歴史は動いたのか?

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年07月06日 05時00分]
‘一杯のコーヒー’で、歴史は動いたのか? その‘一杯のコーヒー’で世界は変えられるのか?
 
  歴史は動いたのか? (1)
『一杯のコーヒー 昭和天皇とマッカーサー』(綾野まさる:著/ハート出版:刊)は、大日本帝國が大東亜戦争で敗戦した直後、1945年9月27日に裕仁(諡号:昭和天皇)へ供された‘一杯のコーヒー’を考察した本である。駐日アメリカ大使館公邸で連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーと会談した裕仁にコーヒーが出され、そして…その時、歴史は動いたのだろうか?
 
 《琥珀色をしたコーヒーのかおりが、ほのかに室内にただよった。天皇は、その
  コーヒーカップに、目をそそがれている。しばらく、沈黙がながれた。》(p.150)
 《そこには、天皇にお出ししたカップが、置かれた位置も、そして中身も、もとの
  ままになっていた。》(p.159)
 《国民の命が危機にひんしているときに、どうして、おめおめとコーヒーなど、飲
  んでいる場合であろうか。おそらく、天皇の胸のうちには、そんな想いが、ふ
  つふつとわき上がったにちがいない。(略)もしも、天皇がやすやすと、このコー
  ヒーに口をつけられたとしたら……。マッカーサーは、それほど心を動かされ
  なかったのかもしれない。日本の未来も、もしかしたら変わっていたにちがい
  ない。》(pp.161-162)
 
この会談で裕仁がコーヒーに手を出さず口もつけなかった逸話が仮に事実であったとしても、その理由を探った著者綾野まさる氏の推論には全く整合性が無い。綾野氏はこの会談におけるタバコに関する(より有名な)逸話を本書に採用している、《…マッカーサーは、テーブルの上にあるケースから、タバコを1本とって、天皇にすすめた。天皇は、心なしかこきざみにふるえる手で、それを受けとった。》(p.143)と。奇妙である。《国民の命が危機にひんしているときに、どうして、おめおめと》普段は喫しないタバコを裕仁が《飲んでいる場合であろうか》、とは何故に問わないのか? ‘一杯のコーヒー’で歴史が動いた事例として、そのコーヒーが何と「飲まれなかったから」という解釈は珍妙で面白いが、確度が低い愚かな揣摩(しま)でもある。
  歴史は動いたのか? (2)
『一杯のコーヒー 昭和天皇とマッカーサー』の飲まれなかった‘一杯のコーヒー’に関する綾野まさる氏の臆断に対して、私は冗談で返そう。裕仁がコーヒーに手を出さず口をつけなかったのは何故か?…《琥珀色をしたコーヒーのかおりが》あまりに不味そうだったのであろうか…帝國民の拓殖先である伯国や布哇、或いは‘モカの姫君ジャバ娘’(「一杯のコーヒーから」)、また國内の台湾産など選り抜いたコーヒーに慣れた裕仁には堪え難く忍び難い悪臭だった…「朕ガ愛好ノ珈琲ヲ殺戮ス、此ノ如キ粗暴ノ将官等、其精神ニ於テモ何ノ恕スベキモノアリヤ」《おそらく、天皇の胸のうちには、そんな想いが、ふつふつとわき上がったにちがいない》か?
  歴史は動いたのか? (3)
…《やすやすと、このコーヒーに口をつけ》て祖父の‘コーヒー吹いた’(?)再来を怖れたか…1885年7月に睦仁(諡号:明治天皇)へ供された‘一杯のコーヒー’を想起する。陸軍大学校教官ヤコプ・メッケルと会食した睦仁にコーヒーが出され、…その時も、歴史は動いたのか?
 
 《食後の後、ミルクと砂糖が入っているコーヒーが出た。ところが、誤って砂糖の
  代わりに塩が入っていたため、明治天皇は二口飲んだ後、憤然ととして席を
  立ち、午さん会は散会となった。「塩コーヒー」を飲まなかったメッケルは後で
  事情を知らされたが、複数の日本人は「もし明治維新前にこのような事件が
  起きたら、間違いなく宮内省関係者の多くが切腹しなければならなかっただろ
  う」と説明したという。》 (1999年3月20日:産経新聞)
 
渋柿ジジイ(メッケル)の報告書にある60年前の‘塩コーヒー事件’をマッカーサーらが知って、メッケルの教え通りに奇襲した真珠湾攻撃を恨んで塩コーヒーを用意していたならば…「朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ」て飲まないように《おそらく、天皇の胸のうちには、そんな想いが、ふつふつとわき上がったにちがいない》か?
 
『一杯のコーヒー 昭和天皇とマッカーサー』をいくら読んでも、「終戦のエンペラー」(?)裕仁へ供された‘一杯のコーヒー’で歴史が動いたとは思えない。‘昭和’時代は‘一杯のコーヒー’で動いてはいない、そして、‘昭和’の結尾は「一杯のかけそば」で終わったのである。つまりは、『一杯のコーヒー 昭和天皇とマッカーサー』は「一杯のかけそば」と同程度の創作逸話である。
 
‘一杯のコーヒー’で、歴史は動いたのか? その‘一杯のコーヒー’で世界は変えられるのか?
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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