なごやめしのもと

ジャンル:学問・文化・芸術 / テーマ:art・芸術・美術 / カテゴリ:観の記:美面 [2016年01月24日 23時30分]
《「世界の山ちゃん」といえば、なごやめしにとって欠かせない存在で…》(Web『サカエ経済新聞』 2015年8月24日)などと言われているが、蕎麦屋の「なか野庵」が中ノ町通(中区栄1丁目)にあった頃、カレー屋の「サンライン」がのんき横丁(中区錦3丁目)にあった頃、1986年に発行された『名古屋 街の事典』(アワー・シティ:刊)には、《“名古屋の六本木”と自称する》手羽先屋の「やまちゃん」が紹介されている。「なごやめし」の元(もと)は、東京への羨望と嫉妬、それだけである。…他に何かある? 観てみよう。
 なごやめしのもと (1) なごやめしのもと (2)
 
「名古屋めしのもと」 (名古屋市博物館:特別展)
 
 なごやめしのもと (3) なごやめしのもと (4)
《豆みそ、たまり。そして、あなたの思い出。》というキャッチコピーの通りに、特別展の前半(第1章)は‘名古屋めしの素(もと)’とこじつけて《豆みそ》と《たまり》醤油を拾い上げ、後半(第2章)は名古屋圏の食文化の歴史と地域性を《思い出》にかこつけて取り上げていた。これらの中では、井桁芳(いげよし)と山英(やまえい)商店の古い資料が昔のみそたまり店の実態を示していて好い。
 なごやめしのもと (5) なごやめしのもと (6)
ところで、入口に置いてあったスガキヤのスーちゃんは何だったのか? 例えば「名古屋の食文化」と題するよりも「名古屋めしのもと」と称してウケを狙った迎合が、結局は掘り下げも中途半端で何を訴えたいのかよくわからない特別展にしてしまったのでは? こうした手前味噌な迎合に、特別展の図録に寄稿した野瀬泰申氏も飲み込まれている。旧著では《いつも思うが、どうして日本人の食の文化はこのように東西で類型化が可能な要素が多いのであろうか》(『天ぷらにソースをかけますか? ニッポン食文化の境界線』 新潮文庫 2008年)と言っていた野瀬氏が、今般の寄稿では「味の独立王国」と題して、《東の「かつおだし・濃口じょうゆ」と「西の昆布だし・薄口しょうゆ」の真ん中に名古屋を中心とする「ムロアジだし・たまりしょうゆ」という巨大、かつ強固な独立王国が存在する》などと騙っている。巨大? 強固? 例えば、氏の出身地である九州北部で地元の食文化を取り上げた展示があったとして、氏が得意とする東西の境界線論とは別に名古屋圏を《巨大、かつ強固な独立王国》などと持ち上げるだろうか?…胡麻をすったつもりで、味噌をつけた。
 
 なごやめしのもと (7)
2016年1月23日、特別展「名古屋めしのもと」の関連事業である座談会「名古屋の食文化の特色」を聴講。講師は津田豊彦・伊藤良吉・野地恒有・野田雅子・阪野朋子の各氏と担当学芸員の長谷川洋一氏。鯔饅頭(イナまんじゅう)や鯖寿司(サバずし)などの話は興味深いが、そうした料理が局地に分布している理由そのものが語られない不満。これは、《豆みそ》と《たまり》が名古屋圏に限定されている理由を示さない特別展自体への不満と同じ。これらの催事には、どうであるかの提示はあっても、なぜなのかの追究がない。座談会では、(鯔饅頭や鯖寿司こそ「なごやめし」と言うべきものなのに)今の「なごやめし」は非伝統的なものである、豆味噌で異文化を絡め取って自分のものにしてしまうのが名古屋の食文化である、などと語られていた。なるほど、「天むす」や「あんかけスパ」や「ういろう」のように外界から移入された食べ物を‘名物’だとか「なごやめし」だとか得意げに騙ることこそが、名古屋の食文化の特色であるのかもしれない。
 
 なごやめしのもと (8) なごやめしのもと (9)
特別展「名古屋めしのもと」を観ても、座談会「名古屋の食文化の特色」を聴いても、「なごやめし」の元(もと)がハッキリすることはない。「なごやめし」の実像は、羨望と嫉妬、そして迎合と虚妄、それだけである…名古屋市博物館の斜向かいにあるうどん屋の「丸太屋」で熱々の味噌煮込みうどんを食べながら、そう確信した。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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