コーヒーを憂慮する

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2011 [2011年10月29日 06時00分]
コーヒーの未来に暗雲が垂れ込めるかのように語る「憂慮すべき」報道記事について。
    憂慮すべきコーヒー (1)
 
  「コーヒーやチョコレートがぜいたく品に?気候変動の脅威、研究」
   気候変動問題の専門家や大企業の予測が正しければ、一杯のモーニングコー
   ヒーやチョコレートバーといった愛され続けてきた食品が、過去の遺物になる
   可能性がある。 科学者や農家、それに米コーヒーチェーン大手スターバックス
   (Starbucks)などは前週、気候変動がアラビカ種のコーヒー豆に深刻な脅威を
   及ぼしているとの厳しい警告を、英紙ガーディアン(Guardian)に寄せた。
   スターバックスのサステナビリティ(持続可能性)部門ディレクター、ジム・ハンナ
   (Jim Hanna)氏によると、農家はすでに気候変動の影響を受けており、激しい
   ハリケーンや耐性菌などにより作物に大損害が出ているという。 米科学者団体
   「憂慮する科学者連盟(Union of Concerned Scientists、UCS)」によると、
   気候変動は、世界の主要コーヒー生産地のほぼ全域で、コーヒーの収穫に
   脅威を及ぼしている。ハンナ氏は今週、UCSの提供で行われるイベントで、同様
   の発表をする予定だ。 コーヒーの供給量は近年、気温上昇と干ばつの長期化、
   それに続く豪雨と作物の病気により劇的に減少している。UCSによると、たとえば
   インドのコーヒー生産量は2002年から2011年の間で30%近く減少した。 生産の
   減少を受け、米スーパーで販売されるマックスウェルハウス(Maxwell House)や
   フォルジャーズ(Folgers)といったコーヒーブランドも、2010年と11年に価格を
   25%近く値上げした。 スターバックスがコーヒー不足の危険性について厳しい
   警告を発したことは、同社がしぼりたてジュースビジネスに参入するとの米紙
   ニューヨーク・ポスト(New York Post)の報道をさらに沸騰させた。…
   (AFPBB News:2011年10月24日)
 
上記の報道において唯一の具体例として取り上げられたインドのコーヒー減産傾向に
関して、確かに「憂慮する科学者連盟」(UCS)の元記事にも同様の広報がされている。
だが、インドのコーヒー生産量の変動は真に気候変動に起因するものなのか?いや、
そもそもインドのコーヒーは「2002年から2011年の間で30%近く減少」しているか?
 
USDA(アメリカ合衆国農務省)統計によれば、インドのコーヒー総生産量は、2001/
2002年度の501万袋(60kg袋換算:以下同)に対して2010/2011年度は510万
袋、と微増している。念の為に対象年度を1年動かしてみても、2002/2003年度が
458万8千袋に対して2011/2012年度予想は480万袋、とやはり増加している…?
さらに念の為にICO(国際コーヒー機構)統計を見れば、2001/2002年度の460万
4千袋に対して2010/2011年度は473万3千袋、と微増している。ではUCS記事が
輸出量と捉え間違えたのか?念には念を入れて対照すると、2001/2002年度の
391万袋に対して2010/2011年度は410万袋(USDA統計)、さらに対象年度を
1年動かしてみても、2002/2003年度が341万7千袋に対して2011/2012年度
予想は375万袋、とやはり増加している…?生産量でも輸出量でもインドのコーヒー
減少傾向は統計上に表れていないのである。他にも、在庫を含めた総供給量、栽培
面積などの推移をCBI(インドコーヒー公社)統計などでも追ったが、「30%近く減少」
に該当する統計値は見出せなかった。強いて言えば、アラビカ種に限定した生産量は
2001/2002年度の201万8千袋に対して2010/2011年度は150万袋、と減少
している。しかし、これは栽培面積の微増に反して単位収量が落ちているからであり、
その主因はWSB(White Stem Borer)やCLR(Coffee Leaf Rust)など病害による。
これらの病害を気候変動によるものと断ずる証左は無い、すなわち先述の記事中で
気候変動に影響されたコーヒー減産と具体例にされたインドの実態は真実では無い。
    憂慮すべきコーヒー
 
  「コーヒーやチョコレートがぜいたく品に?妄言の悪意、研究」
   気候変動問題の専門家や大企業の予測が正しければ、一杯のモーニングコー
   ヒーやチョコレートバーといった愛され続けてきた食品が、過去の遺物になる
   可能性があるが、偽科学者やスターバックスなどが煽動している内容は正しく
   ないので、その妄言には偏重した意図が作用していると考えられ、彼らの存在
   自体がコーヒー豆に深刻な脅威を及ぼしている。 日本珈琲狂会(CLCJ)の
   鳥目散帰山人氏によると、日本のコーヒー愛好家もすでに彼らの妄言の影響を
   受けており、激しい煽動や非科学的な言説などにより事実の認識に大損害が
   出ているという。 しばしば科学者団体を名乗るも実は大半が一般市民の団体
   「憂慮する科学者連盟」(UCS)は、世界の主要コーヒー生産地のほぼ全域で
   脅威を及ぼしている。帰山人氏は、今後CLCJや日本コモディティコーヒー協会
   (CCAJ)の提供で行われるイベントなどで、「『憂慮する科学者連盟』を憂慮する
   コーヒー愛好家連盟」結成にむけて呼びかけを発表する予定だ。
 
