微小な波

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2015 [2015年11月23日 01時00分]
小さな小さな波がコーヒーに到達した時、はたしてコーヒーはどうなるのだろうか? 微小な波でもコーヒーは焼けてしまうのだろうか?
 
  微小な波 (1)
 「コーヒー:マイクロ波でまろやかに 中電開発」
 《中部電力が、電子レンジなどに利用されるマイクロ波を使ったコーヒー豆の
  焙煎技術を開発した。まろやかでコクのあるコーヒーを抽出できる。 インス
  タントコーヒー向けなどの安価なコーヒー豆をよりおいしく飲みやすくできる
  といい、焙煎装置も試験的に開発。埼玉県の企業を通じて特許を出願中
  だ。装置は22、23日、中部電が名古屋市内で開く展示会「テクノフェア」で
  一般公開される。 コーヒーの味は生豆の品質で7割が決まるといわれる。
  中部電は焙煎方法の熱処理に着目。通常、回転ドラムに生豆を入れて外
  から熱を加えたり、熱風を送り込んだりして豆をいるが、マイクロ波の放射
  で豆の成分が変化し、苦みやあくを抑えられることを確認した。 今回の開
  発では、顧客から依頼されたプラスチックの原料を乾燥させる電気の技術
  を応用。現在、特許を出願している企業は業者用に製品化を検討している。
  中部電機器開発チームの河村和彦研究副主査は「高級ではなく、脇役だっ
  たコーヒー豆もおいしく飲めるようになる」と話している。(共同)》
  (「毎日新聞」 2015年10月21日)
  微小な波 (2)
 「コーヒーまろやかに 中電、マイクロ波焙煎を開発」
 《中部電力は、電子レンジに使われるマイクロ波を活用し、コーヒー豆のえぐ
  みを抑えてまろやかな味のコーヒーをいれることができる焙煎技術を開発
  した。飲料メーカー工場などへの採用を目指す。 缶コーヒーやインスタント
  コーヒーに使われる豆は、安価だがえぐみ成分が多い。中電は二年越しの
  研究で、豆をいる際、熱風や赤外線の代わりにマイクロ波で加熱すると、
  えぐみ成分が半減することを突き止めた。 開発のきっかけは東海地方の
  飲料メーカーのコスト削減支援。焙煎した豆をひく際、細かく粉状にすると
  成分を抽出しやすくなって豆の使用量を減らせるが、えぐみも出やすいと
  いう課題があった。えぐみを除くこの技術を生産ラインに組み込めば、豆
  消費量の二~三割削減も可能になるという。 共同開発した埼玉県のマイ
  クロ波機器メーカーを通じて七月に特許を申請。河村和彦研究副主査
  (49)は「どんな豆でもすっきりした後味にできる」と自信を示す。
  (太田鉄弥)》 (「中日新聞」 2015年10月22日)
 
  微小な波 (3)
この中部電力が開発したコーヒーの焙煎技術が、《電子レンジなどに利用される》ISMバンドの2450MHz(2.45GHz)帯を使っているのか否かは不詳であるが、いずれにしても《マイクロ波併用粉体加熱装置》と称されているから、マイクロ波加熱‘のみ’でコーヒーを焙煎するわけではなさそうだ。これを「マイクロ波焙煎機」と称するべきか、に疑問が残る。マイクロ波加熱によるコーヒーの焙煎で手近に思い浮かぶのは‘電子レンジ’(microwave oven)の利用であるが、実際には上手くいかない。《とにかく先ず手始めに、コーヒーの生豆を適当な容器に入れて電子レンジでチンしてみると、焦げているのやら、まだ半生のものができてしまった》という廣瀬幸雄氏は、電子レンジに改造を施してそれなりの成果を得たようだ(『もっと知りたいコーヒー学.』pp.54-59/旭屋出版:刊 2007年)。だが、実用機として広まったという話は聞こえない。《私はアマチュアだった頃、焙煎に使えそうな器具はありとあらゆるものを試しました》という石脇智広氏も、《うまくいかなかったのは電子レンジくらいで…》と記している(『コーヒー「こつ」の科学』pp.139-140/柴田書店:刊 2008年)。けれども、実用機としてのマイクロ波コーヒー焙煎機が、何と電子レンジが開発されるよりも早くに存在したかもしれない、という話もある…微小な波は‘チン’よりも早くコーヒーに到達していたのか?
 
