懲り懲り懲り5

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2016 [2016年11月19日 01時00分]
著者がTwitterで《1年9ヶ月ぶりの続編です。2巻以来の連作短編形式で、5巻にして初の、語り手アオヤマくんのための物語です》と言っているし、《友だちに「アオヤマの私生活、つまんなそうだよな」と平然と言ってのける作者。あいつ趣味とか友人関係とか、ぜんぜん想像できないのよな…》とも言っているので、鴛鴦茶でも飲みながら感想を述べていいですか?
 懲り懲り懲り5 (1)
 
『珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように』(岡崎琢磨:著/宝島社:刊)は、サブタイトルに紅茶が混ざりこんでコーヒーそのものからますます遠ざかった。だからなのか、けれどもなのか、この最新巻は僅かに読みやすくなった。第1巻第2巻第3巻第4巻と続いていた不自然な話し運びと稚拙な言い回しが減じたからで、だが、面白味も減じた。つまり、第5巻は『源氏物語』になぞらえた「減じ物語」である。
 
 《降り注ぐ七月の陽光の下で、樹は美星の目にいちだんと映えて見えた。彼
  女の横に並んで視線を同じくしながら、アオヤマは訊ねる。「前々から思っ
  てたんですけど、これ、何の樹ですか」 もう二年もタレーランにかよってい
  ながら、アオヤマが樹について何も知らずにいたことを、美星は意外に感
  じた。》 (pp.225-226 「純喫茶タレーランの庭で」/『珈琲店タレーランの
  事件簿4 ブレイクは五種類のフレーバーで』)
 懲り懲り懲り5 (2)
 《思えば初めてこの店の扉を開いてから、早いもので二年が過ぎた。》(p.25
  「第一章 少女のショートカットはなぜ魅力的だったのか?」)
 《眞子と会うのは、二人でタレーランを訪れた日以来、二週間ぶりだった。七
  月に入っても梅雨が明けきらず、窓の外ではタクシーのワイパーが懸命に
  雨を弾いている。》(p.110 「第三章 ワールド・コーヒー・ツアーズ・エンド」)
  (『珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように』)
 
──んぐぁ、と喉で変な音が鳴った。5年以上前の寒い冬の日にタレーランで起きた心温まる(?)「レモン爆発事件」を切間美星が回想してアオヤマに語ってから店を早じまいしてデートに誘う第4巻の「純喫茶タレーランの庭で」。11年ぶりに会ったアオヤマの初恋の相手(小島眞子)を含めてドロドロとした3組の男女関係の深い悩みに美星とアオヤマが巻き込まれる第5巻の「第三章 ワールド・コーヒー・ツアーズ・エンド」と「第四章 コーヒードール・レゾンデートル」。その両方が同じ7月に起きたと平然と言ってのける作者。確かに「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズをいくら読んでもアオヤマこと青野大和の《趣味とか友人関係とか、ぜんぜん想像できない》わけだが、それ以上に作者である岡崎琢磨の整合や調和に対する気遣いとか、ぜんぜん観取できないのよな。
 
 懲り懲り懲り5 (3)
『珈琲店タレーランの事件簿5』に相応しいサブタイトルは、「この鴛鴦茶がおいしくなりますように」ではなくて「世の中は夢のわたりの浮橋か」であろう。この『源氏物語』の最終巻名「夢浮橋」の由来とされる「世の中は夢のわたりの浮橋か うちわたりつつものをこそ思へ」という歌、これを小島眞子に《夢に架かる浮橋を渡った瞬間に、この大長編は終わりを迎える。まるで、叶えられた瞬間に夢を見られなくなる世の常を象徴しているかのようでしょう?》(p.53)と曲解させた時点で、この物語の歪んだ先は全て読める。「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズは、夢に架かる浮橋を渡った瞬間に終わりを迎えるのではないだろうか? 《たぶん、本気で信じていないんだろううね。だからこそ、夢なんだよ》(p.106)…コーヒーを挽く音、また「懲り懲り懲り」と聞こえる。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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