予期が上にも予期ものを

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年09月07日 23時00分]
大倉陶園のカップでコーヒーを供する店は、大坊珈琲店や丸福珈琲店など、往往にある。
 
 《大倉陶園は大正七年故大倉孫兵衛氏の発意に依り故大倉和親氏が翌八
  年から工場建設に着手されてより実に五拾有余年ひたすら美術品と称し
  うる陶磁器のみを焼き続けてきた 何百年の伝統を誇る独逸のマイセン窯
  や仏蘭西のセーブル窯の古さには比すべくもないが品質の良さは之ら先
  進諸国の名窯を遥かに凌駕している 良きデザインは最も機能的である
  将に大倉陶園の碗皿は使い易かったし汚れにくかったし毀れにくかった
  甚だ優美なる実用品であった 創業者故大倉孫兵衛・和親両氏の遺志を
  うけた歴代の経営担当の方々の並々ならぬ御苦労の賜であろう》 (船越
  敬四郎「大倉陶園とその洋陶器」/船越敬四郎:著『珈琲・九百九拾五圓』
  /西村銕次郎・船越都:編『偲ぶ 茜屋珈琲店主人』に収載)
 
1919年の創業より大東亜戦争敗戦までの約四半世紀間に製作された「オールド大倉」、槇田秀治氏収集の約200セットが並べられる公立美術館として初めての展覧会を観る。
 予期が上にも予期ものを (1) 予期が上にも予期ものを (5)
 
「オールド大倉の世界展」 岐阜県現代陶芸美術館
 
 予期が上にも予期ものを (3)
‘セーブルのブルー、オークラのホワイト’などと称えられる滑らかで輝く白生地が美しい。‘岡染め’による柔らかで深みのあるブルーローズが美しい。思わず見入る美しさである。もっとも、大倉陶園の硬質磁器に不味いコーヒーや紅茶を入れて出されると、その器にも気品より厭味を感じてげんなりしてしまう私である。道楽趣味も行き過ぎれば、常用の美を失って滑稽と哀れを気取ってしまうものだ。しかし、今般の「オールド大倉の世界展」に並んだ碗皿には、そうした厭味を感じるものが何故か少ない。むしろ、ガラスを叩き割り碗皿を取り出して、淹れたコーヒーや紅茶を注ぎたくなる衝動など感じる品すらもあった。
 予期が上にも予期ものを (4)
例えば、白磁金彩デミタスセット(No.7/1929年)で‘亜剌比亜のブルゴサ’を、白磁銀彩緑蒔珈琲碗皿(No.21/1935‐1945年)で‘爪哇のバゲレン’を、染付デミタス碗皿(No.44/1928年)では‘墨西哥のコアテペツク’を、橙蒔金彩レリーフ碗皿(No.101/1926年)では‘蘇門答剌のアンコラ’を、ルリ金彩白盛り紅茶碗皿(No.145/1935‐1945年)では‘哥倫比亜のブカラマンガ’を飲んでみる…さぞ美味いだろうなぁ。楽しき妄念を浮かべて観る。だが、世紀を超えても碗皿は残っているが、肝心の中身が今では失われてしまった。これこそが、「オールド大倉」のコーヒー世界なのか? 実以て残念だ。
 
 《是は利益を期して工場を起す事出來ず。寧ろ道樂仕事につき一人の獨業と
  して他に迷惑を掛けぬ趣向でなければ思ふ様な道樂は出來ぬ。依て他に
  關係なく獨立にて作るを良とするものなり。全く商賣以外の道樂仕事として、
  良きが上にも良き物を作りて、英國の骨粉燒、佛國の「セーブル」、伊國の
  「ジノリー」以上の物を作り出し度し。利益を思ふてはとても此事は出來ぬ
  故、全く大倉の道樂として此上なき美術品を作り度し。》 (大正七年七月十
  八日 大倉孫兵衛 手記/1918年)
 
 予期が上にも予期ものを (2)
大倉陶園の《良きが上にも良き物を》という理念は、良質カオリンの配合と摂氏1460度の高温焼成に、イングレイズの‘岡染め’や‘瑠璃’に、エンボス技法や金蝕などに、現出している。しかし、「オールド大倉」の後、その上を行く《良き物》は果たして生み出されたのか? 《良きデザインは最も機能的である》…「オールド大倉の世界」では時が止まった。それでも、一見の価値はあった…慊焉たるも慊焉としない…複雑な心持ちで館を去った。「オールド大倉」は時を失い、‘予期が上にも予期ものを’注ぐべきコーヒーを失っていた。
 
コメント (0) /  トラックバック (0)

コメント

この記事にコメントする

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://kisanjin.blog73.fc2.com/tb.php/607-bff1175e
編集

kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

06 ≪│2018/07│≫ 08
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
Powered by / © Copyright 帰山人の珈琲漫考 all rights reserved. / Template by IkemenHaizin