アタリハズレ

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2015 [2015年09月01日 23時00分]
ヒュー・ジョンソン(Hugh Johnson)とジャンシス・ロビンソン(Jancis Robinson)による“The World Atlas of Wine”(第1版は1971年、最新の第7版は2013年に刊行)に倣い、ジェームズ・ホフマン(James Hoffmann)は、“The World Atlas of Coffee: From Beans to Brewing - Coffees Explored, Explained and Enjoyed”(Mitchell Beazley:刊 2014年10月)を著した。ワイン本“The World Atlas of Wine”は、日本語版で『世界のワイン図鑑』(山本博:監修/ガイアブックス:刊 第7版 2014年8月)と題された。コーヒー本“The World Atlas of Coffee”の日本語版は、『コーヒーの世界地図帳』とか『世界のコーヒー図鑑』とか名付けられるのだろうか?…違った。『ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典』(丸山健太郎:監修/日経ナショナルジオグラフィック社:刊 2015年8月)と題された。…ある意味で「アタリ」で、ある意味で「ハズレ」だ。
  アタリハズレ (1)
 
 《焙煎業者のなかには、生産履歴がはっきりしているコーヒーを輸入業者や仲
  買業者から購入して、「直接取引」や「リレーションシップ」で手に入れたと主
  張するものいるかもしれない。》(p.45)
 《道具を買い換える際は、エスプレッソマシンよりもまず、コーヒーミルを良いも
  のにすることをおすすめする。良いミルとサーモブロック方式の安価なマシン
  で、安価なミルと最高級のダブルボイラー式のマシンを使うよりも、おいしい
  エスプレッソを淹れることができる。》(p.109) 
 《私はコピ・ルアクを、ほぼあらゆる理由で嫌悪する。もしおいしいコーヒーに
  興味があるなら、コピ・ルアクを買うのは本当にお金の無駄である。》(p163)
 《近年FNCと、コーヒー産業界でもコーヒーの品質により敏感な層との間で衝
  突が起きている。(略)この議論は双方とも一理あるが、世界規模での気候
  変動がコロンビアのコーヒー生産の安定性にますます影響を与えていること
  を考えると、たとえ素晴らしいコーヒーを犠牲にすることになっても、生産者
  の生活を保障する品種に異議を唱えるのは難しくなってきている。》(p.189)
 
『ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典』は、原文も訳文も稚拙なところがあるが、著者ジェームズ・ホフマンの見識が率直に表れている…ココが「アタリ」である。ジェームズ・ホフマンは、コーヒー業界へ参入する前にワイン業界にいたからなのか、フランスの保守的なワイン業界にもロバート・M・パーカー・Jr.にも手厳しいヒュー・ジョンソンを手本に、2世代遅れで追いかけているような姿勢を感じる。私は、その見識の全てを良しとしないが、21世紀になって現れたコーヒー屋の中では、まずまず健闘している方だろう。もっとも、今後において「権威主義の低俗な取り巻きに担がれているだけ」などと批難を浴びることにでもなれば、それもヒュー・ジョンソンに倣ったかのようで、ジェームズ・ホフマンの「ハズレ」だ。
 
 《本書では扱うのは、主にスペシャルティコーヒーだ。(略)生産国の地図を含
  め、コーヒーについてのこれほど詳細な情報を提供した本は今までなかった
  し、読者とそれを共有できる喜びに興奮している。》(p.7)
 
『ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典』は、写真も地図も豊富に使用されているが、例えばコーヒー生産地の章で、インドネシアには生産地の図が無い…ココが「ハズレ」である。他の生産国に関しても概して、生産地の移行や変遷、その社会的・経済的背景に関しては情報が少なくて粗雑である。つまり、本書は‘スペシャルティ’時代の‘スペシャルティ’コーヒー屋が著して訳したという意味で、‘スペシャルティ’に偏り、網羅に欠けたコーヒー本である。この点において、“The World Atlas of Coffee”(コーヒーの世界地図帳)という原著の題は「ハズレ」であり、むしろ『ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典』という日本語版の名付けが「アタリ」である。もっとも、真に「大事典」とまで言えるか否か、そこに疑問は残る。
  アタリハズレ (2)
  
『ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典』というコーヒー本は、ある意味で「アタリ」で、ある意味で「ハズレ」である。どこが「アタリ」で、どこが「ハズレ」か…そこを読み解いた時に初めて《喜びに興奮》できるだろう。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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