堂廻目眩

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年05月26日 01時00分]
便益を有するも、害もまた尽きせぬか…滑稽ではあっても利口ではないコーヒー本、読了。
  堂廻目眩
 
『美味しいコーヒーって何だ?』 (オオヤミノル:著/マガジンハウス:刊/2013年)
 
「サードウェイブ」どころか「フォースウェイブ」という語まで記されて、“サンフランシスコ・ベイ
エリアの新世代の取材を通して最先端のおいしいコーヒーのありかたを伝えます”と言うが、
これらは本書の編集・構成を担当した岡本仁氏(元マガジンハウス:編集者)の喧伝であり、
著者オオヤミノル氏による本書『美味しいコーヒーって何だ?』の枢要は、3人のコーヒー屋
(井ノ上達也氏=ヴォアラ珈琲/堀内隆志氏=カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ/大坊勝次
氏=大坊珈琲店)との対談である。いかにもマガジンハウスっぽい、この狡猾な仕立てを読
み間違えると、善し悪しや好き嫌いは別にしても、オオヤミノル氏の意を汲み取りきれない。
 
 《奥野さんはコーヒーの味を生かす焙煎、初期の〈バッハ〉の考え方も近いんですけれど
  も、コーヒー素材の良さを生かす焙煎をしているんです。でも、ぼくは殺す。駄目なとこ
  ろを殺すという焙煎。ぼくの個人的な考えでは、コーヒーの生豆はいいところなんてひと
  つもないんじゃないのというのがあって、何せ焼かれなかったら味にならない食材だか
  ら。ということは、もう殺すことは基本なわけなので。でも、素材の個性は出さないとあか
  んのですけども、個性は引き出すというよりも殺していって、個性が死ぬ手前を探す。
  何もなくなる手前を探すみたいな考え方にしたんです。》 (p.27)
 
こうした語りが信奉者(?)にはたまらない‘オオヤ節’であろうし、私も面白い表現だと思う。
しかし、こうした‘オオヤ節’はオオヤミノル氏の独白でのみ聞くに堪えるのであって、本書の
眼目である対談ではズッコケて失笑を誘うような節回しが頻発していて、快いとは言えない。
 
 《やっぱり彼は深煎りのことを言いたかったんだと思います。「深煎りも美味しいですよね」
  っていうのを強引に「認めてほしい」というところがありました(笑)》
  (井ノ上達也:談/p.128)
 《「しょっぱい」とか「焦げた」とか「酸っぱい」という表現をするのは、あれがオオヤさんらし
  さでしょうけども、とすれば、ロマンチシズムにしろセンチメンタリズムにしろ、そのときに
  瞬間的に頭に浮かんだものに過ぎないのか、…そういう感想の述べ方に対する信頼感
  といいますか、それが希薄になる可能性が捨てきれないですね。》
  (大坊勝次:談/p.210)
 
井ノ上氏と大坊氏がこう評している通り、対談のやりとりからも両氏が各々にオオヤ氏の強
引な表現を再三諌めた風情が読み取れるが、オオヤ氏の一方的な解釈は治まらないまま。
実は、昨2012年秋に大坊勝次氏と昼食を共にした際、大坊氏より「オオヤ氏との対談で、
始終‘焦げた’や‘焦がし’と言われて…」と、その表現の危うさに対する見解を求められて、
私は「深煎りの狙いや技術の中身はどうであれ、オオヤさんが‘焦がし’に拘泥する限りは、
その修辞に縛られた香味からは良くも悪くも脱しえないでしょう」という趣旨を返答していた。
したがって、今般に本書の対談を読んで、「ヤッパリ、ナルホド」という思いである。もちろん、
このような井ノ上氏や大坊氏とのまるで噛み合わない話運びを、「そのまま収載しているコト
自体に本書の意義がある」という捉え方もあろう。だが、対談におけるオオヤ氏の強引な解
釈に倣ってみれば、私には《オオヤさんには、あのまま突き進んでほしいですね。》(井ノ上
氏:談/p.129)や《…わたしはオオヤさんを嫌いじゃないですよということです(笑)。》(大坊
氏:談/p.211)という表現の裏から、「処置無し」という‘焦げた’意が両氏より伝わってくる。
 
“アーティストのように作ってロックミュージシャンのように表現したい。それが信条の異端の
焙煎家オオヤミノル”という腰巻の惹句とは全く別物の、話が噛み合っていない‘異端’さを
本書『美味しいコーヒーって何だ?』に感得する。その戸惑わされ面喰らわされた‘異端’を
奇に表すれば、まるで夢野久作の『ドグラ・マグラ』を読んだ感に近い。『美味しいコーヒーっ
て何だ?』って何だ?それは当に「堂廻目眩」(どうめぐりめぐらみ)なコーヒーの奇書である。
また別の観点では、《わたしはオオヤさんを嫌いじゃないですよということです(笑)》と言える
かどうかも含め、未だ面識無いオオヤミノル氏と「深煎り派」(?)の同類として談じてみたい。
 
コメント (8) /  トラックバック (0)

コメント

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ナカガワ URL [2013年05月26日 23時12分]

