追跡と遡及

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年08月13日 01時00分]
コーヒーにおけるトレーサビリティ、その本質は何処にあるのか?追跡し遡及してみよう…
 
 
【コーヒーのトレーサビリティを追跡する】
 
 《日本スペシャルティコーヒー協会は、生産国から消費国にいたるコーヒー産業全体の
  永続的発展に寄与するものとし、スペシャルティコーヒーの要件として、サステナビリ
  ティとトレイサビリティの観念は重要なものと考える。》 (「スペシャルティコーヒーの定
  義」/日本スペシャルティコーヒー協会の公式Webサイト
 
日本のコーヒー界でトレーサビリティという概念が語られ拡がったのは、おおよそ21世紀
に入って以降のことである。その始源はともあれ、コーヒーの‘トレーサビリティ’は、所謂
‘スペシャルティコーヒー’や所謂‘サスティナブルコーヒー’という概念の普及に沿って語ら
れ拡がったからである。であるからか(?)‘トレーサビリティ’は、‘スペシャルティコーヒー’
や‘サスティナブルコーヒー’と同様に、耳目に触れる割に概念を規定できず実体を誰も
掴めないまま、現在に到っている。何だか臭うが何も見えない…いわば‘屁’の様な存在。
 
元来は計測器の精度に関する工学技術用語であった‘トレーサビリティ’(traceability)
が、(コーヒーも含めて)食品流通の世界で使われ始めたこと、それが日本で意識された
のは、2001年の狂牛病騒動(BSE問題)に端を発している。そして‘トレーサビリティ’は、
国立国語研究所により‘履歴管理’と言い換えられ、また、農協流通研究所により‘追跡
可能性’と訳された、共に2003年春のことである。その後、国際食品規格委員会(コー
デックス委員会)が2004年夏の総会で、「生産、加工および流通の特定の一つまたは
複数の段階を通じて、食品の移動を把握できること」、と食品トレーサビリティを定義した。
 
 《国際的な定義があって、それに伴う要求事項があり、それを正しく解釈し、それを運
  用することで、食品流通の透明性を図ろうというものです。指導者の方でも事例とし
  てワインを引き合いに出す人もいますが、それは間違いです。優先される規格の源
  は、あくまでコーデックス委員会が示す定義であって、ワインに貼られるラベルでは
  ありません。》 (岡崎俊彦「トレーサビリティとは・3/4」/『設計屋のBLOG』)
 
確かに、スペシャルティコーヒー狂信者を主とするコーヒー界の痴人らが、ワインのAOC
(原産地呼称統制)などを引き合いに出し、安易にトレーサビリティの概念を濫用すること、
笑止の沙汰である。また、トレーサビリティの《優先される規格の源は、あくまでコーデック
ス委員会が示す定義》であるとする岡崎俊彦氏の論は、現時においては間違っていない。
しかしながら、それは‘規格’に関する核心であっても、コーヒーにおけるトレーサビリティ
の‘本質’を保証するものでは無い。《食品の移動を把握できること》というコーデックス定
義を裏切り、巷では用語の異動さえ把握できない、つまり「追跡可能性を高める仕組み」
(トレーサビリティシステム)自体が効かない外来語‘トレーサビリティ’は、悪用され続けて
追跡をかわしている。コーヒーが独自で抱えるトレーサビリティの課題、そこに遡及しよう。
 
 
【コーヒーのトレーサビリティを遡及する】
 
 《[司会]…いわゆるツーリストコーヒーは、ICO加盟生産国から、ヨーロッパのフリー
  ポートを経由して、ノンメンバー国に行かずに、メンバー消費国に入る形態が一番多
  く、又、一応は規定通りノンメンバー国に入り、そこからなんらかのルートで逆流して
  いく、二つのタイプがあると思うんです。 [E]一応はノンメンバー国に入るんじゃあな
  いですか。けれどその後、なんらかの形で出ていく。ですから入る分だけを証明させ
  ても規制できない。ツーリストコーヒーは、ヨーロッパのディーラーがからんでいる可
  能性が強いですから、ヨーロッパの大手消費国は規制強化に積極的に賛成しないと
  いう足枷があるんですね。   *ツーリストコーヒー…非加盟国向け積出された後、
  加盟国のフリーポート等により、或は一旦非加盟国に到着した後、加盟国に不法に
  流れるコーヒーのこと。》 (「特集:座談会 コーヒー相場市況の行方を占う」/全日本
  コーヒー協会機関誌『Coffee Break』vol.6/1983年10月25日発行)
 
