卑しいダッバー

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2013年09月01日 01時30分]
とある2013年日本公開の‘ボリウッド4’、『きっと、うまくいく』(3 Idiots)はアーミル・カーン、『タイガー 伝説のスパイ』(Ek Tha Tiger)はサルマーン・カーン、『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』(Don 2)と『命ある限り』(Jab Tak Hai Jaan)はシャー・ルク・カーン、何でもカーンでも三バカーン、いや三大カーンが主演すりゃイイってもんじゃねぇだろう!
 
 《娯楽映画にはふつう五~六曲挿入歌があり、その歌にあわせてヒーロー、
  ヒロインが歌い踊るシーンが必ずある。(略) さて、この歌なのだが、イン
  ド映画の場合歌はほとんどすべて吹き替えである。(略) こういう場合、
  欧米のミュージカル映画では俳優の方が偉くて歌手は往々にして蔭の
  人となるのだが、インドの場合は歌手の方が断然偉い。…何よりも映画
  の構想の段階でまず歌がレコーディングされ、画面はそれに合わせて
  後から作られるわけだから、俳優の演技は歌に従う、ということになる。》
  (松岡環「音楽こそが映画大国インドを支えているのだ」/『包』〈PAO〉
  No.8/包出版:刊/1986年)
 
長尺で派手で歌って踊る‘ボリウッド映画’あるいは‘マサラムービー’、このインド娯楽映画の常識を覆す「おいしい」作品が予想外の大ヒット…インド人もビックリ?…観てみよう。
 卑しいダッバー (1)
 
『スタンリーのお弁当箱』(Stanley Ka Dabba) 観賞後記
 
不粋で無用な‘文部科学省特別選定作品’で残念だが、‘インド(映画)で考えたこと’や‘インド(映画)でわしも考えた’などとリキむ必要もない。なるほど「おいしい」佳作である。
 
 卑しいダッバー (2) 卑しいダッバー (3)
映画本篇の前置きに2つの短編アニメーション。アモール・グプテ監督(製作・脚本・出演)の原画による‘映画フィルムを自転車で運ぶ親子’のアニメ、次にギタンジリ・ラオによる‘弁当を奪い合う2人の応酬’を描いたアニメ。この2つのアニメが本篇自体のイントロダクションでもありアブストラクトでもありサマリーでもあり、安易でお気楽な本篇の筋立てを埋めるパコラとサモサの風情…見事な出来映えの前菜2品、かなり「おいしい」のである。
 
 卑しいダッバー (4) 卑しいダッバー (5)
アモール・グプテ演ずる口卑しく意地汚い国語教師ヴァルマーが、グプテの実子パルソー演ずる小学生スタンリーの将来像であることに疑いない。実際に本作は‘ワークショップ’と口卑しく偽って撮影し、意地汚くこっそりと仕立てた‘ムービー’であり、つまりは、食によるハラスメントを描いた本作自体がハラスメントな存在。実の親子で演じている卑しさが登場する食べ物をオツな味にする…「いやしい」からこそ、かなり「おいしい」のである。
 
 《インドは、僕にとって鏡の向こう側の世界である。日本とは正反対の価値観
  がある。僕はそれを「インド世界」と呼んでいる。インド世界は森羅万象の
  ゴッタ煮。壮大にして悠久の「カリー世界」ではないだろうか。》 (浅野哲哉
  『インドを食べる』/立風書房:刊/1986年)
  卑しいダッバー (6)
 《インド東部ビハール州の小学校で給食を食べた児童23人が死亡した事件
  で、警察は24日、小学校の女性校長を殺人などの容疑で逮捕した。(略)
  児童は学校で調理され、無料で提供された給食のカレーを食べた直後、
  体調を崩し、搬送先の病院などで死亡した。これまでの調べでは、カレー
  の調理に使われた食用油から猛毒の殺虫剤の成分が検出された。調理
  師は「食用油から異臭がする」と訴えたが、食材調達も担当している校長
  は、そのまま使うよう強要したという。(略) 無料給食は、貧しい家庭の子
  供たちを登校させるための方策として、インド国内の多くの学校で提供し
  ている。しかし、事件以降、ビハール州では給食を取るのを拒否する子供
  が増えているという。》 (毎日新聞/2013年7月26日)
 
「カリー世界」であるインドでは、食べて生き食べて死に、食べずに生き食べずに死ぬ? 『スタンリーのお弁当箱』に登場する弁当箱Dabba(ダッバー)は、「少年H」が長じて著した『河童が覗いたインド』(妹尾河童:著/新潮社:刊/1985年)でも描かれている。ダッバーには、《穴があいている。「この穴に錠をかけておくと他人に盗み食いされない。簡単に開けば“食べたい”という欲求を起こさせることにもなるからね」と。弁当箱にもインドが…。》、と河童さんは言う。その通り、ヴァルマーの盗み食いや強請り食いは‘ダッバーの穴’であり、孤児スタンリーの存在は‘ムンバイ「カリー社会」の穴’なのであろう。
 卑しいダッバー (7) 卑しいダッバー (8)

『スタンリーのお弁当箱』を観てみれば、歌っているし踊ってもいるので‘ボリウッド映画’であるし、食べてばっかりの‘マサラムービー’でもある。だが、《映画を見終わったのち、必ずカレーが食べたくなる、この『スタンリーのお弁当箱』はそんな映画です》(映画公式Webサイト:作品紹介)という惹句は大ウソ。観終わった後に必ず他人の弁当箱を漁りたくなる「いやしい」‘マサラムービー’、ソンな映画、いや、トクな「おいしい」映画ダッバー。
 
コメント (0) /  トラックバック (0)

コメント

この記事にコメントする

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://kisanjin.blog73.fc2.com/tb.php/604-ce9ea9b0
編集

kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

06 ≪│2018/07│≫ 08
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
Powered by / © Copyright 帰山人の珈琲漫考 all rights reserved. / Template by IkemenHaizin