なか野庵の想い出~(1)もりとざる

ジャンル:グルメ / テーマ:うどん・そば / カテゴリ:食の記:回顧編 [2009年03月12日 03時00分]
しばらく前まで「蕎麦を食べたい」と思う都度に、「なか野庵の蕎麦」が脳裏に浮かび、他の蕎麦を食べる気が失せて困っていた。最近はそこまでではないものの、「ウマイ蕎麦屋」の話がでる度に「なか野庵」を思い浮かべないことは無い。この店は稀代の蕎麦屋であった。
 
知人に教えられ、初めて店を訪ねた時に「なるほど」と思った。店の構えも配置も、伝統的な蕎麦屋の小店のつくりであること。うどんも丼物も、さらには中華そばまでメニューにあるので、ほとんど大衆食堂にしか見えないこと。蕎麦には「もり」と「ざる」が両方あること。
 
「ざる」と「もり」の違いについては諸説あるし、「本来は海苔の有無だけが違いじゃあ無い」という話はよくあるが、だからといって、結局決定的な統一した違いは規定できない。「せいろ」という呼び名も含めて蕎麦の歴史的な観点でも違いは語れるが、実物の違いとしては、「ざる」は一番粉「もり」は二番粉、「ざる汁」は一番出汁「もり汁」は二番出汁、などを上げる説もある。
 
「なか野庵」の場合は、「もり」は海苔なしで「もり汁」をつけて薬味は「葱」だけ、「ざる」は海苔ありで「ざる汁」をつけて薬味は「葱と山葵」、という違いであった。「もり汁」は甘みが少なくキレのある汁で、「ざる汁」は甘みの強いコクのある汁である。
 
店の主人曰く、「ざる汁の甘さには海苔と山葵が合うが、もり汁に山葵は合わない。もりに葱以外の薬味を加えるなら、卓上の七味(唐辛子)だっ。」近年、この理屈で「ざる」と「もり」を分け、その主張通りに汁を仕立てる大衆的構えの蕎麦屋はごく少ない。但し、汁でざるともりを分ける場合は、「ざる汁」の甘みは「口味醂」「御前返し」という他店もあるようだが、なか野庵では「御前返しは御前返しだ」と更に別の上級品と主張していた。
 
その後、常連となった私が観たところ、なか野庵で客の「ざる派」と「もり派」はほぼ半分半分だったが、私は「もり汁」贔屓で、天ざるを注文しても「汁はもり汁」と言い、主人(大将と呼んでいたので、以後は大将)に「この貧乏人がっ!」と笑われた。ざるもりの金額差では無く、職人など下層階級好みの味という意味である。
 
ある日、花番(は大将の奥方だが、おっかさんと呼んでいた)が運んできた「もり汁天ざる」を早速食べようと猪口(ちょく)を口元に近づけた私は、「おっかさん、汁が間違っているよ、こりゃあざる汁だっ!」、おっかさん詫びながら「でも、食べてスグわかったの?」、私「まだ何も口につけてねぇよ!鼻で解らなきゃあ蕎麦好きとはいえねぇだろ!」。
 
理屈の違い、風味の違い、その筋通りの良い「ざる」と「もり」がなか野庵にあった。
 
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のう天気 URL [2009年03月18日 12時13分] [編集]

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
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