コーヒーの世界遺産 2

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2011 [2011年08月14日 23時00分]
コーヒーの世界遺産」、今般はコーヒーに近いようで遠い「世界遺産」話を考えてみよう。
 
 
【小笠原とコーヒー】
 
2011年6月に開催されたUNESCO(国際連合教育科学文化機関)の第35回世界遺産委員会会合において、World Heritage(世界遺産:Natural site自然遺産)に登録された‘Ogasawara Islands’(小笠原諸島)。世界遺産「小笠原」とコーヒーは繋がるのだろうか?
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「世界遺産内定の小笠原で栽培される日本国産コーヒー!」(2011年6月1日:カフェアパショナート東京によるプレスリリース)…こうした例に限らず、まるで世界遺産の登録域内でコーヒー生産が行われていているかのように言う、あざとい商売が始まっている。だが、世界遺産となった小笠原諸島の島々(と周辺の岩礁や海域)の中で、父島と母島における定住人家の近域は対象から除かれており、この2島で栽培されているコーヒーも対象境界域に近接しているに過ぎない。小笠原諸島(硫黄島・沖ノ鳥島・南鳥島を除く)は、「陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において、進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの」という登録基準(条件9)に相当するからこそ世界遺産に登録されたのである。その「自然」遺産への登録を欣喜雀躍の態で受け入れた上で、そこに「人為」生産のコーヒーを絡ませるとは、いかなる料簡であろうか? 心得違いも甚だしい。「自然」遺産を絡ませた「人為」の商魂、他の事例で、「知床」の雪景色をデザイン使用した「ジョージア」缶コーヒー(コカ・コーラ)や「白神」の水を使った「アイスコーヒー」(ナガハマコーヒー)などについては、鼻先で笑って済ませられるとしても、小笠原産のコーヒーに関しては厳しく捉えるべきではないだろうか。
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小笠原産コーヒーにおいては、コーヒーベルトを越えた北限の生産地という地理的価値、明治時代においてメキシコ移民策の前駆として進めた栽培であろうという歴史的価値、それらの存在意義は確かであろうが、これらに並べて、登録された世界遺産の趣意から疎まれるべきコーヒー生産を誇るべきかのような付加価値として謳うことは、愚劣である。私自身は未だ「世界遺産」というシステム自体に「顕著な普遍的価値」を認めていないし、他方で小笠原においてコーヒーが栽培されていることをいたずらに悪しとも考えていない。しかし、仮にも自然遺産として大事に思うのであれば、「世界遺産の小笠原を危機遺産に移し替えかねない人為外来の日本国産コーヒー!」とでも称して販売するべきであろう。
 
 
【ジェルジェルツーとコーヒー】
 
「ジェルジェルツーワールドヘリテージの会」は、エチオピア連邦民主共和国のオロミア州東ハラルゲ(旧ハラルゲ州)に位置するジェルジェルツーを世界最古のコーヒー栽培地とみなして世界遺産に登録させようと企てている団体。その有志は実効を生ずるだろうか?
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「…ジェルジェルツー村を世界遺産に登録する働きかけをエチオピア政府に行う。また、達成後は同村周辺の住民の文化的、経済的支援を通して、世界遺産の存続に寄与することを目的とする。」(規約第2条)として2005年頃より広報や署名活動を展開している「ジェルジェルツーワールドヘリテージの会」。だが、活動意義を語るは仰々しいものの、世界遺産に相当する登録基準の条件選択は不明であり、ユネスコ世界遺産センターによる登録推薦に至るまでのロードマップも一切示されておらず、真に迫らない実態である。
 《…世界最古の珈琲農園である事は疑う余地がありません。…皆さんの
  協力と知恵でこの至福の地、珈琲樹とその生産方式を世界遺産として
  後世に残したいものです。》
  (「ジェルジェルツー村世界遺産登録推進運動の今日的意義」)
実際には私が知る限りにおいて「世界最古」を裏付ける客観的証左は何も無いが、思いいれたくなる偏心や妄信は鼻先で笑って済ませられるとしても、コーヒー栽培の方式を動態保存するに「世界遺産」なる手法が適当か否か、厳しく捉えるべきではないだろうか。
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ジェルジェルツー産コーヒーにおいては、ハラール地方に残存する伝統的な生産方式という歴史的文化的価値、その存在意義は確かであろうが、保存する手法として、実効の見込みが薄い「世界遺産」への登録ばかりを謳うことは、コーヒーにして有名無実である。私自身は未だ「世界遺産」というシステム自体に「顕著な普遍的価値」を認めていないし、他方でジェルジェルツーにおいてコーヒーが栽培されていることを悪しとも考えていない。しかし、仮にも伝統栽培として大事に思うのであれば、FAO(国際連合食糧農業機関)が定めるGIAHS(Globally Important Agricultural Heritage Systems:世界重要農業遺産システム)通称「世界農業遺産」としての認定を受ける活動に転換するべきであろう。
 
