インド洋の涙2

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2013 [2013年02月16日 23時00分]
「スリランカ・コーヒー産業史の欠落に挑戦し、フェアトレードで幻の名品スリーパーダコーヒー復活を夢見る男の執念」という惹句、セイロン島のコーヒーに関する本を読んでみたのだが…
 インド洋の涙2 (1)
 
『セイロンコーヒーを消滅させた大英帝国の野望
  ──貴族趣味の紅茶の陰にタミル人と現地人の奴隷労働』
(清田和之:著/合同フォレスト:刊)
 
清田和之氏の前著『コーヒーを通して見たフェアトレード ──スリランカ山岳地帯を行く』に関して、《著者の記述ぶりは、栽培品種の細分、栽培や精製の方法選択、マイクロクライメットやテロワールによる香味の特性など眼中には一切無いように窺える》と評した私であるが、今般の『セイロンコーヒーを消滅させた大英帝国の野望』を読後、修正する。
 インド洋の涙2 (2) インド洋の涙2 (3)
 
  ○高価な値段をつけて売るブルボン種
  (略)以前放映されたTBS系の「世界ふしぎ発見」で、アフリカのマダガスカル島
  近くにあるレユニオン島で栽培されているコーヒーが紹介されていていた。コー
  ヒーハンターと称する人物が「世界に稀なるブルボン種」と呼んでいた。(略)
  「世界ふしぎ発見」の中ではブルボン種を独自のコーヒー種のように紹介してい
  た。(略)番組では突然変異で生まれたブルボン種と言っていたが、疑問の残る
  ところである。(pp.55-56)
 
この『日立 世界ふしぎ発見』第1219回「世界を変えたインド洋の秘島 モーリシャス&レユニオン」(TBS系/2012年2月18日放映)を視た際の記述ぶりが明らかにする通り、著者には典型のブルボン・ロンドとブルボン・ポワントゥの差異すら理解できないらしい。番組では《ブルボン・ポワントゥは、18世紀レユニオンで大栽培されていたコーヒーから突然変異によって生まれた希少種。(略)当時から幻のコーヒーと呼ばれていた》などと、酷い説明もなされたが、ホセ(川島良彰氏)は一言も《世界に稀なるブルボン種》などと語っていない。いずれにしろ、コーヒーの栽培史や品種に関する清田和之氏の認識は、いわば「めくらの垣覗き」や「つんぼの立ち聞き」であって、その欠落は《眼中》ではなくて脳内にあった。よって、セイロンコーヒーに関しても「著者の記述ぶりは、栽培品種の細分、栽培や精製の方法選択などに、精度を僅かにも期待できない」と修正して断言する。
 
‘coffee leaf rust’(コーヒーさび病:CLR)の脅威と被害を軽視し過ぎている清田和之氏の錯誤は、前著に続き今般の『セイロンコーヒーを消滅させた大英帝国の野望』でも相変わらずである。19世紀終盤から20世紀初盤におけるセイロン(スリランカ)のコーヒー生産の産業崩壊を、著者はコーヒーさび病が原因とはどうしても認めたくないらしい。
 
  さび病によって全滅したのは本当か?(p.19)  さび病が原因でセイロンコー
  ヒーがなくなったというのは正確さを欠くのではないのか。(p.28)  天候によっ
  ては全滅ということもあるが、さび病による全滅ということはないのでは……。
  (p.68)
 
では問うてみよう、仮に1868年よりコーヒーさび病が襲来しなかったとしても、セイロンでは《大英帝国の野望》(?)によって紅茶生産に転換していったであろうか? 如何か? 著者は、《セイロンコーヒーを消滅させた》主因を曲解して主張している、加えて、当時の大英帝国(イギリス第二帝国)の帝国主義政策を正しく理解できていない…相変わらず。
 インド洋の涙2 (4) インド洋の涙2 (5)
また、本書で頻繁に引用される『ブラジルコーヒーの歴史』(堀部洋生:著/いなほ書房:刊)掲載の統計資料も、著者の都合の好いように抜き出されて論拠とする傾向があって、気持ちが悪い。例えば、本書の「表1-3」では1913年と1926年のセイロンコーヒーの輸出量(?)が示される(p.29)が、引用元である『ブラジルコーヒーの歴史』では、「表15世界のコーヒー生産(出所:DNC)」として1925年と1927年の数値も示されている。この後者2つの年数値は、引用値を上回って漸減どころか増加しているのだが、これを著者が省く理由がわからないが、恣意が臭う。こうした提示が、論拠の信憑性を揺るがす。
 
「フェアトレードで幻の名品スリーパーダコーヒー復活を夢見る男の執念」とやらまで責めるつもりはないが、私にとっての本書は「セイロンコーヒーの消滅を捻じ曲げた男の野望──悪趣味の曲解の陰に恣意と錯誤の認識不足」、精度を欠いたコーヒー本であった。「インド洋の涙」とも形容されるセイロン、その珈琲話に再び勝手な落胆の「涙」を流した。
 
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コメント

No title
じょにぃ URL [2013年02月18日 13時27分] [編集]

帰山人さん。
この手の本って
どの業界でも
詰めが甘いと言うか
一部のデータからそれをすべてとしてしまう傾向がありますね。
何も知らない一般人は鵜呑みにしてしまいます。
帰山人さんのご指摘にいつも感心しております。

”正論”コーヒーになるのはいつの事でしょうか?

ところで
セイロンコーヒーは本当に全滅してしまったのでしょうか?
例えば誰も見向きもしないような所に
野生化したコーヒーの木が一本くらい残ってる
可能性はないのでしょうか?

to:じょにぃさん
帰山人 URL [2013年02月18日 22時53分]

>セイロンコーヒーは本当に全滅してしまったのでしょうか?
いわゆる‘クラシック・セイロン’=19世紀に栽培され(さび病に襲われ)たアラビカ種が、絶滅したのか?相当数残っているのか?それは私は存じません。20世紀にセイロンで(少量ですが)栽培されていたのは、おそらくロブスタ種で、こちらは庭木程度には今でも相当数残存しているようです。近年はスリランカでもコーヒー栽培が(アラビカもロブスタも)小さく復活していますが、どこから来たコーヒーノキなのか、これも私は捉えていません。まぁ‘クラシック・セイロン’に近縁のコーヒーを探すのであれば、当時カリブ海の島々に伝播していったものの子孫にあたった方がまだ現実的かもしれませんね。

No title
ナカガワ URL [2013年02月20日 12時55分]

こういう方には、しっかりご商売をしていただいて、じっくりコツコツと地域のファンを広めてほしいです。たとえ情報が間違っていても。こういう「一気に」「根底から」「徹底的に」というやり方は何か破壊をもたらす感じが匂います。飲まねばならぬといれても、ねえ。おいしいものは、できれば飲んだ後で役に立ちました、といわれたいです。----あまいかしら。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年02月20日 18時09分]

ダイジョーブでしょう…NGOである限りは、「じっくりコツコツ」にしかならないでしょうから…
http://www.fairtrade-japan.org/eturan.html
シッカリ商売にもならないかもしれませんがネ…「飲まねばならぬ」と吹聴するけど「おいしいもの」かどうかはサッパリわからないフェアトレードコーヒー…違う意味で‘あまくない’と私は思います。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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