ウマいコーヒー

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2014 [2014年01月01日 00時00分]
2014年の新春を迎えて、ウマとコーヒーについて、私の夢想を駸駸と向かわせてみよう。
 
 
【アラビアに始まり】
 
今日に通ずる飲料としてのコーヒーの故郷は、アラビア半島南部である。今日に通ずる改良種としてのウマの故郷も、アラビア半島南部である。共に後世‘アラビア’の名で拡がる。
   ウマいコーヒー (1)  
 《現代の馬のなかで、アラブ馬はもっとも重要な馬種の一つである。(略)…紀
  元一世紀後半から、アラビア半島南部でも、馬が急速に増加していたことが
  わかる。(略)数世紀の間、頭数こそ多くはなかったが、砂漠の民ベドウィン
  によって良質の馬が生産されていた。伝承によれば、諸部族の分散や拡散
  によって、さまざまな地域に優秀な種牡馬を擁する生産牧場が成立していっ
  たらしい。》 (本村凌二『馬の世界史』/講談社現代新書 2001年/中公
  文庫 2013年)
 
カスピ海南岸産の山馬を家畜化した遊牧民は、アラビア半島を南下しつつアラブ種の馬を精製した。その頃のベドウィンは、まだコーヒーを知らなかっただろうが、後にはアビシニアへも馬を伝える。1000年以上の時を経て、原産地であるアビシニア高原よりアラビア半島へ渡って栽培されたアラビカ種のコーヒーは、ベドウィンの生活に深く根付き、さらにイスラム圏の拡大と伴に後にはカスピ海南岸まで飲用の習慣が拡がる。ウマは北から南へ、コーヒーは南から北へ、時を隔てているが、共にその文化は‘アラビアに始まり’…
 
 
【ある晴れた日の馬は森の中にたたずむ】
 
   ウマいコーヒー (2) 
キリスト教圏ヨーロッパ諸国を圧倒したイスラム圏オスマン帝国は、1683年に残る仇敵、‘黄金の林檎’ウィーンへ再び触手を伸ばし包囲戦を挑んだ。しかし、オーストリアの救援に駆けつけたポーランド軍の有翼重装騎兵フサリアに急襲されてオスマン軍は潰走した。フサリアのウマは、従前オスマン軍から鹵獲したアラブ馬を大規模に飼育したものである。この包囲戦に続く大トルコ戦争時にも、イングランド軍の尉官がオスマン軍よりアラブ馬を鹵獲した。このウマこそ、後世にサラブレッド三大始祖の一として挙げられる「バイアリーターク」であった。また、包囲戦でポーランド軍の麾下にあったコルシツキーは、戦利品のコーヒー豆を貰い受けてウィーン初のカフェを開いた、という伝承もある。いずれにしてもウマもコーヒーもその所伝では、17世紀後半に今度は時を隔てず共に、ウィーンの森に捨て置かれたことでヨーロッパ諸国へと渡る…‘ある晴れた日の馬は森の中にたたずむ’
 
 
【コーヒー屋で馬に出会う】
 
コーヒー屋でウマに遇ったことを長田弘が随想として寄せた雑誌は、「バイアリーターク」の24代後の子孫である‘皇帝’「シンボリルドルフ」が表紙を飾った『優駿』であったか…
   ウマいコーヒー (3)
 《ふと気配をかんじて、目をあげると、おおきな窓ガラスのすぐむこうから、二つ
  の目がまっすぐにわたしをみつめていました。それは、何ともいえない深々と
  した目の色をした馬の二つの目で、それまでわたしはこれほどまぢかに馬の
  目をみたことがありませんでしたし、そのときわたしは、朝の光りがおおきな窓
  ガラスいっぱいにはじけるとても静かな古いコーヒー屋に、一人ですわってい
  たのです。(略)それは、おそらくほんのわずかなあいだの出来事だったはず
  ですが、わたしには、それはまるで束の間の無限のようにおもえたんです。馬
  は、身をかえすと、おおきな窓をいっぱいに横切って、わたしのなかになんだ
  か奇妙な感動といったような感情を深々とのこして、そのままうつくしく黄葉し
  た銀杏並木のつづく古い街の明るい大通りの舗道をゆっくりと遠ざかって、ふっ
  と姿を消したのですが、そのときどうして秋の街の朝の舗道を、一頭の馬が悠
  然とあるいていたのか。》 (長田弘「コーヒー屋で馬に出会った朝の話」/『優
  駿』1985年1月号 に寄稿/『86年版ベスト・エッセイ集 母の加護』 文藝春
  秋:刊 に収載/『日本の名随筆 別巻3 珈琲』1991年 『日本の名随筆 別巻
  80 競馬』1997年 共に作品社:刊 に再録)
 
