夜来たる

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2012 [2012年05月04日 23時00分]
「日蝕と珈琲」…今2012(平成24)年、日本の一部各地で観られる金環日蝕、この日はカップの中のコーヒーにも、紅茶と同様に好ましいゴールデンリングが生ずるであろうか? 1941(昭和16)年、1962(昭和37)年、1999(平成11)年を振り返り、暫し考えてみよう。
 
  Eclipse-Nightfall (1)
1941(昭和16)年3月17日、アイザック・アジモフはジョン・W・キャンベル・Jr.より、ラルフ・ワルド・エマーソンの作品の一節を聞かされて、それをヒントに翌日からSFを書き始めた。
  If the stars should appear one night in a thousand years,
  how would men believe and adore; and preserve for
  many generations the remembrance of the city of God
  which had been shown!
  (Ralph Waldo Emerson “Nature”:1836年)
  《もし星が千年に一度、一夜のみ輝くとするならば、人々はいかにして神を
   信じ、崇拝し、幾世代にもわたって神の都の記憶を保ち続ければよいの
   だろうか。 エマーソン》 (「夜来たる」Naightfall/アイザック・アシモフ
   『夜来たる』:ハヤカワ文庫SF692収載) 
同1941年8月15日、6重連星の異世界において2049年周期で起こる皆既日蝕を描いた「夜来たる」は、アスタウンディング誌の同年9月号のカバーストーリーとなって掲載された。この頃に世界各国は戦時体制を進め、日本では「代用珈琲統制要綱」が公示され(7月)、アメリカではインスタントコーヒーを正式採用した軍用Cレーションが本格生産された(8月)。1941年9月21日、日本の石垣島・西表島・与那国島や基隆などで皆既日蝕が観られた。それは太平洋戦争の開戦を間近に、既に東亜新秩序もコーヒーも蝕まれていた時だった。
 
  Eclipse-Nightfall (2)
1962(昭和37)年2月5日、皆既日蝕と同時に8惑星が会合した。この日蝕と惑星直列の重合でナヴァグラハ(九曜)全てが磨羯宮(まかつきゅう)に入り大災厄が起こる虚報、インドでは暴動が生じた。「情事」‘L'avventura’、「夜」‘La notte’に続く、ミケランジェロ・アントニオーニ監督「愛の不毛3部作」の3作目映画「太陽はひとりぼっち」‘L'Eclisse’(「蝕」の意)が公開されたのは、同年4月(イタリア)・5月(フランス)・12月(日本)である。「太陽はひとりぼっち」でアントニオーニは、ヴィットリア(モニカ・ヴィッティ)にアフリカごっこをさせて、当時名ばかりの独立を進めていたコーヒー産業の新興国でもあるアフリカ諸国を冒瀆し、ピエロ(アラン・ドロン)にカフェテラスでコーヒーそちのけの傍若無人の振る舞いをさせて、資本主義と同時にコーヒーまでも空虚に貶めた。1962年の皆既日蝕騒動の翌月にデビューしたボブ・ディランは、「コーヒーもう一杯」‘One More Cup of Coffee’が収録されたアルバム『欲望』‘Desire’を後にリリースする。1976年2月5日、日蝕騒動のちょうど14年後である。1962年当時、「コーヒーに未来はあるか」誰にもわからなかった。
 
  Eclipse-Nightfall (3)
1999(平成11)年8月11日の皆既日蝕は、地上・空中・宇宙からの映像がTVやWebで広範囲に中継されて史上最多の人に観られた。この日蝕を機に、リキュールが生まれた。
  《1999年8月イタリアで起こった日蝕の日に、そのコーヒーリキュールは生
   まれた。場所はロンバルディア州ブレシャにあるフランチャコルタ蒸溜所。
   …開発者のジュリアーノ、アントニオ、ルイージ兄弟、エスプレッソをこよな
   く愛する創業家、ゴッツィオ家の3代目だ。兄弟たちのこだわりは、世界中
   から選んだ豆にある。甘みの強いコロンビア産、香り高いブラジル産、酸
   味の強いコスタリカ産、この3種類の豆をブレンドすることにより、エスプレ
   ッソに深いコクとまろやかさが生まれるという。「従来のコーヒーリキュー
   ルは、コーヒーのエッセンスや香りをアルコールに溶かしているのです。
   私たちはリキュールにバールで飲んでいるような本物のエスプレッソをそ
   のまま入れたかった。これは世界でも我々が初めてのことなんです。1リ
   ットルのアルコールの中に400ccを入れています」…イタリア語で日蝕を
   意味する「エクリッセ」‘Eclisse’、その味にはコーヒー豆本来の旨みを
   主張する強さが宿っている。…昼夜を問わず、リッチなエスプレッソの香
   味と、優しい甘さを堪能できる逸品だ。》 (世界初の本格コーヒーリキュー
   ル「エクリッセ」/「世界銘酒紀行」リキュール紀行2/アサヒビールWeb
   動画)
この「エクリッセ」‘Eclisse’は、光り輝く魅力を秘めたリキュールという意味が込められた。同じ頃に、日本では田口護が、《コーヒーという飲み物に留まらず、カフェや自家焙煎コーヒー店の使い方、楽しみ方》について、光り輝く魅力を秘めず顕現させようと説いていた。
  《コーヒーが日本に、しかも庶民に普及してせいぜい五〇年程度。お米や
   日本茶のような歴史を背景にした判断能力はまだない。加えて、もってい
   た判断能力を失ってしまった例も多い。…正しく伝えること、つまり啓蒙す
   ることがまだまだ足りないのだ。啓蒙すなわちEnlightenment(エンライ
   トゥンメント)とは光をあてること。そしてサービスは楽しませて伝えること
   Enlightenment=Entertainment(エンライトゥンメントにしてエンター
   テインメント)といえないだろうか。》 (田口護「自家焙煎コーヒー店に学ぶ
   サービス」/『居酒屋』第8号/柴田書店/1999年8月)
1999年の「日蝕」‘eclisse solare’は、人類史上最大規模のエンターテインメントだった。それは同時に、光が欠けて蝕まれる‘endarken‐ment’なものであったのか? それとも、何かの光明が開かれる‘enlightenment’なものであったのか?…「エクリッセ」で考える。
 
  Eclipse-Nightfall.jpg
2012(平成24)年5月21日の日蝕は、金環(ゴールデンリング)を生じ、皆既で怪奇な「夜来たる」‘naightfall’とはならない。だが、「日蝕と珈琲」から考えるに、2012年日蝕のコーヒーに金環(ゴールデンリング)を見出せるのであろうか? それとも「夜来たる」か。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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