 
小笠原諸島の自然もジェルジェルツーのコーヒー栽培も、それを「遺産」と評するような状況にした要因が人類であれば、それら「遺産」を保全しようと考えるのも人類である。上述したような暗愚は避け、真の「顕著な普遍的価値」を根本から問うべきではないか。
 
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コメント

No title
ナカガワ URL [2011年08月16日 10時21分]

国産コーヒーとか、生産国の地産地消という言葉を聞く度に、別に(ニワトリになって)産まなくても卵の良し悪しはわかる、というある美食家の言葉が思い浮かびます。いつも豆から消費国を見てきました。わたしにとっては、生豆を広げたときに見る質が、その生産者の方々のディーセントとディグニティのドキュメントだと思っています。本場へ留学したら料理が、演奏が素晴らしくなる----そんな人ばかりではありませんし。「国産」志向って、危なくないのでしょうかねえ、いろいろな意味で。究極は「日本人たるもの日本茶を飲むべし。日本式緑茶には中国茶の伝統とも一線を画す唯一無二の独自性がある、古来より日本独自の飲料である。この世界遺産ともいうべき日本式緑茶を保護するべきである」----次の震災のときに、街の小さなコーヒー店が打ち壊しに合うようになるかも----「まさかマサカーに」かくまってくれるお茶屋さんを探しおかないと。
うーん「最古の」とか「最初の」とかもご同類かしらねえ。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年08月16日 13時35分]

特異独自な香味であること(スペとか)、特異独自な栽培であること(有機とか)、特異独自な社会性を有すること(FTとかRAとかBFとかサスとか)、稀少限定であること、国産であること、原種であること、古いこと…これらは各々全く違う価値を有しているのに、同じ付加価値かのように取り上げられ商売に利用されている…この過ちを過ちと自覚できないバカが偉そうな顔で語っていると、横っ面を張り倒したくなるのですよ私は。以前に南北問題や民族差別にウルサイ知人から、ワールドカップやオリンピックでの日本チームに対してもっと熱く応援せよ、と言われました。それはそれ、これはこれ、で済ますことのできない私は、絶交させていただきました。…彼と私、いずれを世界遺産にするべきなのか?(笑)

No title
ナカガワ URL [2011年08月16日 17時43分]

お二方共に即身成仏していただいてセット展示で世界遺産です。相応しい廃墟も必要です。双方複数名の道連れをテラコッタに埋め込んで、兵隊として配備できます。お台場の海岸で頭と掌だけ残して埋めて差し上げましょうかしら。

to2:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年08月16日 21時06分]

ヘリテージの会事務局に「世界遺産という手法を選択した理由」をメールで訊ねたことがあります。なしのつぶて、でした。その後JCSで広宣していた際に署名を敬遠し、快く署名した大坊さんを「そこまで頑なに考えなければいけませんか?」と苦笑させました。…やはり私が遺産になります。でも世界農業遺産の方でお願いします。カフェインが桁違いに多く含有したコーヒーノキが生えてくるかもしれません。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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