三粋人珈琲問答

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年03月18日 05時00分]
「春夜宴珈琲屋序」(春夜珈琲屋に宴するの序)…‘天地は萬物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり。浮生は夢のごとし、歓をなすこと幾何ぞ。珈琲の芳園に会し、経綸の楽事を序す。’…コーヒーに関連する各界の代表3人、天堂堀丸・金洞剛造・益田鳥楠が、とあるコーヒー屋でコーヒーを喫しながらコーヒーを奇しく論ずる…夢幻の鼎談か?
 
天堂堀丸(てんどう・ほりまる)
動物界の代表。ヒト(脊索動物門 哺乳綱 霊長目 ヒト科 ヒト属 ホモ・サピエンス)である。世界スペシャルティコーヒー協会(WSCA)の理事。
 
金洞剛造(かねほら・ごうぞう)
植物界の代表。コーヒーノキ(被子植物門 双子葉植物綱 アカネ目 アカネ科 コーヒーノキ属)である。本名は「コフィア・カネフォラ・ロブスタ」。
 
益田鳥楠(ますだ・とりぐす)
菌界の代表。コーヒーさび病菌(担子菌門 サビキン綱 サビキン目ヘミレイア属)である。本名は「ヘミレイア・ヴァスタトリクス」。
 
 
天堂「ボクはコーヒーと人類とは切っても切れない縁で繋がっていると思う。いず
   れもアフリカ大陸のエチオピアに発祥して、中近東、ヨーロッパ、アジア、ア
   メリカ、と海を越え山を越えて拡がってきた。どちらもその歴史はグローバリ
   ゼーションそのものだ。また近年では、コーヒー豆のオークションやバリスタ
   の競技会もグローバル化して、ボクが理事として参加しているWSCAもスペ
   シャルティコーヒーのグローバリゼーションを象徴する国際団体として新た
   に発足した。今ここで飲んでいるコーヒーも世界の時空が積み重なったスペ
   シャル…」
 
金洞「それは違う。まず、コーヒーの全てがエチオピアで発祥したわけではない。
   ワシらロブスタコーヒーの存在を忘れてもらっては困る。だいたいワシから
   言わせれば、ヒトは自分たちの意思と都合によって地球全体に拡がっていっ
   たかもしれないが、コーヒーノキはアラビカ種であれロブスタ種であれ、天堂
   さんたちヒトが栽培目的に勝手に運び移しただけ。それを縁などと言われて
   も、コーヒーノキ自身がグローバル化の歴史を誇ると思わないでもらいたい。
   また、ワシらロブスタ種がいなければ、現在のスペシャルティコーヒーどころ
   か…」
 
益田「天堂さんも金洞さんも手前勝手な表現は慎んでいただきたい。オレたちコー
   ヒーさび病だって地球に棲む生き物だ。同じ生き物であるのに惑星全体に
   拡がることを、一方でグローバリゼーションと呼び、他方でパンデミックと呼
   ぶ。こんな差別した扱いをする生物種が、偉そうに発祥だとか伝播だとか語
   る資格があるのかね。また、コーヒーのトレーサビリティを謳う前に、その視
   点がヒト社会の都合でできていることに目を覚ますべき。オレらヘミレイア・
   ヴァスタトリクスから見れば、ヒトこそ無益、否、脅威の存在なのであって…」
 
天堂「いや、ボクたち70億人の人類の中で、コーヒー関連で生きている者は10
   億人を下回らないとも言われているので、そのヒトたちが生きていくために
   は…」
 
金洞「いや、そのヒトたちに植え拡げられたワシらコーヒーノキは、1000億本を
   下回らないとも言われている。こちらからは一言も頼んでもいないのにだな…」
 
益田「いや、何人とか何本とか数の問題で存在意義を顕示しあうのであれば、オ
   レらは金洞さんには宿主になってもらわないでも、軽く100京以上の夏胞子…」
 
天堂「ですから、多くの生き物がより多くより多様に生き続けられるように、ボクた
   ち人類は、共生やサスティナビリティも考慮したコーヒーのある世界を目指
   している。それにしても、さび病に罹らない金洞さん個人はともあれ、仲間
   であるアラビカ種のコーヒーノキだって益田さんたちに寄生されてまで死に
   滅びたいわけではない…」
 
益田「天堂さんは勘違いしているようだ。寄生というのは共生の一形態であって、
   ヒトが巷間で唱える共生やサスティナビリティは自分たちの存続や利益を前
   提にしての話でしょう。オレらから見れば、観念や都合でもっともらしく社会
   正義とか謳うヒトという生き物こそ、地球史上最悪の『絶滅しない危惧種』と
   呼ばれるべき存在で…」
 
金洞「そこは益田さんに概ね賛同する。例えば、ワシらコーヒーノキのうちでアラ
   ビカ種がこの地球で完全に壊滅すれば、コーヒーさび病である益田さんらも
   宿主を失う。今、惑星全体のサスティナビリティを勘案した時、滅亡しても周
   りが困らない生き物は、ヒトではないか。ワシらコーヒーノキから見ても、ヒト
   が絶滅しても何ら困らない…」
 
 
天堂堀丸・金洞剛造・益田鳥楠の鼎談は、コーヒー屋の閉店時刻が迫って散会した…‘珈琲の花の色 盛者必衰の理をあらわす おごれる人も久しからず たけき木も遂には滅びぬ 風の前のさびに同じ ただ春の夜の夢のごとし’…冷めたコーヒーだけが残った。
 
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コメント

No title
ナカガワ URL [2013年03月19日 11時09分]

少し前に藤原辰史「ナチス・ドイツの有機農業」を読みました。副題は「『自然との共生』が生んだ『民族の絶滅』」でした。本は素晴らしいと思いました。
「----惑星全体のサスティナビリティを勘案した時、滅亡しても周りが困らない生き物は----」。
子供っぽいといわれるかもしれませんが、私は個人的に「知恵と勇気を振り絞って」という言葉が好きで、そんな風にいけたらいいなあ、と思います。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年03月19日 12時28分]

‘知恵と勇気を振り絞って’という言葉の前に‘それでも’って加えたくなる…それを良いことへの書きかえと見るか、それとも気散じからのすり替えと見るか…どちらにしてもヒトという種は阿呆老頭児(アホロートル)なのでネオテニーなんですよ。この鼎談の論点は、「悪いことは良いことのためにしかやってこない」と思い募るか、『私はコーヒーで世界を変えることにした。』(byホセ川島)って言っちゃうか、ってことなのかもしれません。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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