遠すぎた道

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2016年08月10日 23時30分]
ビル・ブライソンによる紀行“A Walk in the Woods: Rediscovering America on the Appalachian Trail”(1998年)をロバート・レッドフォードが読んだのは、アカデミー名誉賞を受けた2002年のことだった。
 遠すぎた道 (1)
 《一読して、ああこれは運命だと思ったね。一冊の本でこんなに何度も声を出し
  て笑ったのは初めてだと思う。(略)色々な本や映画と巡り合ってきたけれど、
  本当のユーモアは真実からしか生まれない。それを誰かと分かち合いたい気
  持ちに突き動かされて、どうにか映画にできないかと思ったんだ》 (「ロバート・
  レッドフォードが語る、中年&老年の危機描いた『ロング・トレイル!』への思
  い入れ」/Webサイト『映画.com』 2016年7月9日)
 遠すぎた道 (2)
ロバート・レッドフォードは、アパラチアン・トレイルを男2人で歩いた話を読み終えた時、『明日に向って撃て!』(1969年)や『スティング』(1973年)のように、ジョージ・ロイ・ヒルの監督でポール・ニューマンとの共演による映画化を夢想しただろう。だが、既にパーキンソン病を患っていたジョージ・ロイ・ヒルは、その2002年に死んだ。80歳だった。それでも、レッドフォードは2005年に自らの製作と主演で映画化を発表した。ニューマンは80歳だった。そして、ポール・ニューマンは‘最後の共演’を果たすことなく、がんを患って2008年に死んだ。映画化は頓挫しかかったが、レッドフォードはあきらめなかった。共演者をニック・ノルティにして2014年に映画の撮影が始まり、翌2015年に映画が公開された。ビル・ブライソンらがアパラチアン・トレイルを歩いた時(1996年)から19年、その紀行が出版された時から17年、その本を読んでロバート・レッドフォードが《どうにか映画にできないかと思った》時から13年が経っていた…そう、映画化の道程こそが「ロング・トレイル」だった。
 
『ロング・トレイル!』(A Walk in the Woods) 観賞後記
 
 遠すぎた道 (3)
「再会の3500km、友と森を歩く」という惹句を掲げる映画『ロング・トレイル!』であるが、ビル・ブライソンとスティーヴン・カッツはアパラチアン・トレイル全長2174マイル(約3499km)を完全に踏破していない。うち870マイル(約1400km)だけを1996年に歩いた。その前年にシェリル・ストレイドがパシフィック・クレスト・トレイルを歩いた時も1100マイル(約1770km)だけであり、全長2650マイル(約4265km)を完全に踏破したわけではない。2つのトレイル紀行、共に全長の約4割にとどまっている。だが、シェリル・ストレイドの紀行“Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail”(2012年)が映画化された時の邦題は『わたしに会うまでの1600キロ』(2014年)であり、そこに誇張はない。対して、「再会の3500km、友と森を歩く」という惹句は、不実な詐欺である。
 遠すぎた道 (4)
 《ビルはなぜ自分がアパラチアン・トレイルにひかれたか分かっていない。どうし
  てその衝動に駆られたのかが説明できないんだ。だけど人生でそう思う時期
  にさしかかっていた。人生のある瞬間に訪れる衝動だね。中年の危機、と言
  えるかもしれないが、いや、この場合だと老年の危機かもしれない。説明でき
  ないような危機なんだ》 (前掲 「ロバート・レッドフォードが語る、中年&老年
  の危機描いた『ロング・トレイル!』への思い入れ」)
 遠すぎた道 (7)
『わたしに会うまでの1600キロ』と『ロング・トレイル!』、アメリカの長距離トレイルを歩く映画2つが連年で公開されたわけだが、いずれも映し出される道と風景だけが見どころ、映画としての‘不出来’さは似たり寄ったりである。原作に沿った話運びから考えれば、26歳の孤独な女がメタファーで独白する内省の旅よりも、共に44歳の男2人がアイロニーで茶化す‘ヤジキタ道中’の方が明るく楽しいハズだが、『ロング・トレイル!』はそうなっていない。何故か? シェリル・ストレイド役のリース・ウィザースプーンは37歳だった(撮影時)。対して、ビル・ブライソン役のロバート・レッドフォードは77歳、友人スティーヴン・カッツ役のニック・ノルティは73歳だった(撮影時)。実話は《中年の危機》だが、映画『ロング・トレイル!』は《老年の危機》、‘年寄りの冷や水’ヨボヨボ映画だから。ジジイのバディフィルムだから全てがダメとは言わないが、晒した老醜が醸すべき滑稽を圧している。要は、映画化までの経時が「ロング・トレイル」、‘遠すぎた道’だった。
 
 遠すぎた道 (6) 遠すぎた道 (5)
映画『ロング・トレイル!』の救いは、スティーヴン・カッツを演じたニック・ノルティだ。実在のカッツ(本名:Matt Angerer)がアル中の太り過ぎで人工膝関節の‘ヨイヨイ’だったように、ニック・ノルティも役を作らなくても既に同じ状態だったのだ。演技を超えた迫真である。映画の中ではノルティの演じたカッツが断酒の誓いに瓶の中身を捨てていたが、撮影後に股関節の置換手術を受けたニック・ノルティは飲酒で手術を延期させた。演技を超えた迫真である。ヨレヨレのレッドフォードとヨイヨイのノルティは、ブライソンとカッツを演ずるよりも、「オレたちもやってみた」と長距離トレイルに挑むドキュメンタリー映画を作った方が好かったのかもしれない。それでも、2人にとってアパラチアン・トレイルは‘遠すぎた道’だろうが…踏破の先にジョージ・ロイ・ヒルとポール・ニューマンが待っている? ロバート・レッドフォードは80歳になる。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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