抽出の身体操法

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2015 [2015年03月15日 01時00分]
『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』(田口護:著/旭屋出版:刊)というコーヒー本が出た(2015年2月6日発行)。《本書は、旭屋出版よりこれまでカフェ・バッハが刊行した「カフェを100年、続けるために」「カフェ開業の教科書」に続く、実務書シリーズ第三弾である》(p.16)と称しているが、前2書と比べると面白みは減じているし判型も異なるので、《シリーズ第三弾》という位置付けには違和を感じる。もっとも、カバーに「コーヒーの抽出を、これから始める人のために」と掲げられている通りに、ハンドドリップ(?)初心者に対してペーパードリップを実践的に説く本としては、まずまず良い出来なのかもしれない。
 抽出の身体操法
 
さて、『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』にも記された《注湯時の正しい姿勢》について考えてみる。《…ポットを持つ側の足をやや前に出し、あいている方の手を腰にあてて体勢を固定する。(略)前に出した足を軸足に、手の動きに合わせて体全体を動かす。手だけの動作にならないように。体全体を使って回し注ぐことで、正しい細さ、正しい勢いで注ぐことができる》(p.68)とするカフェ・バッハ流…間違いないが、私見を加える。以下は、コーヒー抽出者の身体に大きなケガや障害のない状態を想定したもので、また、商業的な観点よりも珈琲狂として「如何にウマいコーヒーを淹れるか?」という戯言である。
 
まず、ポットを持つ側の足だけで片足立ちして、コーヒーをいつも通りに抽出する…途中で体が大きく揺れたりふらついたりして抽出が続けられない場合は、そもそもコーヒーを抽出すること以前に、身体操法が適正でない。この状態で《体全体を使って回し注ぐ》と、ポットから出た湯をコーヒーの粉層へ《正しい細さ、正しい勢いで注ぐ》ことに精確でない。《体全体を使って…》ということは、身体を外から見たときに大きく《体を動かす》ことではない。《体全体を使って…》と言われて、膝を屈伸させたり、腰を回したり、肩を揺らしたりしている場合は、コーヒー抽出における精妙で確実な身体操法とはいえないのである。
 
《注湯時の正しい姿勢》には、ある種の武術でいうところの体の「居つき」を無くした状態が求められる。例えば、宇城憲治の武術論でいう「統一体」を作り出した上で、甲野善紀の武術論でいう「うねらない、ためない、ひねらない」動作が求められるのである。身体の各部と全体がバラバラなままで、ためてうねってひねるような《体を動かす》動作をしていては、ウマいコーヒーを定常に抽出することはできない。《ポットを持つ側の足をやや前に出し》て、《前に出した足を軸足に》するということは、仮にポットを刀に持ち替えたならば、いつでも前後左右に自在に斬り出せるということだ。カフェ・バッハ流では、《直立の姿勢は不安定》(p.69)とするが、私見では、「居つきのない臨戦体勢」ができているのであれば、足を揃えた《直立の姿勢》でも、片足立ちでも前かがみでも中腰でも座り込んでも可とする。私は時折、「趺踞」と呼ばれる座法のままでコーヒーを抽出する(但し、鍛錬が届かず、現在まで一度として精妙で確実に淹れられたことはないが…)。いつの日にか、ポットを持つ側の足をやや後ろに引いて、あいている方の手で鼻クソをほじりながら、傍目には一切体幹が動いていないように見えたままで抽出する…身体操法を体得したい。
 
ついでに、《注湯時の正しい》‘心理’について私見を述べるならば、少なくとも「おいしくなあれ」などと言いながら抽出する間違った心得は、断固として否定する。「臨戦体勢」の身体操法に相応しい、静かに燃えて考え抜いて想い過ぎない、「裂帛の気合」こそが正しい。
 
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コメント

No title
ちんきー URL [2015年03月15日 07時44分]

さすが帰山人さん。
武道武術にも造詣が深い。
思わず「注湯中に膝をえましたら・・・」なーんて考えちゃいましたw

to:ちんきーさん
帰山人 URL [2015年03月15日 11時47分]

う~、私、武‘道’には惹かれないんだよね。
「膝をえます」…コレも膝の屈曲が傍目にわかる程では、それ自体が「居つき」になっちゃう。もっとも注湯時に歩法や運足法が求められるコトは少ないので、(運動会の‘おたま競争’みたいに)走りながらコーヒー淹れてみようか?

No title
じょにぃ。 URL [2015年03月16日 13時58分] [編集]

帰山人さん。

>片足立ちでも前かがみでも中腰でも座り込んで
も可とする。

じょにぃは通常生活は問題ありませんが
正直立ち仕事は苦手です。
さらに定期的に腰痛に襲われます。
MRIで自身の背骨の一つの一部が丸く欠けているのを確認済みです。
1日中立つ事に不安を感じます。
将来立って抽出できなくなった時どうしようかとか考えた事があります。
車付きの少し高めの丸椅子に座って抽出するのはどうかと考えています。
それでカウンターを左右に行き来する。
お客さんの前で座るのは接客の礼儀に反するのかもしれませんが
そうなってしまってもしっかり珈琲が提供できるような態勢は必要かなと思っています。

抽出と言えば
先日、漫画 純喫茶ねこの3巻が出ていたので購入しました。
ネルの抽出が描かれています。
この作者は函館にある珈琲店から学んでいるようです。
お店側の情報と作者の素朴な疑問と一般的な感覚が
丁度良く調和してあまり偏りのない内容になっているのではないかと
じょにぃは感じました。
そういえばバリスタでもネルに関しては
そこまで描いてなかったように感じます。

購入されているのであればぜひ帰山人さんのご意見も伺いたく思います。

to:じょにぃ。さん
帰山人 URL [2015年03月16日 23時45分]

私の戯言は、《身体に大きなケガや障害のない状態を想定》し、《商業的な観点》を外していますから、じょにぃさんの事情を斟酌して応える術がありません。悪しからず…ただ、工夫の余地はあると存じます。
『純喫茶ねこ』…読んでいません。悪しからず…

帰山人様
じゃまめ URL [2015年04月01日 20時20分]

田口、帰山人 両氏の理論に頷きながらも私論(?)を。

すでに諸先輩方が実践していることかもしれません。
両足を任意に開きポットを持たない方の手を調理台の上に着く。
安定した姿勢はこも三点支持法が完結明瞭かと考えます。
加えて、ポットを持つ手は脇を固めることが肝要かと。

柔道での膝の柔軟性と足の追従性、柔道着のアソビ、相撲で言うところの双差しとユルフンではないマワシのイメージです。
私は武道家ではありませんが柔道と相撲の経験が少々あり無理やりこじつけてみました。

to:じゃまめさん
帰山人 URL [2015年04月02日 23時19分]

バッハの求める姿勢では、手を着く三点支持は否定されています。
私の記事は、他者へ教示するためのものではなく、戯言です。
いずれにしても、理想とする注湯のために理想とする姿勢を探すワケで、姿勢自体が目的ではありませんから…その《理想とする注湯》も、田口さんは再現性を前提にしますが、私は即応性を旨とします。求めるものが違えば、手法も多様となる、そういうことだと存じます。

帰山人様
じゃまめ URL [2015年04月02日 23時34分]

ありがとうございます。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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