今回取り上げられた本と、ここ数か月で取り上げられた本たち、『私はコーヒーで世界を変えることにした。 夢をかたちにする仕事道』『お望みなのは、コーヒーですか? スターバックスからアメリカを知る』『珈琲店タレーランの事件簿2 彼女はカフェオレの夢を見る』『コーヒー学検定《上級》 金沢大学編』----なんだかスゴイ業界だと思われそうですね。いっそ全部、辻静雄賞に推薦しみましょうかね。
それよりこのブログを推薦してみます。審査員のお歴々の評価が楽しみ----かな。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年05月27日 02時32分]

ハハン、こう並べてもらうと確かにスゴイなぁ…どの本も「コーヒーに恋してるんだよぉ~!」って言いたいんだろうけど、表現手段が利口じゃない、って共通点もあるしネ。…私のブログは推薦してもダメなんじゃないのぉ?狂ってはいるけれど、恋だの愛だの、そんな小っ恥ずかしい話はできませんから。でも、流血審査になるならば、見てみたい気も…

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じょにぃ URL [2013年05月27日 12時46分] [編集]

帰山人さん。
私はいつも帰山人さんブログを拝見しながら
帰山人さんの言いたい事・本質はなんだろうと
考えています。
『え!?書いてますけど???』
と言われてしまいそうですが
なにせ頭が悪い読解力の弱いじょにぃですから
いつも的外れなコメントをしてしまって
その都度教えて頂いてありがとうございます。
まだ大坊さんのページまで辿りつけていませんが
この本を手にした時
『帰山人さん何て書くかなぁ』
と何となくわくわくしておりました。
もし今後、帰山人さんや他の方とお話しする機会があった時には
「処置無し」
と思われない様に精進したいと思います。

長くなりますが

オオヤさんの『個性が死ぬ手前を探す。』は
単純に解釈・視点の違いなだけじゃないかなぁと
読んでいて思いました。
ほとんどの方は個性を”生かす”と表現するわけで
死ぬ手前って結局生きてるんじゃん(笑)
と思うわけです。

と私はどうしても重箱の隅を突いてしまうわけですが
帰山人さん・大坊さんはそこから一歩先の議論をされるわけです。

毎回感心させられますし
表現ってホントに難しいなと実感します。

to:じょにぃさん
帰山人 URL [2013年05月27日 18時17分]

オオヤさんの‘殺す’姿勢は、かつて「あんねて」の森尻さんなどが‘豆をイジメぬく焙煎’とか言っていたのに近いでしょうね。まぁ私に言わせれば、姿勢や表現自体でコーヒー豆の香味成分が化学的に変化するわけでは無いので、生かそうが殺そうが優しくしようがイジメようが、そんなこたぁどうでもイイです^^;…肝心なのは表現の違いよりも焙煎されたコーヒー豆そのもの(或いはカップで供されるコーヒー液)の差であって、その違いを他人とアーダコーダと共有するためには、冷徹な実証性と論理性が要るワケですなぁ。この本は、コーヒーを語る上での‘コッミュニケーション障害’をシッカリと表している…私の言いたいところはソコかな?(笑)

No title
ナカガワ URL [2013年05月27日 22時13分]

「コーヒーに恋してるんだよぉ~!」というのは、たとえば----。
『美味しいコーヒーって何だ?』は「世界の中心で、愛を叫ぶ」のように、不治の病です、とか。
『私はコーヒーで世界を変えることにした。 夢をかたちにする仕事道』は「プリティウーマン」みたいにぼくはコールガールをレディにすることにした、みたいな。
『お望みなのは、コーヒーですか? スターバックスからアメリカを知る』は、「ひまわり」?正直言えばやっぱりロシアの妖精の方が幸せ。
『珈琲店タレーランの事件簿2 彼女はカフェオレの夢を見る』----さっぱりわからない----。
『コーヒー学検定《上級》 金沢大学編』は、「電車男」かな。どこからどこまでがリアルなんだか。

to2:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年05月27日 22時35分]

実におもしろい。『美味しいコーヒーって何だ?』は「絞殺る」(しめる)。『私はコーヒーで世界を変えることにした。』は「夢想る」(ゆめみる)。『お望みなのは、コーヒーですか?』は「曲球る」(まがる)。『彼女はカフェオレの夢を見る』は「念波る」(おくる)。『コーヒー学検定《上級》 金沢大学編』は「演技る」(えんじる)。…さっぱりわからない。

No title
teaR URL [2013年06月14日 01時00分] [編集]

お久しぶりなコメントになってしまいました。職場が変わって、落ち着けない日々を送っております。

いろんな本が出ているんですね。オオヤさん、最近顔見てみませんが非常に面白い方だと思います。いつもじゃありませんが、非常に美味しいコーヒーを何度か飲ませてもらっています。
近いうちに読んでみようと思いますが、帰山人さんの記事を読んだ後だと、さらに楽しめそう(笑)

そうそうツイッターのまとめ、すごく面白い!全然使ってませんが、ツイッターまたやろうかな。

to:teaRさん
帰山人 URL [2013年06月14日 12時20分]

ども。最近は私もバタバタもがいてます。まぁ美美・森光さんがよく引く「地上とは思い出ならずや」(足穂)ってところでしょうか?私ゃ「死ぬまでの暇潰し」人生で充分ですが…
オオヤさんのコーヒーに対する捉え方は、滅び去る恐怖に怯える‘昭和な珈琲世代’には燭光かも。その感性には私も惹きこまれるところがあります^^;
もはや‘ツイッター’じゃないよね、あの使い方は(笑)面白いけれど、(大庭さんとか)‘まとめ’る人には畏れ入ってますよ^^/

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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