銀座の喫茶店

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2015 [2015年05月11日 01時00分]
村松友視による「一杯の珈琲から 銀座の喫茶店ものがたり」は、タウン誌『銀座百点』の2009年1月号から2010年12月号まで連載され、2011年には単行本にまとめられて白水社より発行された。この『銀座の喫茶店ものがたり』は、銀座界隈の喫茶店45店を村松友視が訪ねた話、文春文庫(文藝春秋:刊 2015年3月10日)版で、読んでみた…
 銀座の喫茶店 (2)
 
どうもしっくりこない。文庫版の腰巻には《ジョン・レノンも向田邦子もここにいた》とあるが、ジョン・レノンが《いた》喫茶店は銀座「樹の花」(第一話 ジョン・レノンとヨーコ夫人がいた現場)だけではない。「カフェーパウリスタ」(第四話 喫茶店前史からの伝統)にも、軽井沢の「離山房」や「ミカドコーヒー」や「茜屋珈琲店」にも《いた》のである。また、向田邦子が《いた》喫茶店も銀座「ブリッヂ」(第三十三話 向田邦子がすわった席)だけではなくて、人形町「喫茶去 快生軒」や南青山「大坊珈琲店」にも《いた》のである。こうした拙い惹句は著者(村松友視)が悪いわけではあるまいが、銀座だけが《ここ》ではない。 どうもしっくりこない。「珈琲蕃」(第三話 迷彩の内側の几帳面)では社長夫人を《女優だった奥様》で片付けているが、「珈琲蕃」といえば西恵子で、西恵子といえばウルトラマンAであろう。死人で惹くよりも、《超獣攻撃隊TACの美川のり子隊員もここにいる》という話が望ましい。 どうもしっくりこない。取り上げられた45店の中には、店のパンフレットやWebページをまる写しにしたような話も混ざり、作家が探訪した割には読み応えがないところもあった。『銀座の喫茶店ものがたり』は、銀座の喫茶店ガイドブックとしては好い…が、それだけ。
 銀座の喫茶店 (1)
 
 《銀座の喫茶店は、これまで述べたような、人々の生活空間の欠如をおぎなう
  場所とは、いささか別物と言ってよいだろう。(略)私は、ゆったりと“銀ブラ”を
  こなすレベルでもなく、銀座に行きつけの喫茶店をもつコーヒー通でもない。
  銀座という呼称やグレードに対して、いささか腰の引けるタイプでもあるから
  して、素直に銀座を満喫するなど夢の中の夢なのだ。したがって、銀座の敷
  居の高さへの意識を、強くもっているという自覚がある。》
  (「プロローグ 贅沢な空気感の薬効」pp.15-16)
 
 《銀座という街は、“商店街”という性格の中に二つの形態がある。一つは、あ
  らゆるゼイタクな商品、衣服、装身具、貴金属類、男女の携帯品、靴店、──
  それも流行の尖端を走る品々を、各商店が競っていること。(略)また、一つ
  は、割烹店、洋食店、中華料理店、各国料理店、喫茶店、菓子店、キャバレー、
  バアというものが、殊に戦後は多くなったことである。この二つが“銀座の横
  顔”である。(略)だから、昔とちがって、「銀ブラをしよう」でなくて、「銀座へな
  にか食べに行こうか」という言葉がかなり都民の合言葉になっている。こうし
  てみると、銀座は“日本の食道楽街”のオアシスであり、中心地ということに
  もなるのだ。》
  (寺下辰夫 『珈琲飲みある記』/柴田書店:刊 1962年)
 
銀座の喫茶店を語る場合に、「腐っても鯛」かのように「腐っても銀座」と捉えて《銀座の敷居の高さ》を意識してしまう《コーヒー通でもない》村松友視に対して、奥山儀八郎さえ《三十年来の珈琲研究仲間の奥山君》(『珈琲飲みある記』むすびの詞)と呼ぶ寺下辰夫にとっての銀座は「昔千里も今一里」程度だったのだろう。いずれにしても、銀座の街自体が移り変わっていくように、ずいぶん以前より《一杯の珈琲から》銀座の喫茶店も変わっているのだろう。《この文庫を手に銀座の喫茶店を次々に再訪してみようか、というのが著者である私自身の目下のところの心もようであります。》(『銀座の喫茶店ものがたり』文庫版のためのあとがき)と村松友視は言っている。では私も、「腐っても鯛」の鯛が既に腐っているように「腐っても銀座」の腐っているであろう喫茶店を探してみようか、というのが『銀座の喫茶店ものがたり』を読んだ私自身の目下のところの心もようである。
 
コメント (0) /  トラックバック (0)

コメント

この記事にコメントする

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://kisanjin.blog73.fc2.com/tb.php/799-678d3c79
編集

kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

05 ≪│2017/06│≫ 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
Powered by / © Copyright 帰山人の珈琲漫考 all rights reserved. / Template by IkemenHaizin