ペニスの商人

ジャンル:学問・文化・芸術 / テーマ:art・芸術・美術 / カテゴリ:観の記:美面 [2012年01月04日 23時00分]
‘The world is still deceiv'd with ornament.’(世は未だに虚飾に満ちている)
(“The Merchant of Venice”『ベニスの商人』:ウィリアム・シェイクスピア)
 
2012年1月4日
『世界遺産 ヴェネツィア展 魅惑の芸術-千年の都』 名古屋市博物館
 
Vagabond in Venice Vagabond in Venice (1) Vagabond in Venice (2)
巡回中(東京→名古屋→仙台→松山→京都→広島)の「ヴェネツィア展」を名古屋で観る。
予定されていたジャンバッティスタ・ティエポロ画《最後の審判》が出品されていないままで、
「世界遺産『ヴェネツィア』まるごと日本上陸。」などという恥知らずな惹句を掲げる展覧会。
そもそも「ヴェネツィアとその潟」(Venice and its Lagoon)が文化遺産の登録基準の
6項全てを(1987年に「莫高窟」や「泰山」と共に)満たした「世界遺産」であることに対して、
何らの具体的な説明もなければ内容もない、流行り言葉で煽るだけのタイトルには呆れる。
カルパッチョの《サン・マルコのライオン》であれ、ベッリーニの《聖母子》であれ、鑑賞者に
明確な目標物があるならば難詰することもなかろうが、「世界遺産」を付する由は全く無い。
 
Vagabond in Venice (3) Vagabond in Venice (4) Vagabond in Venice (5) Vagabond in Venice (6)
「ヴェネツィア展」の構成が良くない。「1.黄金期」「2.華麗なる貴族」「3.美の殿堂」という
3章立ての構成意図が不明である。「千年の都」と掲げておきながらヴェネツィア共和国の
興亡を年代順に追っていく分類ではない(概ねそうなっている、と言いたいのかもしれない
が、実際はゴチャゴチャに並べてある)。絵画・工芸・服飾などといったジャンル別の構成
でもない。この社会史にも美術史にもなっていない章立てでは、鑑賞の軸が見えてこない。
 
「ヴェネツィア展」の展観環境も不良。(他会場は知らないが)名古屋市博物館での照明、
劣悪で展示物が全く映えない上に展示空間全体が薄暗く観難い(作品保護の為云々、と
言いたいのかもしれないが、実際は配光の工夫がされていないだけ)。ガラスケース奥の
解説などもかなり読み難く、老朽した施設をカバーするホスピタリティにも技能にも欠けた
展示、くだらないところで必要以上に鑑賞者を疲れさせる展観環境、会場となる理が無い。 
それでも、ヴィンチェンツォ・コロネッリの《地球儀》(1688年)など、興味深い品もあった。
ロビー奥に置かれた街の模型も意外とよく出来ていた。運営は酷いが、作品に罪は無い。
 
Vagabond in Venice (7)
 《夏ともなれば、サン・マルコ広場やその周辺には、夜でも昼間のような人通りである。
  カフェは、あらゆる類の男女で溢れ返り、広場でも、通りでも、運河でも、歌をうたって
  いる》(“Il gastronomo errante Giacomo Casanova” Maria Attilia Fabbri
  Dall'Oglio,Alessandro Fortis:Ricciardi & Associati:1998年刊の訳文/
  島村菜津『バール、コーヒー、イタリア人 グローバル化もなんのその』:光文社新書)
 
私が今般「ヴェネツィア展」観賞で主眼としたのは、《大きなコーヒー沸かし器》(作者不詳)。
18世紀の作品というから、カザノヴァが性交千人斬りの為にもベッドで愛飲していた(?)
コーヒーは、こうしたポットで沸かし喫していたのであろうか、などと想いを巡らして楽しむ。
そう想うと、大きく膨らんだポットの下部の曲線や鳥の嘴を注ぎ口の意匠が妙に艶かしい。
ヴェネツィアは、カザノヴァのような「ペニスの商人」(The Merchant of penis)が面白い。
18世紀のサン・マルコ広場に次々と開店していったカフェ、そこに集った人人、それ自体が
「魅惑の芸術」だったのかもしれない…低劣な展覧会を想像力で補いながら会場を去った。
 
Vagabond in Venice (8) Vagabond in Venice (9) Vagabond in Venice (10) Vagabond in Venice (11)
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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