悪魔のささやき

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2013年04月27日 05時30分]
2013年4月9日に死んだサッチャー(Margaret Thatcher)に対して、ケン・ローチ(Ken Loach)は、《現代で最も不和を生じさせ、最も破壊的な首相》、《彼女の敵はイギリスの労働者階級》、《彼女の葬儀は民営化しよう》、と語った(Information Clearing House)。…ケン・ローチの映画には不和も破壊も無いのか? 敵は誰か?
 悪魔のささやき (1)
 
『天使の分け前』(The Angels' Share) 観賞後記
 
[ストーリー] 無頼漢のロビー(ポール・ブラニガン)に、まともな職も家もない。暴力沙汰の裁判で社会奉仕活動を命じられたロビーは、現場の指導者ハリー(ジョン・ヘンショー)と、社会のゴミたち3人(ガリー・メイトランド、ウィリアム・ルアン、ジャスミン・リギンズ)と連む。オークションで稀少な樽入りスコッチウイスキーが出品されることを知ったロビーは、仲間を引き連れてウイスキーを掠め取り、悪徳業者タデウス(ロジャー・アラム)に転売して金を得る。ロビーたちの犯罪はバレず、盗品を‘天使の分け前’と嘯いてハリーに贈り、ロビーはタデウスに斡旋された蒸留所に就職するべく、妻子と共に街を出る。下劣な犯罪映画。
 
 悪魔のささやき (2)
スコッチウイスキーが出てくる映画であるし、反・新保守主義を掲げるケン・ローチの監督作品であるし、話は暗くてもまぁ楽しめるであろう、などと勝手に予想した私がバカだった。酒類映画で『ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡』(Bottle Shock:2008年)と異なり、失業映画でも『シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ』(Comme un Chef:2012年)と違い、弱者映画でも『人生、ここにあり!』(Si può fare:2008年)とも似ていない。これらの映画と比べ、『天使の分け前』は最も「映画」になっている、そこはさすがにケン・ローチ。しかし、その味悪さは人道性根が腐ったデヴィッド・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network:2010年)に近い。笑えない喜劇。
 
 悪魔のささやき (3)
登場した「モルトミル」、「ラガヴーリン」傘下で「ラフロイグ」を真似ようとして失敗した酒で、スコッチウイスキー史の上で《最も不和を生じさせ、最も破壊的な》銘酒、いや迷酒である。そこを知らずしてか、本作『天使の分け前』は、スコッチウイスキーに対して窃盗や偽装を許す犯罪映画として不和と破壊をもたらした。ケン・ローチが描いた話は‘天使の分け前’ではなくて、正義にならない偽善、すなわち‘悪魔のささやき’であった。本作の《敵はイギリスの労働者階級》であり、私はケン・ローチにも《民営化》した《葬儀》が必要と確信した。
 
 悪魔のささやき (4)
『天使の分け前』という映画を嗅いで味わった私がテイスティングノートに記したならば……鼻を近づけると目にまでチクチク刺すような刺激がある。アロマは、ペンキ、病院、墓場、燃えさしのプラスチック、ディーゼル車の排気、汗蒸れた使い古しの運動靴、再着火した紙巻タバコ。口に含むとトロリとしているが、柔らかくはなくて金属の味がする血のようだ。フレーバーは、腐って干乾びた魚が雨にうたれて放つ臭気、吐き気をもよおす酸っぱさ…
 
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コメント

No title
ナカガワ URL [2013年04月27日 23時20分]

でも、こういう物語にしないと耐えられないくらい、厳しい階級と階層の社会なんでしょうね。ちょっと期待して見に行ったので残念でした。ローチ親子は、息子の作品の方がよくできていると思いました。
スコッチウイスキーは、どんな階層の人の飲み物なんでしょうね。忌むべき高級品なのでしょうか。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年04月28日 17時54分]

‘スコッチウイスキーの映画’なので私ゃてっきりハイランドかアイラ島あたりの話かなと思って観に行ってしまいました。冒頭で舞台の街がわかって「またグラスゴーかよ!ケン・ローチ」と内心ツッコミましたが、もう遅い。イギリスの‘厳しい階級と階層の社会’は、イングランドv.s.スコットランド、ロンドンv.s.グラスゴーという国や都市による差別社会でもありますが…山谷や釜ヶ崎でばっかり映画を撮るとケン・ローチになれるんだろうか?
スコッチウイスキーは、19世紀中期までは(合法=低級/密造=高級という区分はあったけど)地産地消される地酒でしたな。当時までイングランド人は、資本家階級はブランデーを、労働者階級はジンを飲んでいた。1860年代にフィロキセラ禍でブランデー輸入が激減して以来、ジンを飲まない階層はブランデーからスコッチに乗り換えた。シェリー樽でやたら赤っぽいスコッチが多くなったのも、ブランデー代替だったから。ここらへんが‘忌むべき高級品’(?)の始まりでしょうか?ほぼ同時期に生じ拡がったコーヒーの病害とブドウの虫害が珈琲と酒の飲用実態を一変させた、あれからわずか百年余しか経っていない…みたいな話はケン・ローチじゃ撮れないだろうなぁ。ジムなら撮れるんだろうか?

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
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