森の中の林

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2012年05月13日 22時30分]
スクリーンの中にスクリーンがある映画、映画の中で映画を描く作品をこれまで数多く観た。そこには映画に対する作った者の愛着が感じられると同時に、映し出される2重の構造、一種の「入れ籠(こ)」構造が独特の雰囲気を醸し出し、観賞する者が奇妙な気分になる。だが今般は、観賞している映画の周囲の空間自体が映画に融け込み、「映画を映し出す映画を映し出す映画」のような世界、3重の「入れ籠」を感じる…森の中で林の映画を観た。
  森の中の林  森の中の林 (1)
 
『夢みるように眠りたい』 観賞後記
きそがわ日和2012 春 ‘Sound on Film in Night Museum’
 
2012年5月12日、映画に生演奏の音をつけて上映する催事を観聴きに行く。サイレントっぽい(一部SEや曲など音を発する)モノクロ映画を野外上映し、観客席のすぐ横でクラリネットやフルートやギターやキーボードやパーカッションを奏で声も歌い弁ずるという趣向。渡邊崇プロデューサーの「サウンド・オン・フィルム」、探偵映画ばかり撮る林海象の監督デビュー作の1986年映画、主催は「きそがわ日和実行委員会」(委員長はコクウ珈琲店の篠田康雄氏)、会場は「みのかも文化の森」まゆの家の庭…森の中で林の映画を観た。
 
  森の中の林 (3)
本作『夢みるように眠りたい』は初見、観賞前は大正浪漫と昭和慕情が厭らしく漂い出た、或いは奇を衒った前衛試行が鬱陶しく感じられる、そうした観苦しい風合いを覚悟したが、実際に観てみれば予感は好い方へ大きくハズれ、実に素直で単純な娯楽作品であった。探偵・魚塚役で本作が初主演映画となった佐野史郎も好いが、助手・小林役の大竹浩二がさらに好い。謎の一味が「M・パテー商会」という名乗りには笑わされたが、深い遊びだ。時をヨミ間違えた不思議映画を上映するに、催事そのものも日暮れる時をヨミ間違えて開演を遅らせる失態はいただけなかったが、季節外れの冷え込みに耐えての生音演奏、これが次第に違和感なく映像に融け込んでいく様はスバラシイ時のヨミ間違いであった。吹き抜ける風に揺れていた会場を囲み立つ木木が、映画のクライマックス、すなわち映画の中の映画のクライマックスとなった瞬間にザワと鳴る偶然…森の中で林の映画を観た。 
  森の中の林 (4)
 
帰山教正(かえりやま のりまさ)が日本映画の柱石であること、帰山人が教え正す由もない。
 
 ♪ 東京で繁華な浅草は 雷門、仲見世、浅草寺
   鳩ポッポ豆売るお婆さん 活動、十二階、花屋敷
   すし、おこし、牛、天ぷら
   なんだとこん畜生でお巡りさん スリに乞食にカッパライ
   ラメチャンタラ ギッチョンチョンで パイノパイノパイ
   パリコト パナナで フライフライフライ ♪
 
大正時代を代表する演歌『パイノパイノパイ』(別名『東京節』/添田さつき:詞)が流行した1919(大正8)年、帰山教正は自らの純粋劇映画運動を具現するべく「映画芸術協会」を設立し、映画女優(花柳はるみ)を日本で初めて登場させて前年に完成させていた監督作品『生の輝き』と『深山の乙女』を1919年9月13日に公開した…しかし、実はそれより前に、誰が撮ったのであろうか、月島桜という女優による『永遠の謎』という未完の映画があった? 約半世紀後、探偵である魚塚が解読を託された暗号「将軍塔の見える、花の中、星が舞う」、ハードボイルドばかり食べていないで『東京節』を思い浮かべていたならば、事件の解決はもっと早かったのかもしれない。そんな勝手な想いを描きながら、森の中で林の映画を観た。
  森の中の林 (5)
 
往時は日活時代劇のスター女優、本作『夢みるように眠りたい』で約40年ぶりにスクリーンに戻り、月島桜として「夢みるように永眠した」深水藤子、1989年の『二十世紀少年読本』(私は未見)にも出演、戦争の余波で未完となった女優人生を林海象監督の2作品で全うしたのであろうか、昨2011年12月18日に永眠した。森の中で林の映画はかく完結した。
 
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コメント

No title
cocu-coffee URL [2012年05月15日 10時44分]

お忙しいところ、足を運んで頂きありがとうございました。楽しんで下さった様で嬉しく思います。自分達のイメージする「きそがわ日和」にぴったりと嵌るイベントにすることが出来たのではないかと思っています。日没時間の読み間違えと実行委員長の酷い挨拶はご愛敬ということで・・・。

to:cocu-coffeeさん
帰山人 URL [2012年05月15日 18時24分]

オツカレサマでした。『夢みるように眠りたい』という作品そのものもヨカッタけれど、「きそがわ日和」というイベントとしてもヨカッタと思います。もっとも私は催事の‘客’として楽しんだだけで、スタッフの方々の事前事中事後のご苦労は想像の域を出ないワケでありますが…いや、本当にオツカエサマでした。今後の「きそがわ日和」も楽しみだ^^/

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
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