以後のスープ

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2013年12月14日 23時30分]
辰巳ハマ(通称:浜子)は、‘料理研究家’や‘料理家’と呼ばれることを嫌って‘主婦’と呼ばせたがったが、その娘である辰巳芳子は、どうなのだろうか? 「確かな味を造る会」の最高顧問で、「良い食材を伝える会」と「大豆100粒運動を支える会」との会長で、食品販売業「茂仁香」の社長である辰巳芳子が主演した映画を、「みのかも文化の森」へ観に行こう。
 いのちのスープ (1)
 
『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』 観賞後記
 
ポタージュ・ボン・ファム、地獄炊き、心臓焼き、白和え、梅干し、玄米スープ、けんちん汁、御節、これに遠野の多田克彦、浪岡の福士武造、山武の富谷亜喜博、竹田の加藤至誠、さらに飯山市東小学校の児童ら、滋賀医科大学の田村祐樹、大津市民病院の津田真…平成24年度文化芸術振興費補助金の500万円助成など小さく見えるような力作(?)だ。公共ホール独特の座り心地の悪い椅子で腰を痛くしながらでも、欠伸一つしないで上映113分間に耐えなさい…みたいな‘いかにも’の仕立て、悪くはないけれど面白味も薄い。果たして、『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』 の主題は、‘天のしずく’であるのか、それとも‘辰巳芳子’なのか、あるいは‘いのちのスープ’なのか…観終わっても判らない。
 いのちのスープ (2)
 
 《撮影中には、こういう映画にしようと考えたことを超える出来事がたくさん
  起きました。まず当たり前のことで言うと3.11があります。そして大き
  かったのは、辰巳さんのスープを友だちに作ってあげていた宮崎さん
  から届いた手紙ですね。こんなすごいことが起きるんだ、絶対にカメラ
  に収めなきゃと思いました。あれが映画にもうひとつの奥行きを与えて
  くれました。》 (「河邑厚徳監督インタビュー」/『STUDIO VOICE』)
 
東日本大震災の「3.11」を看過しろとは言えないが、シナリオを変更してまで原発事故云々を作品の冒頭に加えた結果、ある種の指向へと観客を誘導していること、否めない。本作の主題が‘天のしずく’であるのならば、不安へ扇動する不自然な人為は合わない。長島愛生園に暮らす「宮崎さんから届いた手紙」を看過しろとは言えないが、であるなら辰巳芳子の結核による長き療養の体験も取り上げるべきか、という疑義も抱いてしまう。本作の主題が‘辰巳芳子’であるのならば、女寡に花が咲く話ばかりじゃあ面白くもない。
 いのちのスープ (3)
 
 《日本の食に提言を続ける料理家・辰巳芳子。彼女が病床の父のために工
  夫を凝らして作り続けたスープは、やがて人々を癒す「いのちのスープ」
  と呼ばれるようになり多くの人々が深い関心を寄せている。》 (映画「天
  のしずく」について/Webサイト
 
‘いのちのスープ’は、いつから「いのちのスープ」と呼ばれるようになったのか? 初めは辰巳家のスープ、次に辰巳芳子のスープとなり、さらに‘いのちを支えるスープ’となって、あるいは‘いのちを養うスープ’となり、ついには‘以後(いのち)のスープ’と化したのか?
 いのちのスープ (4)
 
 《日本は、あの激烈な高度経済成長のさなかまで、このように香り高い海の
  幸山の幸をたわわに守り通し、国民を大きくやしない育てていたのだ、と
  いう驚きを本書に読みとるとき、私たちは、羨望や旧懐以上に、悔恨と
  痛憤にこそ胸を焼かずにいられなくなる。(略)私たち一人一人が、よほ
  ど根源的な回心と転生でこの大事な列島にいのちを吹きこみ返さない
  かぎり、辰巳夫人がここに証言された味の生きものたちは、ふたたび甦
  ることはないだろう。──これがどんなに深刻なことか、切実にして重大
  な“人間の問題”か。》 (荻昌弘 「解説」/辰巳浜子 『料理歳時記』 中公
  文庫版)
 
映画『天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”』 の主題が‘いのちのスープ’であるのならば、そう呼ばれるべきところは、半世紀もとっくの以前に辰巳ハマが既に示し終えていた。本作は、グループ現代とNHK、2つの陣営が企画・製作しただけあってセキュアで手堅い。本作は、河邑厚徳が監督・脚本であるだけに弛みもそつも無い…古いNHK特集の臭い。具だくさんで濃厚なところはまぁケッコウだが、汁気が少なくてどうもサッパリしない作品? その映画の中で栗田宏一が各地で土を集めて並べて辰巳芳子と対峙するシークエンス、そして上映後の「栗田宏一 アフタートーク」、これらだけが真に汁気のある‘人間の問題’を提示していて奥行きある‘以後(いのち)のスープ’のよう、清爽と愉悦で胸を躍らせた。
 
コメント (0) /  トラックバック (0)

コメント

この記事にコメントする

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://kisanjin.blog73.fc2.com/tb.php/636-bd98de3a
編集

kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

09 ≪│2017/10│≫ 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
Powered by / © Copyright 帰山人の珈琲漫考 all rights reserved. / Template by IkemenHaizin