 《この研究をしていたのが中島茂さん。(略)日本海軍のレーダーの第一人
  者で、特にマイクロ波の研究が専門です。戦争末期には、いわゆる「殺人
  光線」の研究に取り組みました。 「あの殺人光線というのは、要するにマ
  イクロ波をビームにすることですか」と私が聞くと、「そうそう、電子レンジだ
  よ。あれでB29のエンジンを焼けないかと考えたのだけれどね」と言いま
  す。どの程度まで開発したのかについては「ほんの実験程度」。では具体
  的にどんな実験をしたのかと聞くと、「ああ、最初にできたやつで配給の芋
  を焼いた。美味しかったよ」とにこにこされました。海軍の殺人光線の最初
  の被害者は、サツマイモだったのです。 (略)やがて終戦になり、職を失っ
  た中島さんは「食えないから、何か売れる物を作ろうとした。見ると殺人光
  線用のマイクロ波の電子管がいくつか残っているので、これを使ってコー
  ヒー豆を炒る機械を作ったんだ。要するに電子レンジだよ。終戦直後だよ。
  これを新橋や銀座の珈琲店で何台か買ってもらった。店ではしばらく使っ
  ていたよ。芯からよく炒ることができるので評判は良かった」。(略)もしそ
  のコーヒー炒り機がいま残っていれば、立派な産業技術遺産でしょう。》
  (戸髙一成 『聞き書き 日本海軍史』 pp.70-71/PHP研究所:刊 2009年)
  微小な波 (4) 微小な波 (5)
このマイクロ波コーヒー焙煎機を、太平洋戦争中の《いわゆる「殺人光線」の研究》(Z装置開発)の電子管を流用して終戦直後に作った話は、実に興味深い。《新橋や銀座の珈琲店で何台か買ってもらった。店ではしばらく使っていたよ》という中島茂氏(1907年-2006年:故人/日本無線株式会社の技術者)こそが、世界初のマイクロ波コーヒー焙煎の実用機を作ったのであろうか?…中島茂氏が殺人光線の研究に取り組んだ場所は、第二海軍技術廠島田実験所(静岡県志太郡島田町:現在の島田市)と牛尾実験所(静岡県榛原郡五和村:現在の島田市)である。この(私の故郷でもある)島田を、戸髙一成氏は誤って《伊豆の島田》と連呼するなど、『聞き書き 日本海軍史』の精度には疑わしいところも多いが、《もしそのコーヒー炒り機がいま残っていれば、立派な産業技術遺産でしょう》という評は肯ける。この中島茂氏が開発した焙煎機が、いかなる周波数帯を使用したマグネトロンを搭載して、はたして誘電加熱であるマイクロ波加熱‘のみ’でコーヒーを焙煎できたのか、そこも不詳であるが、このマイクロ波コーヒー焙煎機の真相は今後に捉えたい。
 
マイクロ波などの誘電加熱のみで上手くコーヒーを焼ける焙煎機の開発には、(電子レンジによる悪戯などではなくて)焙煎プロセスに応じて出力だけではなくて(ISMバンドに縛られない)周波数帯をも可変する必要があるだろう、と私は想像する。だが、手続きや技術が大掛かりになるだろうから、これを実用機とすることに容易ではないだろう。それでも、小さな小さな波がコーヒーに到達した時、はたしてコーヒーはどうなるのだろうか? 微小な波でもコーヒーは焼けてしまうのだろうか?…少なくとも、ニューウェイブやサードウェイブなどという‘波’でコーヒーは焼けないが、マイクロウェイブでコーヒーが焼けるならば、‘波’は微小でも余程に面白そうではある。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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