ウマがコーヒー屋(京都大学北門前の進々堂か?)をのぞき込んでいたのは何故か、そのウマはアラブ種の血統の内にあったのか、それらは窺い知る由もない。だが、或いはウマが見つめていたのは窓際に座っていた詩人ではなくて、遠い昔‘アラビアに始まり’、後にヨーロッパ世界へ旅して‘ある晴れた日の馬は森の中にたたずむ’、懐古とも幻想ともつかない記憶だったのではないか?‘コーヒー屋で馬に出会う’話は、コーヒーの香りが朝の街に漂い流れて、ウマに自身とコーヒーの来し方を想起させた話であったのかも…
 
 
 《もしも馬がいなかったならば、その数千年はいかにして流れたであろうか。(略)
  …長い歴史のなかで馬はわれわれに多大の恩恵をもたらした。それを思うとき、
  われわれはこの気高く美しい動物に歴史の負債を返済したといえるだろうか。》
  (本村凌二『馬の世界史』/講談社現代新書 2001年/中公文庫 2013年)
   ウマいコーヒー (4)
もしもコーヒーがなければ、人類の数百年はいかにして流れたであろうか。それを想うとき、私たちは香り高く美しいコーヒーに対しても恩恵を施して、歴史の負債を返済できるのであろうか。コーヒーの行く末は誰が決めるべきか…2014年も、ウマいコーヒーを追究しよう。
 
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コメント

あけましておめでとうございます。
じょにぃ URL [2014年01月01日 00時33分] [編集]

帰山人さん。

今年も宜しくお願い致します。

今年は馬のように速く
スマートに的確に行動し
うまいうまいと
飲みホース珈琲を作れたら良いなと思う
じょにぃでございます。

No title
ちんきー URL [2014年01月01日 07時14分]

明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いしますm(_ _)m

今年は「サブ4」を目指して頑張りたいと思います!
帰山人さんとの「共走」も去年以上に出来ればと思っていますo(^-^)o

No title
シマナカロウ URL [2014年01月01日 14時40分]

帰山人様
新年明けましておめでとうございます。
今年も気散じ三昧のブログ、期待してまっせ。
ついでにウマウマも(笑)。

No title
しんろく URL [2014年01月01日 18時58分] [編集]

今年もよろしくお願いします。
今年の年賀状に、帰山人さんに撮ってもらった「あいの土山マラソン」の写真を使わせていただきました。

to:じょにぃさん
帰山人 URL [2014年01月01日 19時59分]

あぁ飲もうと構えないでもしらずに飲みホース珈琲が好いよね。今年もヨロシク。

to:シマナカロウさん
帰山人 URL [2014年01月01日 20時07分]

嗚呼、馬に人参、ロウ師に珈琲、ってコトですね。気が向いたらコーヒー差し上げますから、ロウ師こそシッカリ駆けてくださいヨ。

to:ちんきーさん
帰山人 URL [2014年01月01日 20時10分]

私との共走は卒業して、サブ4を狙いなさい!背を拝ませていただきますので、今年もヨロシク^^;

to:しんろくさん
帰山人 URL [2014年01月02日 00時41分]

しんろくさんが走りたいだけ走れる年になるように願っております。今年もヨロシク。

今年も宜しくお願いします。
珈琲国王 URL [2014年01月04日 21時37分] [編集]

今年も宜しくお願いします。
色々お勉強させていただきますm(__)m

to:珈琲国王さん
帰山人 URL [2014年01月04日 23時40分]

ヨロシクです。教導できる自信は何もありませんが、勝手に何かを学んでいただければ忝く存じます。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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