蝉時雨

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年08月19日 01時00分]
立秋を過ぎて2013年8月12日、「大坊珈琲店」の大坊勝次氏よりコーヒー豆が届いた。同封の葉書には、《先日「薫風」というブレンドを下さいというお客様いらっしゃいました。キサンジンさんから聞いたらしい。今回は「蝉時雨」です。》、と。叱咤と思えばほろ苦く、小言と思えばやや酸い。「蝉時雨」は深くも軽やかに秋への移ろいを感じさせる、今般の私には酸楚がちにも響くような。「大坊珈琲店」のコーヒーは、想いの外に爽やかである。
   蝉時雨 (1)
 《青山通りぞいの建物の2階、枯葉色をした木の看板にさそわれて店内に
  入る。店の中も枯葉色の木を使っており、なかでも大きくゆがんだ(!)
  りっぱな松の一枚板のカウンターがでんと据えてある。 ボソボソと乾い
  た音のモダンジャズが流れる中、コーヒー豆を焼いたときの芳しい香り
  が、どっとしてくる。毎朝、店の中で、主人の大坊勝次さんが、手廻しの
  ちっちゃな焙煎機でガラガラと豆を焼いているからだ。で、店に入ったと
  たんに、何やらどっとリラックスした気になれ、それでいて、とてつもない
  おいしいコーヒーにありつけるような嬉しい予感もこみ上げてくる。 (略)
  口あたりのよい苦味、強烈な香り、そしてかすかな甘味がとろりとした
  コクに溶け込み、舌の上を流れる。これは“朝日のように爽やか”だ、な
  どと思わず言ってみたくなる。》 (「全国珈琲屋171選」:65/月刊喫茶
  店経営別冊『blend ブレンド―No.1』/柴田書店:刊/1982年)
 
「蝉時雨」が届いて3日後の2013年8月15日、またも「大坊珈琲店」より葉書が届いた。
   蝉時雨 (2)
 《誠に残念なお知らせなのですが、当ビル取り壊しのため、十二月にて
  大坊珈琲店は閉店致します。 一九七五年の開店以来、三八年間、
  スタイルを変えずに続けてこられたのは、偏に皆様の御支援の賜物
  です。ここに改めて心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
  今後のことは今のところ未定です。店主は脱毛には悩まされており
  ますが、人間ドックは全面無罪。新展開に意欲満々なのですが。》
 
今2013年6月に発売された『KINFOLK』(日本版:JAPAN EDITION VOLUME ONE/ネコ・パブリッシング:刊)の「東京のお気に入りコーヒーショップ5選。」では、渋谷区の界隈4店「Little Nap」・「OMOTESANDO KOFFEE」・「BREAD, ESPRESSO &」・「BE A GOOD NEIGHBOR」に、ポツンと山谷(台東区)の「café Bach」を加えている。それは選者の江口研一氏の任意であるし、《是非とも、Café Bachに一度は足を運んでいただきたい》という言には同意するが、ここは表参道(港区南青山)の「大坊珈琲店」を挙げても好かったのでは?…そう私は思っている。‘Kinfolk’(kin:血族+folk:俗衆)の語が示す通りに偏好な臭いのする‘オサレ’雑誌を、《正直で自然体》などと真受けはできないが、“KINFOLK MAGAZINE”のコンセプト「小さくて新しい発見の日々」なんぞ「大坊珈琲店」にピッタリではないか?…“Softly, As In A Morning Sunrise”である。
 
大坊勝次氏はガラガラと焙煎機を廻しながら、私は煙に巻かれながら、カウンター端の内と外でコーヒー談議…この意欲満満の空間を失うことになるとは、痛恨の思いである。大坊勝次氏は会話中にフッと間を空けることがある…沈思黙考の数秒、時には十数秒、その間と後の言葉は常に爽やかである。今般の「大坊珈琲店」閉店の報を聞きつける巷、冬まで「蝉時雨」が続きそうであるが、大坊氏には沈思黙考の後に爽やかな再開を願う。
 
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コメント

No title
シマナカロウ URL [2013年08月19日 13時22分]

帰山人様
同じ葉書が届きました。悲しいね。あの斜めに傾いた黒光りしたカウンターがなくなっちゃうなんて。あの奇妙な〝間〟をもつ修行僧のような大坊さんがいなくなっちゃうなんて。
えっ? まだ早い? そうでした。髪もホトケもない、が正しい(笑)。あのおやじ、相当しぶといから、また復活するでしょう。ボクは楽観してます。

to:シマナカロウさん
帰山人 URL [2013年08月19日 23時57分]

修行僧ねぇ…坊主頭ではあるけれど、ラガーマンでもあるし、ブビンガの一枚板のカウンターがでんと据えてある某Barでドライ・マティーニを引っかける人だし…小柄でも‘大きなやんちゃ坊主’だから‘大坊’なんだと思いますが…。ロウ師もからかっていないで、『南青山「大坊珈琲店」余聞』にかかってくださいナ。

No title
じょにぃ URL [2013年08月20日 10時44分] [編集]

帰山人さん。
非常に残念です。
閉店が12月ということですが
おそらく行けそうにないので
昨年10月にお伺いして大坊さんに
淹れて頂いたのが最初で最後になりそうです。
抽出しつつも周りに気を使う姿が印象的でした。
区切りをつけるという意味で
じょにぃも書籍化希望します。

1枚目の写真の銀色の丸は
月でしょうか?それとも銀製のコースター?でしょうか?

to:じょにぃさん
帰山人 URL [2013年08月20日 13時35分]

じょにぃさん、いまや吉祥寺‘もか’がそうであるように、後世では‘大坊’を実際味わったかどうかが分れ目になるでしょうから、何回行ったか何回行けるかはどうでもヨシとしましょう(笑)。…月だと思います(画像は葉書の裏表を私が合成したものです:汗)。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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