擦過のコーヒー

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2015 [2015年07月26日 01時00分]
平凡社のコロナ・ブックスには『作家の食卓』(2005年)や『作家のおやつ』(2009年)や『作家の酒』(2009年)や『作家の旅』(2012年)などがあったが、2015年6月、ついに『作家の珈琲』(コロナ・ブックス編集部:編)が刊行された。小説家や詩人やジャーナリストや写真家やイラストレーターやデザイナーや画家や落語家や俳優や歌手など、既に皆死んでいる25人を‘作家’と一括りにして集め並べている、要は「死人のコーヒー本」である。
  擦過のコーヒー
 
 《表紙はくつろいだ表情でコーヒーを飲む松本清張の写真。裏表紙は池波正太
  郎が「男が食べるサンドイッチ」と愛したイノダコーヒ本店(京都市)のビーフカ
  ツサンドとコーヒーのセットだ。もうそれだけでコーヒーが飲みたくなる。「よく眠
  れるからと就寝前にも飲んだ」という安岡章太郎が愛用したコーヒーミルや年
  代物の焙煎機。喫茶店で執筆する中上健次の前に置かれた苦そうなコーヒー。
  それぞれ執筆のお供に、くつろぎのひとときに愛したコーヒーと作家との関わ
  りが、多彩な写真や関係者の証言で再現されている。》
  (石野伸子 「安岡章太郎、松本清張、中上健次…コーヒーと作家、作品その
   関係とは」/「産経新聞」 浪花ぐらし/2015年7月11日)
 
ん? 安岡章太郎が《年代物の焙煎機》を愛用していたとは…いや、『作家の珈琲』の中で反転式コーヒー沸かし器の写真の誤ったキャプション《コーヒー焙煎機》(p.13)に釣られた粗相だろう。こうした信用に足らない編集もあるが、まあ概ねはよくまとめている内容だ。
 
25人のコーヒー愛好‘作家’(?)のうちで、最も早く生まれて最も早く死んだのは藤田嗣治(1886-1968年)、最も遅くに生まれたのは高田渡(1949-2005年)、最も遅くに死んだのは高倉健(1931-2014年)である。最も短命であったのは45歳で死んだ近藤紘一(1940-1986年)で、最も長命であったのは94歳で死んだ三岸節子(1905-1999年)である。25人の平均寿命を計算してみると74年と82日、《くつろぎのひとときに愛したコーヒー》で寿命が延びたのか縮んだのか、さっぱりわからない。まあどうでもいい話であろう。
 
25人のコーヒー愛好‘作家’(?)のうちで、『日本の名随筆 別巻3 珈琲』(清水哲男:編/作品社:刊 1991年)に収載された執筆者40人と重複したのは、植草甚一と常盤新平の2人だけだった。つまり、コーヒーを《くつろぎのひとときに愛した》からといって、コーヒーに関する著作に長けているとは限らない、ということだろう。残りの23人は、大したコーヒーなんて飲んではいない、半端なコーヒー愛好‘作家’(?)の本が『作家の珈琲』なのである。
 
『作家の珈琲』の読み応えは、‘作家’の妻や子や孫や甥や後輩や弟子や記念館館長による回想を集め並べているところだ。少なくとも述懐している側は、生きた人間として語っているから…これがなければ、死人に口無し、読経するかレクイエムでも奏でている方がまだマシだろう。よくまとめているがどうでもいい話ばかりで、死人を擦過したコーヒー本だ。
 
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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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