脱構築とすりかえ

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2012年01月22日 23時00分]
「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれた‘El Bulli’(エル・ブリ)は、昨2011年7月30日に閉店してレストラン業務から完全に撤退、真に「世界一予約が取れないレストラン」となった。共同経営者兼料理長であるFerran Adrià i Acosta(フェラン・アドリア)は、「エスプーマ」(泡)と「テクスチュア」(素材の質感)と「デコンストラクシオン」(脱構築)を操って君臨していた。「世界のベストレストラン50」で2006年から4年連続(計5回)で1位を占めた「エル・ブリ」は、2010年にデンマークの‘Noma’(ノーマ)にその座を明け渡す。その交替劇に相前後して、フェラン・アドリアは「疲労困憊したので休養する」旨の一時休業予定を漏らしはじめていたが、「エル・ブリ」自体の「テクスチュア」に着目したか、営業再開の言は「エスプーマ」にしてしまい、2014年より「エル・ブリ」を料理研究財団に変える策に「デコンストラクシオン」させて今に至る。
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『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』(El Bulli Cooking in Progress)
観賞後記
 
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『エル・ブリの秘密』の記録映画としての「テクスチュア」には、映画『小三治』に近しいものを感じる。監督Gereon Wetzel(ゲレオン・ヴェツェル)は、登場人物の情動に近づき過ぎない。考古学を修めたドイツ人監督らしい(?)手堅く落ち着いた視点で、スペインの「エル・ブリ」を発掘している。客観した映画の「つくり」は好ましいが、そのかわりに「エル・ブリの『秘密』を暴く」とか「舞台裏を覗き見る」とかいう猥雑で淫靡な面白味は全く感じられない。そのため、フェラン・アドリアやオリオール・カストロ、エドゥアルド・チャトルックらシェフたちが味わう料理の官能は、一切映画の観客には伝染してこない(館内で買ったメープルクリームクッキーを3個も観賞中に食べた私は、上映されているのが料理映画であることを忘れていたようだ)。『エル・ブリの秘密』のような唾も出ないし腹も空かない記録映画であっても、昨2011年9月下旬に催された「サン・セバスティアン国際映画祭」の料理映画部門「クリナリー・シネマ 映画と美食」のように他の料理映画と並べて上映されれば、少しは食指が動いたかもしれないが。
 
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2008年から2009年にかけて撮影されたと思われる『エル・ブリの秘密』は、映画としては2010年作品であるが、同時期に撮られた同年作品には‘Noma - at Boiling Point’がある。「世界のベストレストラン50」で2010年・2011年と2年連続で1位を奪った「ノーマ」の厨房を捉えたドキュメンタリー作品で、「サン・セバスティアン国際映画祭」の企画「クリナリー・シネマ 映画と美食」でも上映されたようだ、私も見比べてみたい。『エル・ブリの秘密』の中のフェラン・アドリアは想像以上に老けて、自らの加齢に怒りと焦りを感じているような目である。この映画で「デコンストラクシオン」(脱構築)しているのは、撮られた方では無くて撮った方だ。フェラン・アドリアは自らの「脱構築」に難渋しているのかもしれない、そう「すりかえ」て観た。
 
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今般に『エル・ブリの秘密』を観賞した映画館「シルバー劇場」は、名古屋市の「ささしまライブ24地区」整備事業で行われる道路拡張工事に伴い隣接する「ゴールド劇場」と共に入居ビルが取り壊される予定となって、2012年2月3日に閉館する。1983年8月8日に開設されて以来28年余にわたって続いた(決して無粋なシネコンなどではない)「映画館」が消えていく。昨年夏に死んだ「エル・ブリ」を映画で追悼する観賞は、今年冬に死んでいく「シルバー劇場」への痛惜観賞にも「すりかえ」られたのである。映画『エル・ブリの秘密』が追った2009年度の「エル・ブリ」作品群と、「シルバー劇場」「ゴールド劇場」開館当時の上映作品群と、2群の「メヌ・デ・デグスタシオン」を散りばめ並べ、「脱構築とすりかえ」の日々に哀悼の意を表する。
 
