虚心兵名古屋に現わる

ジャンル:学問・文化・芸術 / テーマ:art・芸術・美術 / カテゴリ:観の記:美面 [2014年12月02日 05時30分]
晩秋の朝のことだった。名古屋市科学館の地下のホールに特撮の展覧会が巡回してくる。
 虛心兵名古屋に現わる (1)

「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」
(名古屋市科学館:特別展)
 
科学館の館長は纐纈満だと思っていたので、偏食で遅咲きの声優が館長を名乗るって暴挙が、なんか不思議。すると頭の中で声がする。「せめて館長が樋口真嗣じゃなくって、申し訳ないんだけどさ」…何この声、正論じゃん。「大きな災いがやってくる」…アンタ何言ってんの? それ巡回展の過去の話じゃなくて? 信じんのあんた? そこまで馬鹿じゃなかったよね? 「唐突でごめんな。でもマジで、この街は明日全部壊れるよ。災厄ってさ、本当は不意に襲ってくるんじゃなくて、実際には予兆だって警告だってあるんだ」…館長を名乗る男が声優デビューした駄作アニメじゃあるまいし、でも絶対こんなこと言わないよな、と思ってなんか怖くなる。何なのあんた。誰なの? 「僕は警告だよ」…怖い。不思議なことが起こっている。でも、それを覚えておくべきだったのだ。不思議なこと突飛なことだって起こるのだ。館長が言う。「本企画展の極初期タイトル案には、センセーショナルに『さらば、特撮』と書いてありました」…ちょっと、私の背中がぞくぞくする。このオヤジ普通じゃないよ、絶対おかしい。自分の足が震え始めると、私は少し笑う。「じゃあ、樋口真嗣に任したからな、意地悪するみたいで申し訳ないけど、もちろんその反対だよ」…そして、そのまますうっと薄くなり、消える。私は開催される前に、ちゃんと伝えるべきだったのだ。もっと大きな声で叫ぶべきだったのだ。「成田亨 美術/特撮/怪獣 ウルトラマン創造の原点」を先に招致するべきとか、庵野秀明の解説は鬱陶しいとか、普通に生きててどうやって言うの? でも、もうそんな警告、届かない、伝わらない。災厄そのものが、今目の前で立ち上がる。「特撮博物館が来る前に、この街から逃げ出しなさい」…特撮はネ申ではない。ミニチュアやスーツを並べて見せる存在だけがネ申というわけでもない。大きな災厄がネ申と似た形で空から降りてきて、私たちには判る。傲慢こそがネ申の本質なのだ。だから、オタクたちは自分たちに欲を加えカネを奪おうとするものにも、手を合わせ、膝を折り、拝み、祈る。特撮には寿命がある。なのに庵野秀明たちに任せても、特撮がダラダラと延命するだけなので、特
撮は強引にあいつらを招喚する。その時、私たちは全てが終わるべくして終わるんだと知る。でも、私たちはひたすら生き続けたかったのだ、特撮を終わらせたくなかったのだ。庵野秀明は思いつきで「巨神兵東京に現わる」を作ったらしい。私たちだって、「巨神兵名古屋に現わる」を作って欲しかった。「巨神兵東京に現わる」は9分でいろいろ壊されていくように見えるけど、たぶん作るほうはもっと時間がかかるに違いない。名古屋の「特撮博物館」が56日間も催されるなら、それだけ逃げるチャンスもある。逃げろ。生き延びろ。新しい特撮を自分で創ればいいんだ。オタクの意思なんて知るものか。庵野秀明の気持ちなんて構うものか。消えゆく特撮の中で、館長以外の存在に希望を抱きながら、私は生き、逃げながら待っている。新しい特撮の訪れの前の巨大な災厄「特撮博物館」がやってくる。
 虛心兵名古屋に現わる (2) 虛心兵名古屋に現わる (3) 虛心兵名古屋に現わる (4)

第一の日、円谷英二が消える。第二の日、利光貞三がいなくなる。第三の日、高山良策もなくなる。第四の日、小松崎茂が沈む。第五の日、成田亨も失せる。第六の日、実相寺昭雄が消え、全ては闇と混沌に包まれる。第七の日、「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」は会期を終え、安息の喜びの中で静かに笑う。…これが、これまでから新しい特撮までの災厄の56日間である。特撮短編映画「巨神兵東京に現わる」は、「企画:庵野秀明/巨神兵:宮崎駿/監督:樋口真嗣」と示されていた。つまり、「エヴァの原点は、ウルトラマンと宮崎駿。」ということになる。もしも、そうであるならば、庵野秀明が企画した映画も展覧会も、エモーショナルに『さらば、特撮』というタイトルにするべきだろう。
 虛心兵名古屋に現わる (5) 虛心兵名古屋に現わる (6) 虛心兵名古屋に現わる (7)
それにしても、宮崎駿も庵野秀明も、巨神の兵ではなくて、虚心の兵ではないのだろうか? 素直な心ではなく、虚ろな心という意で、忌まわしき虚心兵だ…「虚心兵名古屋に現わる」。
 
【追記】 2014年12月2日 
上記に、「館長を名乗る男が声優デビューした駄作アニメ」などと『風立ちぬ』が声優としての初仕事かのように記してしまいましたが、その庵野秀明氏は、2000年に『FLCL』(フリクリ)でミユミユの声を、2002年に『アベノ橋魔法☆商店街』で遊星人の声を、既に演じていました。ここに誤りをお詫びいたしますとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。
 
【追記】 2014年12月12日
 虚心兵名古屋に現わる (8)
『ウルトラマン』の変身シーンを合成で生み出し、平成『ゴジラ』シリーズでは特技監督を務め、‘爆破の中野(昭慶)’に対して‘光線の川北’であった川北紘一氏が、2014年12月5日に死にました。その「特撮魂」を偲ぶとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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