夢幻のスペシャルティ3 セルフサービス篇

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2014 [2014年11月15日 01時00分]
某年某月某日、「スペシャルティコーヒーだけの店」と謳っている某コーヒー店を訪ねてみた。どうせ、《スペシャルティコーヒーのもつ本来の旨みや香りは、プレス式で味わえ》とかいう店だろうと、高をくくって暖簾をくぐってみると…そこには予想を超えた「スペシャルティ」が…
 
いや、予想を超えていたのは、暖簾をくぐる前からだった。業界誌にもガイド本にもWebにすら実在する形跡が無い。その筋(どの筋だ?)から聞き込んだ僅かな情報に従い、山道を1時間も進んだろうか。もう行き止まりそうだと思った途端に視界が開けて、山間の棚田の真ん中に巨大な看板が見えた。店名ではなくて、真っ赤な字で『セルフ』と書かれていた。
 
廃屋同然の一軒家の引き戸をガラガッガッガッと開けて、店内へ入る。煤けた壁に、「スペシャルティコーヒーだけの店」と「小350円」と 「大450円 」と「釜(予約)8000円」という貼り紙だけ。他には、何の案内も無い。カウンターに向かって並んでいる5人ほどの列につく。野良着の中年女性が「ディピルトの大ね」、作業着の初老男性が「グラナディラとガケンケ、どっちも小で」…割烹着姿の店のおばちゃんがカウンターの奥から差し出しているカップは、プリンの空き容器!…それにしても出てくるのが早い!…ん?あ!容器の中は、焙煎された豆だ!…「グァテマラ、ありますか?」に、「あるよ。サンセバスティアン。水洗のブルボンと乾式のパカマラ。どっち? 小? 大?」。「…じゃ、両方とも小で」、「ハイ、700万円ね~」。
 
カウンターの端に事務用の机が並んでいる。その机の上に、手前からミル(グラインダー)が機種違いで5台、山と積まれたネル布のドリッパー、コンロ上で沸き立つ大きなやかん、様々なドリップポット、ビーカーやサーバー、大・中・小のコーヒーカップ、その他にも温度計やら布巾やら…なるほど、客が自分で挽いて自分で淹れる『セルフ』の店か。作業着の男性客が声をかけてくる、「ココは初めてかい? ネルでいけるか? あのおばちゃんに言えば、ペーパードリップでもプレスでもサイフォンでも出してくれるぞ。エスプレッソマシンなら店の奥に3台あるし…」。と、カウンターの奥から店のおばちゃんが、「あ~、4台よ! ウチの人、先週また1台買っちゃったのよ、マッタク…あ、初めてのお客さん、砂糖はテーブルの上ね。ミルクは冷蔵庫の中のを使って。5分位歩くと牧場があるから、自分で搾りに行くお客さんもいるけど。シロップやお酒を入れたければ自分で持ってきて。お菓子や食べ物も持ち込み自由よ、但しお皿なんかも持ってきてね~」。…な、何じゃそりゃあ! 「あのぉ~、予約の釜っていうのは?」、「あれは持ち帰り用の豆売り。生豆1キロ単位で焼いた豆を予約販売しているの。ものによっては、8千円より高くなる豆もあるけれど、フフフ」…何じゃそりゃあ! つまり、ココはコーヒーの焙煎所に併設された『セルフ』の店飲み場だ。小が20グラム、大が30グラム、焙煎豆を先払いで買って、後は全て客まかせの『セルフ』ということらしいナ。2種類のグァテマラをネルドリップの一刀淹て。空いているテーブル席を探し、飲み始める。コレはウマい! 店の焙煎も相当に巧いし、自分で好きに淹れたので尚のこと美味い。向かいの席でディピルトを飲んでいる野良着の女性客から、農作業の合い間に焼いたというドゥミ・セックをいただいて、コーヒーの友。こんなにワクワクする「スペシャルティ」は、珍しいナ。
 
ウム、このコーヒー店、かなりイケるなぁ。「スペシャルティコーヒー」の高尚なあり方を観た。
 
     ダメスペ
 (※残念ながら、本記事の某店は私の脳内でしか営業していない夢幻の悪戯である)
 
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コメント

おお
smalltei URL [2014年11月15日 20時54分]

うーむ、これは、帰山人さんが開店するしかないですね〜!

to:smallteiさん
帰山人 URL [2014年11月16日 00時50分]

ヤダね。「スペシャルティコーヒーだけの店」なんて掲げる店、オレ嫌いだもん。
言うまでもなく、この店は「讃岐地方の製麺所合体型セルフうどん個人経営店」がモデルですが、そのテの店が潰れまくっているコトを忘れちゃあいけない。道楽でカフェは100年続かねーよ(笑)

No title
kino URL [2014年11月17日 08時40分] [編集]

ハハハ、さすがに直ぐ気が付きましたが・・・・・読みながら頭の中にリアルに想像してみました。
こんな会話はありえません。帰山人さんが一人何役もやるということになります。もしくは演出してドラマを作ってください(笑)

to:kinoさん
帰山人 URL [2014年11月17日 23時12分]

ありえない?ありえないなんてことはありえない。全ての幻想には必ず既有がある。私は思うのだけれど、珈琲という飲み物の中には、何かしら人間の知的欲望を摩耗させる要素が含まれているに違いない…

コモリ URL [2014年11月19日 23時58分]

帰山人さんが、珈琲そのものではないかと思う時がありますけども。芳醇で、苦味ばしってて、コクがあって。。

時折アフターテイストに、微かな甘みも感じるので。笑

to:コモリさん
帰山人 URL [2014年11月20日 00時14分]

この指摘には2つの真実が含まれているネ。
まず1つは、珈琲も私も、「必需」や「必須」とは対極にある「嗜好」の存在でしかないこと。
もう1つは、私の露悪や諧謔は、他人との交流のための手段ではなくて真意であること。言い換えれば、珈琲に関して他人がどうなろうが、知ったこっちゃあない。
つまり、私が珈琲そのものか否か、それは私の関心事では無いので、判断はお任せします。

No title
ナカガワ URL [2014年11月21日 00時42分]

いつもながら純粋なお客様ですね。いいとこにもわるいとこにもお金を使ってくださる。ベテランのお客様です。コーヒーのお客様にはこうした他の世界にはいないようなお客様がいて幸せと思っています。想像力とユーモア、なくさないようにしたいです。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2014年11月21日 02時09分]

直観と知見と推論、言い換えれば、感性と悟性と理性。これらを塩梅よく保って、笑い続ける…なかなかに、もたないコトです。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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