世界のコーヒー界でツーリストコーヒー(Tourist coffee:渡りコーヒー)が拡がったのは、
おおよそ20世紀に遡って1980年代である。その始源はともあれ、ツーリストコーヒーは
国際コーヒー協定(ICA)の経済条項の停止と変質、その度重なる軋轢の中で拡がった。
それ以前からICAの輸出割当枠(クォータ)を守る方策として、国際コーヒー機関(ICO)
が発行する原産地証明書の裏に貼った輸出証紙制度(スタンプ)が併用されていたが、
原産地証明書自体の偽造や不正転用に加えて、ツーリストコーヒーにはスタンプなどが
真面に機能するはずも無かった。ICAの実質上の崩壊(1989年)とそれに続く‘第1次
コーヒー危機’の直前には、生産国から消費国への《移動を把握できること》ができない
コーヒー生豆が流通全量の1割近くもあった、と推定される。当時、供給(輸出)量の統
制と需要(輸入)量の拡大との両立を図ったICAは、他の国際商品協定(ゴム・砂糖・カ
カオなど)よりも機能性を求められていたが、クォータやスタンプといった独自の制度の
裏ではトレーサビリティに反するコーヒーを排するどころか助長し、そして自ら崩壊した。
 
そして、実質上のICA崩壊後もツーリストコーヒーの系譜は勢いを失ってない。例えば、
残留農薬問題で2008年に日本への輸入が停止したエチオピア産コーヒーが、翌年以
降に輸入がいち早く一部再開された背景には、ツーリストコーヒー時代と同様にヨーロッ
パ経由の流通網が駆使された。また、近時の所謂‘スペシャルティコーヒー’は、生産国
毎の独自の輸出調整制度から外れた例外品としてコモディティコーヒーとは異なる流通
網によって消費国が確保している場合も多い。穿った見方をすれば、これらの高付加価
値産品も、ある種のツーリストコーヒーとして系譜に連なるものである。こうしたコーヒー
の流通実態には、《食品の移動を把握できること》を実は忌むべきものとする痴人らが
多く関わっている。彼らにとっては、トレーサビリティの追跡も遡及もかわすべき要件か?
 
 
流通するコーヒーの透明性を図ろうとするのであれば、コーデックス定義を正しく把握し
実践する‘追跡’に加えて、コーヒー界が独自に抱える歴史的・経済的・政治的なトレー
サビリティの課題に‘遡及’すること、それ自体がトレーサビリティシステムなのであろう。
コーヒーにおけるトレーサビリティ、その本質は何処にあるのか?その追跡と遡及は続く…
 
コメント (4) /  トラックバック (0)

コメント

No title
設計屋 URL [2013年08月13日 11時09分]

暑くて頭が回らないと言いながら、さすが帰山人センセらしいご指摘ですこと。
しかし、業界の人にとっては「糠に釘」・・・、涼しい顔で聞き流すでしょう(笑)

to:設計屋さん
帰山人 URL [2013年08月13日 15時29分]

コーヒー業界というお国は、涼しい顔で聞き流す‘裸の王様’ばかりで構成されているのですネ。でも「糠に釘」ならば鉄分補給になるし、たまさかに発色が良くなる茄子みたいな業界人もいるかも…設計屋さんも‘悪魔の代弁者’を続けてくださいヨ。

No title
設計屋 URL [2013年08月13日 23時34分]

いつも繰り返し言っていますが、モノ作りは経験から如何に学んでいるかです。トレーサビリティも運用実績がある人と無い人では視点が違うだろうし、焙煎や焙煎機も同じです。

論証も大切ですが、設計屋はそっちじゃない(笑)、実際にやって来た事を公開しながら身証するしかないと思っています。
悪魔の代弁者ねぇ・・・、いい加減なプロから見るとそうかも知れません。

to2:設計屋さん
帰山人 URL [2013年08月14日 10時45分]

農園名や品種名を並べたて農園や農園主の写真を添付する…それをトレーサビリティと勘違いして尚且つ価格付加の根拠とする…こんな痴れ者相手に商売しながら叱りつける設計屋さんは頼もしい存在であります。私は外道の‘悪魔’そのものですからそっちじゃない…痴れ者を抹殺するしかありません。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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