コーヒーを救え?

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2015 [2015年03月08日 01時00分]
「コーヒーを救え」…アメリカ合衆国のサイエンスライター協会(NASW)主催のジャーナリズム賞を2013年に獲得したヒラリー・ロズナー(Hillary Rosner)による新稿が、『日経サイエンス』2015年4月号に掲載された(原題‘Saving Coffee’/“Scientific American”2014年10月号)。「コーヒーを救え」…誰が? 何のために?…コーヒーは救われるのか?
 コーヒーを救え? (1)
 
 《いま世界で栽培されているコーヒーノキは温暖化に伴って広がる「コーヒーさ
  び病」などの病虫害によって深刻な危機にさらされている。栽培種はほぼす
  べてがエチオピアに生えていたほんの少数の株に由来しており、遺伝的に均
  質すぎて多様性に極めて乏しいことがこの作物を特に脆弱にしている。野生
  株が持つ有益な遺伝子を交雑育種法によって新たに導入するなどの試みが
  進み始めた。》 (ダイジェスト「カギ握る遺伝的多様性」/『日経サイエンス』
  2015年4月号 p.5)
 
上記ダイジェストは、真に‘消化された’ものではない。「コーヒーを救え」の要旨は、以下だ。
 コーヒーを救え? (2)
 《フランスアルプス在住の遺伝学者で、2000年代初めにルワンダのコーヒー
  産業の改革に寄与したことで知られるシリング(Tim Schilling)は、待ち望
  まれていた科学をコーヒー産業に導入することを自らの使命としている。彼は
  現在、コーヒー業界の資金によって新たに設立された非営利団体、ワールド・
  コーヒー・リサーチを率いている。この団体にはピーツやアレグロ、カウンター
  カルチャーなど、大小30のコーヒー会社が資金を出している。》 (同誌 p.90)
 《先に紹介した非営利団体ワールド・コーヒー・リサーチは米国スペシャルティ
  コーヒー協会(SCAA)という業界団体の支援と、グリーン・マウンテンコーヒー
  社およびコーヒービーン・インターナショナル社からの初期出資を得てシリン
  グが設置したものだが、その設立から間もなくして中米でコーヒーさび病が発
  生した。(略)関心を寄せた主体の一つが米国国際開発庁(USAID)で、シリ
  ングにコーヒーさび病に関する研究助成金を申請するよう勧めた。(略)国際
  開発庁は最終的にシリングの計画に資金を提供した。気候変動や病害虫に
  強いコーヒー品種を農家に提供するハイテク育種プログラムを作る計画だ。》
  (同誌 p.93)
 
アメリカ合衆国は1960年代に、東西冷戦下の反共政策の一環として、米国国際開発庁(USAID)を発足し、ノーマン・ボーローグらの育種指導によって穀物の大増産を世界規模で推し進め、これを「緑の革命」と名付けた。対してコーヒーに関して、同時期のアメリカは、‘質’よりも‘量’による世界市場の統制支配を目論んで、国際コーヒー協定(ICA)と国際コーヒー機関(ICO)を生み出した。冷戦終結後、アメリカはICOを脱退した(1993年)が、スペシャルティコーヒーの伸張という‘質’による市場支配に目を向けると、ICOに再加入した(2004年)。この「緑の革命」無きコーヒー産業の半世紀の経緯が、《…コーヒーは科学研究がほとんど行われず、見捨てられた「オーファン作物(孤児作物)」となっている。》(同誌p.89)という表現に繫がっている。但し、これまでもフランスなど欧州各国と、それらを旧宗主国とするコーヒー生産各国で、《コーヒー産業の改革》や《科学をコーヒー産業に導入する》動きが進向してきた事実はある。こうしたシリング(Timothy Schilling)やベルトラン(Benoit Bertrand)らの成果を丸ごと移して抱きかかえるべく、USAIDとSCAAとアメリカ資本のコーヒー企業によって、テキサスA&M大学の「ノーマン・ボーローグ研究所」の支援を呼んで設立した団体こそが、World Coffee Research(ワールド・コーヒー・リサーチ)である。アメリカ合衆国による、半世紀遅れたコーヒー版「緑の革命」の意図を、気候変動と病虫害による《深刻な危機》で覆った物語が、ロズナーの「コーヒーを救え」だ。
 コーヒーを救え? (3)

「コーヒーを救え」を見澄ませば、スペシャルティコーヒーの時代(?)に、アメリカ合衆国が、自らの統制や支配の拡張を目指して推し進める、「コーヒー‘産業’を救え」が実態なのだ。…コーヒーは救われるのか?…私は想う。人間さえいなければ、コーヒーは滅びないのだ。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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