…などとコーヒーに関する妄言を煽動に使用する団体に警告する冗句を吐きたくなる。
コーヒーの未来に暗雲が垂れ込めるかのように語る記事には当に「憂慮すべき」だ。
 
コメント (6) /  トラックバック (0)

コメント

No title
ナカガワ URL [2011年10月30日 05時36分]

目の当たりにして騙されたり、誤解したり、意図的に曲解したり、見てくるのは大切だと思うのですが、あまりに広大で見えざる神の手や、誰かの思惑を推し量るのは難しく、どうしても時差があります。手に入るものだけを見て、触って、味をみて、それだけから得られる情報では不十分だという人もいます。今しばらくは、細部に宿る神を探し、それに祈ってみます。唯一の神が試練をお与えだという話は、どうも性にあいません。

No title
y_tambe URL [2011年10月30日 23時55分]

>その主因はWSB(White Stem Borer)やCLR(Coffee Leaf Rust)など病害による。
>これらの病害を気候変動によるものと断ずる証左は無い

うーん、ここは難しいですね…少なくともCLRに関しては、その発生が気候と関連してる可能性はそこそこある。一つは病原体の胞子の至適発育温度が22-24℃と、コーヒー産地としてはやや高めなこと、もう一つは降雨が感染に影響すること(風雨が胞子を媒介する/ただし強い雨には、葉に付着した感染前の胞子を洗い流す働きもある)。なので気温上昇や、雨量の変化は、CLR発生の要因の一つになりうる。
ただし、これ以外の要素として、栽培品種の選択や栽培方法の変化(栽培密度やシェード使用の有無、農薬使用方法の違いなど)、流行するサビ病菌の型の変遷なども影響しうるので、CLRを「気候変動によるものと断ずる証左は無い」というのも、まぁ間違いとは言えないかなぁ。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年10月31日 12時02分]

自然保護区を新たに設定して先住部族を強制移住させ、その移住地でも保護法によって換金作物の制限が加えられる…そうした推移がアフリカ諸国以上に先進(?)しているインドでも、部族困窮の理由は「気候変動」による温暖化や砂漠化が主因であるかのように報じられています。「人為と見せない人為」を「見えざる神の手」かのようにしているならば、部族の神は何と思われているのか?そうした思慮は、先進各国の恣意にはほとんど感じとることができません。

to:y_tambeさん
帰山人 URL [2011年10月31日 12時29分]

いつもながら鋭いご指摘です。確かにコーヒーの病害が気候変動と無縁かのように聞こえてしまえば、それも「妄言」になってしまいます。表現に気をつけなくては…^^;;
それでも尚、総じて言えば「インドコーヒーの収量悪化の主因を気候変動によるものと断ずる証左」は私は見出せなかったのですよ(見逃している可能性もあるけれど…)。そもそもCBI(インドコーヒー公社)などが、単位収量の統計を地域別や品種別など次第に詳細に開示しはじめたのがここ10年くらいじゃないかと…良くも悪くもコーヒーマーケットに対して視点が細分されればされるほど、「一事が万事」みたいな誇張のネタは増えてしまうワケで…
少なくとも、今般のインドのコーヒーマーケットの推移に関して、私は政治的・経済的な思惑が強く作用したことを主因と捉えています。

じょにぃ URL [2011年11月01日 14時37分] [編集]

いずれ気温上昇でコーヒーベルトが広がって日本も熱帯化して長野辺りで珈琲が栽培されるようになるのでしょうか。
コーヒー自家焙煎技術講座復刻版ですが、ジュンク堂に問い合わせたら二冊在庫があり早速手に入れました。実のところまだ最初の生豆の写真しか見てないんですけど^^;でも何かワクワクします。Amazonしか利用しなくなってしまったじょにぃは情報難民なのかもしれませんね。Amazonに皆群がって無くなればもう何処にもないような錯覚に陥りますね。都会には在庫がなく地方には在庫がある。在庫があっても地方では需要が少ない。でも時間が経ってもこうして手に入れることが出来る。良いのか悪いのか^^;でも復刻版がジュンク堂をはじめ限られた本屋でしか売っていないと言うのは身内にしかわからない情報なんじゃないかなと・・・アンテナはってればわかるのかもしれませんけどね。読書の秋。この本を読み砕くだけの精神的余裕は~。ははは(^^;)

to:じょにぃさん
帰山人 URL [2011年11月01日 21時35分]

>長野辺りで珈琲が栽培されるようになる…
どうなんでしょうかねぇ…温暖化が進むとして、その変動がコーヒー栽培に適したclimateになるのかどうか^^;ま、熱帯になってもコーヒーは飲めますが、長野でカカオも栽培されるようになってもその頃には日本で固形のチョコレートを口にすることは難しくなるので、今のうちに味わっておくならば固形チョコですナ(笑)
『コーヒー自家焙煎技術講座』何にしろ良い本を入手できましたね。今回の復刻で入手された方は、もれなく大全2冊と情報進化の対照をしながら読める楽しみがあるワケで、ある意味ウラヤマシイ^^秋の夜長にタップリとお楽しみください。

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
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