物語。ある日、第二極楽園の池の畔をお釈迦さまがお一人で散歩を
 なさっていました。と、土産売り場から地蔵菩薩が声を掛けました。
 「お釈迦さま。お寄り下さい。コーヒーをご馳走いたしましょう」
 「甘茶はよくいただきますが、コーヒーは初めてですよ」
 お釈迦さまが縁台に腰を下ろすと、すぐに缶コーヒーが運ばれてきた。
 「お地蔵さんは、こんな物まで売ってんですか?」
 「地蔵(自動)販売機を置いてますから」
 お釈迦さまがそこを出て、しばらく歩いていると、虚空蔵菩薩が声を掛け
 て来ました。
 「お釈迦さま。我がカフェーでコーヒーなぞはいかがですか、ご馳走しま
 しょう」
 「さっき地蔵菩薩に声を掛けられて、いただきましたがね」
 「あそこより、ここのコーヒーのほうが美味しいですよ。どうぞ」
 「なるほど、味が違う。コクがありますね」
 「いれたのは虚空(コク)蔵菩薩ですもの」
 (三遊亭圓窓 「コーヒーこばなし」/『FUJI COFFEE NEWS』Vol.444
  2016年7月号)
 
富士コーヒー物語。直営の喫茶店群を整理して「カフェ・ラシュール」1店と「カフェ・セレージャ」2店のみを運営していた富士コーヒーが、新たな喫茶店舗「珈琲元年」を清須市に出したのは2013年4月のことだった。それから約3年半後、名古屋市中川区にある営業本部から運河を挟んで向かいという至近に「珈琲元年」を開いた。富士コーヒーは、この2号店を「珈琲元年」の中川‘本店’と称して、今後に多店舗化とフランチャイズチェーンの展開も視野に入れている。だが、この旗艦店の船出を見届けることなく、オープン2日前に塩澤敏明氏は逝ってしまった…何が物語だ。
 
 《「笑い」と「珈琲」とは、人生にとって必要不可欠なものであり、また脳を
  刺激して身体にとても良い効果をもたらすものであります。したがって、
  どちらが欠けても、人生がとてもつまらないものになってしまうと、私ど
  もは考えております。師匠と私どもが創り出す「笑い」と「珈琲」が皆様
  の人生を豊かにすることを願ってやみません。》
  (塩澤敏明 「『圓窓五百珈琲小咄を読む本』発刊に際して」/『圓窓五
   百珈琲小咄を読む本』 p.557)
 
 何が物語だ (4) 何が物語だ (5) 何が物語だ (6)
富士コーヒー物語。2016年12月3日、私は東谷山フルーツパークへ行き、くだもの館の展示室で富士コーヒーが協賛(実質は出展)しているコーヒー展を訪ねた。私なりの哀悼だ。毎年に東谷山フルーツパークで講習会や展示会を開いていた塩澤敏明氏は、来場者とコーヒーについて語ることを楽しみにしていたという。だが、今般に氏の姿はもうない。帰宅後、フジスペシャルと銘打たれたペルーのコーヒーを淹れて喫しながら、故人を偲んで無理に笑った。《どちらが欠けても、人生がとてもつまらないものになってしまう》から…何が物語だ。
 
 ※富士コーヒーのラジオCMを存知ないと「何が物語だ」が無礼に聞こえるかもしれませんが、圓窓師匠以外には謝りません。
 
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コメント

地蔵販売機
嶋中労 URL [2016年12月08日 15時49分]

帰山人様

圓窓の噺はおもろいでんな。
あたしも末期の水はコーヒーにいたします。

できますれば帰山人閣下の煎った品格あるコーヒーが飲みたい。
そん時はヨロシク!

to:嶋中労さん
帰山人 URL [2016年12月08日 18時18分]

労師、拙愚のブンナ(コーヒー)で逝かれますか。末期の水は酒じゃなくてイイんですか? 「らくのみ」を吸いながら逝く方もありますからね。道元も言ってます、「ブンナは諸行の一つならくのみ」…あれ、禅那だったかな?

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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