再発見のコク 後篇

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2016 [2016年09月14日 01時00分]
コーヒーの世界を再び発見する者は、‘フラヌール’(flaneur:風来人)なのか? そこにコクはあるのか? 日本コーヒー文化学会(JCS)の焙煎抽出委員会による分科会催事、その集会に参加してコーヒーの世界にコクの‘再発見’(rediscovery)を求めて遊ぶ、つまり「再発見のコク」…
 
【集会当日のコク】 2016年9月11日
 
東禅寺の門前に立ち寄ったのは前日のことだった。栄力丸の漂流者の一人で後にイギリス公使ラザフォード・オールコックの通訳となった伝吉は、1860年1月に東禅寺の門前で刺殺された。伝吉が死んだ7ヵ月余の後となる同年9月11日、外国人として初めて富士山に登頂した者がいた。イギリス公使のオールコックだった。彼は登山の途に山小屋で目覚めのコーヒーを淹れて飲んだ。富士山で初めてコーヒーを飲んだ者も、オールコックだろう。その156年後の同月同日、宿の部屋で目覚めのコーヒーをネルドリップで淹れてから、窓を開けて外を覗った。雨が降っていた。隅田川沿いを走るのはやめておこう。ベッドに腰かけて濃厚なマンデリンのコクを味わいながら、これを富士山で喫したならばどんな味がするのだろうか、と考えているうちに雨が止んだ。
 
定宿の「ほていや」を出て、隣の「café Bach」(カフェ・バッハ)へ入った。まだ開店したばかりだったが、店は早くも賑わっていた。そこで待ち伏せにあった。「来ると思っていました」という藤田俊樹と差し向かいに座って、バッハブレンドとバタートーストを注文した。新聞を読みながら藤田と雑談を交わし、自宅へ土産に持ち帰る焼き菓子を買ってから2人で店を出た。南千住駅まで歩き、地上を走る地下鉄で北千住駅までいって、藤田と一旦別れた。北千住の商店街には提灯が飾られていて、脇道の奥には神輿を囲んで歩く群集が見えた。千住の空気にもコクがある、そう感じられて嬉しくなった。早い昼飯を食べようと思っていた蕎麦屋は、祭りの影響だろうか開店が遅れていたのであきらめた。どこかでバスに乗ろうと思いながら日光街道を歩いたが、千住新橋で荒川も越えてしまったので、そのまま催事の会場まで歩いた。
 
会場である富士珈機の東京支店セミナールームに着いた。他の参加者が集まるまでの時間、新開発の抽出道具である「ねるっこ」や大坊勝次に強請られた手廻し焙煎機の試作品などを福島達男社長に見せてもらいながら過ごした。見知った顔ぶれに初めて見る顔も混じって参加者が揃った昼過ぎ、日本コーヒー文化学会の焙煎抽出委員会の催事が始まった。この場所で開かれるのは4度目だ。今回のテーマは「コーヒーとコク」。まず、山内秀文委員長のオリエンテーションとプレゼンテーションから。山内のコクに関する発表は事前に予測した範疇に収まり、新たな知見は得られなかった。つまり、コーヒーのコクの正体は幽霊のようなもの、ということだろう。次に、パナマのママカタ農園とケニアのマサイAA、2種類の生豆を使ってディスカバリー焙煎機の実技へ移った。試飲の抽出は「ねるっこ」が使われた。他の参加者へ焙煎の助言や試飲の感想を述べて過ごした。松下和義に松屋式の抽出も勧めた。「ねるっこ」よりも角がなくて甘い味がした。大坊勝次は相変わらず30分を超える焙煎をした。「ねるっこ」の抽出を途中で止めて濃く飲みたいという大坊を叱ったが、コーヒーの味は好かった。コーヒーの香気成分とコクの関連を山崎将司に訊ねたが、明確な答えは見つかっていないようだった。やはり、コーヒーのコクの正体は幽霊のようなもの、ということだろう。いや、この午後の3時間半に及んだ催事の賑々しい雰囲気が、コーヒーのコクなのかもしれない、と感じた。閉会後、談議を続けながら皆で梅島駅まで歩いて地下鉄で移動して外苑前駅で降り、懇親会の会場である「Gentle Belief」(ジェントル・ビリーフ)へ行った。浅野嘉之らが次々と出す食事とビールを立食で味わいながら、懇親会の参加者とコーヒーの談議を延々と続けた。別れを告げて、帰途に着いた。
 
 再発見のコク (2)
コーヒーのコクの実相は味わう人間の交流にあるのかもしれない、そう想えるほどに集会の当日に出会った話題にもコクがあった。「もう帰らなくては」と言いながらも宴を去り難いのは、話のコクが深すぎてキレが悪くなったのか。そう想い返して、新幹線の車窓から東京の夜景を眺めながら笑った。コーヒーの世界にコクの‘再発見’を求める遊び歩きは終わらない…だから面白い。
 
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コメント

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浅野嘉之 URL [2016年09月14日 22時30分]

前日はありがとうございました
こく
皆さん各々探されたんでしょうか
僕は途中退席だったので
最後の談義に同席できずちょっと残念

さて
いただいたモカ×3
もはやモカではなく
帰山人!
ぼくにはモカではなく帰山人しか
感じられない(笑)
ここにひとつのコクのかたちが
いやはやまたしても
やられました
ひとまずほんとご馳走さまでした

to:浅野嘉之さん
帰山人 URL [2016年09月14日 23時54分]

懇親会の饗応、ありがとうございました。
コク探しは、生豆由来も焙煎由来も抽出由来もハッキリしませんでした。「これこそコクだよな」と私周りの談議で意見が揃ったのは、懇親会で出していただいた肉料理でした(笑)
モカ100%のモカブレンド、大坊さんは「7.05なのにどこかに酸がいる」と驚いていました。楽しめりゃイイんです…

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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