「モヒート カイピリーニャ」 「針の木」 「視姦白日夢」 「ゴルゴンゾーラの球体」
「ティーシュリンプ キャビアのアネモネ添え」 「少女縄人形」
「イミテーション ピーナッツ」 「アメリカーノ カクテル」 「ここに穴あり」
「パルメザン クリスタル」 「チェリー ウメボシ」 「ザ・痴漢 ほとんどビョーキ!」
「バニラ チップス」 「ブロッサムその花蜜漬け」 「陵辱暴行魔」
「ココナッツ スポンジ」 「ハムとジンジャーのカナッペ」 「変態全裸犯し」
「花とマカデミアのオイルウォーター」 「骨髄のタルタル オイスター添え」
「みだらな覗き」 「マドラスカレー風味のモンジョイ産ヒラマメ」 「しのび犯し」
「柚子の器のトリ貝 グリーンオリーブとフェンネル」 「アーモンド プレート」
「淫乱痴漢 みんな病気」 「キノコのヘーゼルナッツ油漬け 赤スグリとピーチの藻」
「カボチャのドライメレンゲのサンドイッチ アーモンドとサマートリュフ入り」
「ミカンと青オリーブのアイスビネグレット」 「女高生獣の街」
「バラのアーティチョーク」 「脳みそ入りの兎のシチュー」 「痴漢悶絶電車」 
「肉汁に漬けた兎のリブ」 「消えるラビオリ」 「恥部を抉る」
「西洋タマゴ茸のカネロニ」 「仔牛の肩の軟骨 広東風」
「熱々アパート二階のお姉さん」 「鳥の皮と腱のカナッペ ルリチシャ添え」
「種の金箔包み パルメザンラビオリ添え」 「少女マントル蕾(つぼみ)責め」
「サツマイモのニョッキ」 「氷の湖 ミント風味」 「女子大生契約娼婦」
「パイナップルのフィロ」 「アフターエイトのマシュマロ」 「楢山節考」
「フローズン ローズ」 「貝の盛り合わせ」 「細雪(ささめゆき)」
「チョコレートBOX」
 
 脱構築とすりかえ (10)
 
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コメント

No title
cocu-coffee URL [2012年01月23日 15時44分]

帰山人さんの記事を見て初めてゴールド・シルバーが閉館するのを知りました。最近はご無沙汰ですが、開業する前には映画はちょくちょく見ていたのですが、ミニシアターに足を運ぶことがほとんどでした。見たい映画はミニシアターで上映されるものが多く、またシネコンには無いミニシアター独特の雰囲気が好きだったので、ゴールド・シルバーが無くなるのは寂しいです。テーク、スコーレ、名演小劇場には頑張ってもらいたいものです。

No title
珈子 URL [2012年01月23日 17時44分] [編集]

あらー!
無くなるんですね~!シルバーもゴールドもまだ今ほど忙しくないときによく行きました。
残念です。

to:cocu-coffeeさん
帰山人 URL [2012年01月23日 19時57分]

うん、昔からあまり好きになれない古為ヘラルド商売ですが、ゴールド・シルバーの前身「マキノ劇場」時代も含めて、その身勝手なエンジェルぶりすら届かない時代になってしまったようです。平野さん木全さん島津さんにも頑張ってほしいけれど、先が明るいとは言えないでしょうなぁ…まぁ、観るべき小屋がある限りは足を運ぶだけです^^;

to:珈子さん
帰山人 URL [2012年01月23日 20時08分]

閉館は残念でありますが、もう一つ残念なのはマスコミがこの「閉館」報道する際に、開館当時の姿を「シルバー」まで二番館や単館上映として説明していることです。エロ映画館のどこが悪い!そう胸を張れないマスコミ連中には気軽に残念なんて言ってほしくありません。エル・ブリメニューに紛れさせたこの記事が私の精一杯の叫びですが、妙に溶け込んで違和感がなくなっちゃいました^^;

アラ、ホント。
マリコ URL [2012年01月25日 18時06分] [編集]

あらら、テーマがホントにかぶっちゃいましたね。こりゃ失礼。それにしても最後の羅列はかなり笑うた。よくもまあ上手く入れ込んだこと。フェランアドリアもさぞ喜ぶでしょう。恥辱と口福は似てますからね。

to:マリコさん
帰山人 URL [2012年01月25日 21時07分]

そう、似ている…もしもこの通りに食べ進んで「フローズン ローズ」や「貝の盛り合わせ」あたりまでくると、もう違うところが勃って席から立てない状況になると思うよ、自分でも(笑)。

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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