コーヒーの無形文化遺産

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年12月20日 23時00分]
‘Turkish coffee culture and tradition’(トルココーヒーの文化と伝統)が、「無形文化遺産の保護に関する条約」に基づく第8回政府間委員会において、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)のIntangible Cultural Heritage(無形文化遺産)の代表一覧表に記載されることが、2013年12月4日に決定された。ユネスコの別のシステムである文化遺産では、2000年に「キューバ南東部のコーヒー農園発祥地の景観」が、2011年には「コロンビアのコーヒーの文化的景観」が、いずれも世界遺産として登録されている。今般は、無形文化遺産として「トルココーヒーの文化と伝統」が認められた。興味深い報である。
 
コーヒーの無形文化遺産 (1)
 ‘Turkish coffee culture and tradition’ 「トルココーヒーの文化と伝統」
 トルコ(ターキッシュ)コーヒーは、豊かで伝統的な共同体の文化を伴って、特殊
 な調合と淹れ方の技法を備えている。焙煎したての豆を細かな粉に挽き、その
 挽いたコーヒーと冷たい水と砂糖とをコーヒーポットに入れ、それを火床の上で
 泡立つようにゆっくりと淹てる。この飲料は小さなカップで供され、水の入ったグ
 ラスが添えられる。人々が談話や情報の共有のために会い、あるいは本を読む
 ために、主としてコーヒーハウスで飲まれる。その伝統自体が、もてなしと交友、
 そして人生の日々の歩みに浸透している洗練された風情、それらの象徴である。
 友人同士で招かれ合って飲むコーヒーでは、親密な会話や日々の問題を共有
 する機会となる。また、トルココーヒーは結婚式や祝祭日など社交の節目にも
 重要な役割を果たしていて、その知識や儀礼は家族間での見聞や参加を通じ
 ながら伝承されていく。飲み終えたカップに残った粉で、その人の運勢を占うこ
 ともする。トルココーヒーは、時に文学や歌などで讃えられ、あるいは冠婚葬祭
 に不可欠でもあり、トルコにおける文化的遺産の一部とみなされる。
 (無形文化遺産の説明/帰山人:訳)
 
トルコでは、‘Turkish Coffee Culture and Research Association’(TKKAD/トルココーヒー文化研究協会)が国内有数のコーヒー会社によって2008年に設立された。2010年には、トルコ文化観光省により「トルココーヒー文化」が国定無形文化遺産リストに挙げられていた。近年に伝統的なトルココーヒーの消費が伸び悩んで減少し始めたこと、これにトルコの業界も政府も危機感を抱き、対策を講じようとしたのである。こうした動向の先に、今般、ユネスコ無形文化遺産となった「トルココーヒーの文化と伝統」が存在する。
 
コーヒーの無形文化遺産 (2) コーヒーの無形文化遺産 (3) コーヒーの無形文化遺産 (4) コーヒーの無形文化遺産 (5)
旧来の無形文化遺産でコーヒーが絡む例として、‘Oxherding and oxcart traditions in Costa Rica’(コスタリカの牛飼いと牛車の伝統/2005年宣言)などが挙げられる。19世紀半ばからコスタリカの牛車(carreta)は、セントラルバレーから山を越えてプンタレナスまで10~15日間を要してコーヒー豆を搬送するために使われていた。その他にも、‘Iraqi Maqam’(イラクのマカーム/2003年宣言)や‘Naqqāli, Iranian dramatic story-telling’(ナガリー、イランの劇的語り部/2010年記載/緊急保護対象)などで、演場としてコーヒーハウスが登場している。この他にコーヒーハウスが芸能の演場として現れる無形文化遺産は、‘Arts of the Meddah, public storytellers’(大衆講談師メッダの技芸/2003年宣言)、‘Âşıklık〈minstrelsy〉 tradition’(アシュクルク〈吟遊詩人〉の伝統/2009年記載)、‘Karagöz’(カラギョズ/2009年記載)など、トルコに多くみられる。トルコのコーヒーハウスにおいて多彩な芸能が演じられてきたこと、それらの伝統が既に無形文化遺産として認められていること、コーヒーハウスが絡む無形文化遺産のいわば「集成」として、「トルココーヒーの文化と伝統」が改めて遺産になった、とも捉えられようか。
 
コーヒーの無形文化遺産 (6)
 《コーヒーは、重要な客をもてなすための飲料であった。ごく最近まで、村落部
  などでは、コーヒーを飲む道具のセットは一部の裕福な家の客室(ムサフィル・
  オダス)くらいにしかそなえつけられていなかった。村の客室は、別棟の平屋
  建てになっていて、五~六世代まえ祖先をおなじくする父系血縁集団(スラレ)
  の共有財産である。客室は、外来客のための宿泊施設であるとともに、村の
  男性成員の集会場兼社交場でもあった》 (松原正毅「トルココーヒーの系譜」
  /月刊喫茶店経営別冊『blend ブレンド―No.1』/柴田書店:刊/1982年)
 
トルコのKahve(カフヴェ/コーヒー)やKahve-hane(カフヴェハーネ/コーヒーハウス)を取り巻く文化や歴史を考える際、その多くはスーフィズムなどイスラムの影響を強く語り、やがて後のサロンやクラブに類するヨーロッパのカフェにも通じる機能的特質が示される。確かに重要な観点ではあるが、アジア遊牧民にも由来する父系血縁集団の因習や風俗と、トルココーヒーやカフヴェハーネとの関連にも目を向けるべきか、私はそう考えている。アジア的共同体にみられる共有財としてのトルココーヒーの文化と歴史、そうした視座はラルフ・S・ハトックスの『コーヒーとコーヒーハウス ―中世中東における社交飲料の起源』(斎藤富美子・田村愛理:訳/同文舘出版:刊/1993年)や臼井隆一郎の『コーヒーが廻り世界史が廻る 近代市民社会の黒い血液』(中央公論社:刊/1992年)といった名著でも明らかに欠落している。多彩な芸能の演場としても機能したカフヴェハーネ、その「トルココーヒーの文化と伝統」が無形文化遺産として認められた今般、新たな追究を想う。
 
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コメント

No title
ナカガワ URL [2013年12月21日 20時47分]

ギリシャはイチャモンつけないのでしょーか?

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年12月22日 00時22分]

もちろん登録前から怒っているし、今後もイロイロ言うでしょう。でも、第8回政府間委員会メンバー国だったんですよ、ギリシャは…つまり政府レベルでは言いにくいワケで(笑)

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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