シェフと料理と、あやしい時間

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2012年12月23日 23時30分]
女を前に料理の蘊蓄を得意気に語るシェフも、10年経つとメニューで悩むようになる? フェリックス(『シェフと素顔と、おいしい時間』“Décalage horaire”2002年)を演じたジャン・レノは、アレクサンドル・ラガルドを演ずる際にその「時差」を覚えたであろうか?
  あやしい時間  あやしい時間 (1)
 
『シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~』(Comme un Chef) 観賞後記
 
  あやしい時間 (2)
《問題だらけの寄せ集めシェフたちが、高級三ツ星フレンチレストランの厨房に奇跡を起こす──。》という惹句の映画は、「問題だらけの寄せ集め料理で、レストランに喜劇を起こす」という内容であった。気安く明るく軽い軽い乗り、大衆の食堂映画として秀作。
 
  あやしい時間 (3)
三ツ星レストラン「カルゴ・ラガルド」のシェフに扮しているジャン・レノは1948年生まれ。ジョエル・ロブションが1945年、アラン・パッサールとアラン・デュカスが1956年生まれであるから、アレクサンドルはいわゆる「キュイジーヌ・モデルヌ」世代のシェフか? 対し、本作『シェフ!』で主人公ジャッキー・ボノ役を演ずるミカエル・ユーンは1973年生まれ。フェラン・アドリアが1962年に、ヘストン・ブルメンタールが1966年に、レネ・レゼピが1977年に生まれているので、主人公はいわゆる「分子ガストロノミー」世代のシェフと考えられる…否、ジャッキーの志向はそこまで新しくない。ブノワ・ボルディエの所為?
 
 《栄養学や薬学の分野の研究も、人間の食物をいやがうえにも変化させてい
  くだろう。人間が自己の本能、つまり味覚に忠実に生きていく限り、ただの
  食べ物としての料理は、多様な時代の影響を受けながらも、その場限りの
  自己満足に徹していくしかない。しかし、美味なるものの追求にかけては、
  いつまでもどこまでも不満に陥り、もっとよいものがどこかにある筈と考え
  るか、自分よりも他人の食べているものを憧憬するあまり幸せになれない
  為体(ていたらく)になるか、それとも自分こそ美味なるものを捉えたと自覚
  (錯覚)するかであろう。》 (辻静雄 「料理の未来」/『料理に「究極」なし』
  収載/文藝春秋:刊)
 
本作『シェフ!』を、山本益博氏は《3つ星のスターシェフが現代の科学をとりいれた最先端の分子料理や「星」の動向に右往左往する姿を痛烈に諧謔、風刺しながら、フランス料理が世界の覇権を取り戻すために奮闘する姿を描いている》と評したが如何か? 主人公たちの悩み様は、死んだベルナール・ロワゾーなどよりもはるかに気楽である、《愛と美味しい料理があれば、人生は三つ星☆☆☆》という程度、命を懸けない笑劇。もっとも、エルヴェ・ティスが提唱した‘Molecular Gastronomy’(分子ガストロノミー)、調理プロセスのメカニズムを物理や化学や工学といった科学で解き明かすことであり、料理そのものを指すものでは無い。これを「分子料理」として描くフランス、「分子料理」と字幕で訳す日本、いずれも浮き足立った姿を象徴しているという感に間違いはない。世界の料理界全体が、命懸けの職人気質から死を遠ざけて、科学の名で穴埋めする、そうした時差を背景として捉えてみれば、料理と同様に本作の話が軽いことも肯ける。
  あやしい時間 (4)
 
本作『シェフ!』ではミカエル・ユーンもジャン・レノも好演しているが、スペインから来た分子料理屋に扮したサンティアゴ・セグーラ、あやしく巧い美味い…星3つ☆☆☆です!
 
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コメント

No title
ナカガワ URL [2012年12月26日 01時40分]

観てみたいです。なんとか今年最後の鑑賞に行きます。
ところで全然関係ない話題ですが、最近「40杯のコーヒー」という景気のいい?歌があると聞きました。ご存じですか?

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2012年12月26日 21時46分]

Danny Overbeaの‘40 Cups of Coffee’(1953)のコトですか?倉敷珈琲館の乗兼健郎氏『コーヒーソング20』(いなほ書房/2004)でも紹介されていますが、オリジナルとBill Haley And His Comet(1957)のカバーしか出てきません。歌詞の訳を間違えているし、Ella Mae Morse(1953)と江利チエミ(1954)のカバーの話は無い…
まぁ、5時間で40杯飲むってのは、景気がイイというのか頭がワルイというのか知りませんがネ…

No title
ナカガワ URL [2013年01月01日 21時09分]

元旦に楽しんできました。料理の映像が今一つ美味しそうに見えない感じでしたが、初笑いにはピッタリでした。元旦の午後3時の回は7割くらいの入り。西洋銀座ホテル内映画館は5月で閉館だそうで。クロージングのケンローチの新作が予告の限りでは面白そうでした。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2013年01月01日 22時58分]

あぁ、新春初笑いには向いているかも。
過激なケン・ローチも熟成に入りましたか…閉館っても「天使の分け前」どころか樽ごと廃棄でしょ、熟成するヒマも無く…実に皮相なフィナーレですナ。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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