珈琲への扉

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年05月11日 23時00分]
「自分の世界を持たぬ者には 珈琲への扉は開かれない」…静岡市の喫茶名店「男爵」に掲げられた言句である。…《マイカップが置いてあった「男爵」に入り浸っては、さまざまなコーヒーを飲みながら中南米へ思いを馳せていた》(後掲書pp.30-31)川島良彰氏(ホセ)は、静岡星光学院高校の卒業式を待たずにエルサルバドルへ向けて発つ、《出発日当日…「男爵」のマスターが静岡駅まで見送りに来てくれた》(p.36)…。この1975年頃、当時小学生だった私は、初めて‘ウマイ’と思えるコーヒーに出会った。私の父が勤務先近くの店で豆と抽出器具を買ってきて、自宅でレギュラーコーヒーを淹れたのである。‘ウマイ’、だがもっともっと‘ウマイ’コーヒーがあるのではないか?…ホセが「コーヒー乃川島」を営む実家を出て‘コーヒーハンター’への歩みを踏み出した頃に、そんなこととは露知らぬ私は、「コーヒー乃川島」のコーヒーを喫して‘珈琲狂’への歩みを踏み出していたのである。
  珈琲への扉
 
『私はコーヒーで世界を変えることにした。 夢をかたちにする仕事道』
(川島良彰:著/ポプラ社:刊/2013年)
 
前著『コーヒーハンター 幻のブルボン・ポワントゥ復活』(平凡社:刊/2008年)は、ホセがUCC上島珈琲株式会社を辞めた(2007年10月)ほぼ直後にして、現行の株式会社ミカフェートに連なる法人を設立する以前での自叙伝であった。そして今般に発刊された『私はコーヒーで世界を変えることにした。』もホセ自身による2冊目の自叙伝であって、本書の約4分の3を占める、エルサルバドルから始まりUCCの《特別枠の社員》(p.203)としてジャマイカ・ハワイ・スマトラ・マダガスカル・レユニオンと駆け巡った後にUCCを辞めるまでの話は、前著『コーヒーハンター』に重なっている。もっとも、‘コーヒー界の「インディ・ジョーンズ」、世界中を駆け巡る!読むとシビれるビジネス活劇!’という腰巻の惹句の通りに、前著に比してコーヒーそのものよりもホセが体験したエピソードに力点が置かれている、などの違いはある。副題で「夢をかたちにする仕事道」と謳っているあたり、コーヒー愛好者を超えてより広汎に読者を獲得したい出版側のプロモートに応えたか?
 
私としては、ホセが古巣のUCC時代後半に感じていたであろうコーヒー自体に関する営業部や貿易部との軋轢を暴いて欲しかったが、《…日本人だけどコラソン(corazón/スペイン語で心の意味)はラテンだから》(p.52)古い話への固執は勘弁してくれ、とホセ自身に去なされそうなので(笑)、この一言に止める。それより、前著『コーヒーハンター』以後の話題、本書の後段約4分の1となる部分は、もっと厚く、そして熱くも、語って欲しかった。例えば、《コーヒーのピラミッドの頂点に位置する「グラン クリュ カフェ」》(p.228)という概念については、‘CoE’(カップオブエクセレンス)をコーヒーのピラミッドの頂点に置く‘スペシャルティコーヒー’狂信派に対して明確で徹底した反証をホセに望みたい。「川島さんのファンです」と言っておきながら同じ日に「やっぱCoEうま~」などと呟く輩には、業界や愛好者としての付和雷同と許しても、《コーヒーで世界を変えていく》(第六章)という主旨の上では許さない意思を示して欲しい。インディ・ジョーンズなら鞭を振るえ!
 
『僕たちは世界を変えることができない。』(パレード:刊 2008年/改稿後に小学館:刊)などという葉田甲太氏による自虐的な書名の軟派なチャリティー話とは異なる、そうホセが思うのであれば、本書『私はコーヒーで世界を変えることにした。』はもっと過激で好い。《「そうだ、コーヒーショップをやろう。みんなが集う場所を作ろうぜ」》(p.31)と高校時代のホセは、反対する《頑固な校長を説得し続け》(同p)、《使途は自分たちで決める》(p.33)…《周りの人を巻き込んでもそれを実現させるために邁進するアホな男》(p.268)で好い、静岡聖光学院校長だったピエール・ロバート氏は2005年5月8日に没している…本書『私はコーヒーで世界を変えることにした。』は丁度8年後の同月同日に発売されたから。私には‘コーヒーで世界を変える’ことの真実味や蓋然性を判ずることができない。だが、「自分の世界を持たぬ者には 珈琲への扉は開かれない」…この意味でホセを賛したい。
 
コメント (6) /  トラックバック (0)

コメント

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ナカガワ URL [2013年05月12日 13時21分]

最近「なめらかな社会とその敵」という本を積読しています。あとがきの締めくくり「世界は生成するものであり、あなたは世界に参加しているのである。」に説得力を感じております。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年05月12日 17時36分]

『なめ敵』知りませんでした。内田樹氏が‘必読’押しホンにしてますネ。『なめ敵』はポパーの『ひら敵』とも違うのでしょうか。…それにしてもあちこちで世界や社会を「変える」話が氾濫してますなぁ。私ゃ「虚栄心で世界を変えることにした」場合でも共生を探っていけばイイと思ってます。モチロン300年後に人間社会が崩壊していても、それはそれで‘生成’なワケですから(笑)

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cocu-coffee URL [2013年05月14日 12時35分]

日本で最も品質管理が徹底されている生豆はグランクリュ カフェなのでしょうね。一度焼いてみたいものです。

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ロウ・シマナカ URL [2013年05月14日 13時14分]

帰山人様
ホセ川島というと、いつもジャマイカで馳走になった〝素麺〟を思い出してしまいます。
うまかったなァ、あの素麺。川島さん、ありがとね。それと奥さんにもお礼。
といっても前の奥さんだけど(笑)。奥さん変えちゃうくらいだから、
世界だって変えられるでしょう。がんばってね、ホセ君。

to:cocu-coffeeさん
帰山人 URL [2013年05月14日 18時19分]

そりゃ私も焼いてみたいっすよ。でも‘グランクリュ’は生豆では出さないし、‘プルミエ クリュ’もキビしいでしょうなぁ。ワインならばまだあきらめがつくかもしれないけれど、コーヒーの場合は「焼いてみたい」欲は捨てられないよネ(笑)

to:ロウ・シマナカさん
帰山人 URL [2013年05月14日 18時44分]

ロウ師、これまた耳擦った物言いですねぇ。‘禅僧の素麺’のようにサッパリした話に聞こえませんよ!ロウ師は世界を変える前に、世界や奥さんから捨てられないように、がんばってね。

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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