返してこい!

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2011 [2011年08月05日 04時00分]
「サイフォン」と略称されるコーヒー抽出器具、その下部にある熱源(アルコールランプ・ガス・電熱ヒーター・ハロゲンヒーター)を指して「脚光」を浴びせようとしたのであろうか、サイフォンコーヒーの器具と抽出技術にのみ焦点を絞ったコーヒー本が登場した。
 syphonist.jpg  syphonist (1)
 
『サイフォンコーヒー プロフェッショナル テクニック』(巌康孝・吉良剛:著/旭屋出版:刊)
 
 《この本がこれからのサイフォニストと、技術の向上を目指すバリスタの役に立ち、
  おいしいサイフォンコーヒーが飲めるカフェが世界中に広がれば幸いです。》
巻頭言の最後にある一文が本書の謬見全てを象徴している、と私には感じられて悄然。
 
サイフォニスト?…実質は日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)の新造語であろうか、2007年より開催の「ジャパン サイフォニスト チャンピオンシップ(JSC)」、2009年より開催の「ワールド サイフォニスト チャンピオンシップ(WSC)」を喧伝したい商業的意図が芬芬(ふんぷん)と臭う、たわいも無く取るに足りない。「コーヒー 悪魔の辞典」補記候補?
 《本書では、そのサイフォニスト・チャンピオンシップで優勝経験のある2人に…》
と『サイフォンコーヒー プロフェッショナル テクニック』には記されているが、著者2人共に「ジャパン バリスタ チャンピオンシップ(JBC)」のサイフォン部門であった際の優勝者であって、巻末対談も含め著者2人は自らを「サイフォニスト」とは一言も称していない。
 
バリスタ?…サイフォンコーヒーの技術を説くことが何故バリスタの役に立つのか、不明。USAや日本で流行しているラテアートやデザインカプチーノを描くに長けたい者どもに、演出技法の幅を拡げる意図でサイフォン使いにまで目を向けさせたいのであろうか? しかし真のバリスタ‘barista’とは、バールマン‘barman’やバンコニスタ‘banconista’と時に重なり時に区分されるべき存在である。
 《もし、彼が左利きなら、左側にスプーンをまわして出す。それが本物のバール
  マンというものです。》(『バール、コーヒー、イタリア人』島村奈津:著)
…サイフォン技術が役に立つ(?)ような亜流の詐称バリスタ、笑止。
 
世界中に広がれば幸い?…日本でも広がりきらぬ抽出法を「世界中に」とは大言過ぎる。
 《巌:実際、行くにしても、サイフォンの店少ないでしょう?(笑)。
  吉:確かにない(笑)。》
著者2人が巻末対談で認めている通りである。だが、その理由は「サイフォンのストライクゾーン」が見えていない、という著者の説明だけでは不足、と私は考える。例えば、俗に御三家と称される業界人をはじめ、(その主張の賛否や真偽はともあれ)日本では多くのコーヒー業界人が「ネルドリップこそ至高の抽出法である」と信じ唱えて久しいが、これを否定して「サイフォンこそ極致の抽出」と断言する比肩者を私は知らない。「弱みはあるが使いようではこれも良い抽出器具です」程度の腰が引けた吹聴では、高が知れている。
 
 
著者2人のサイフォンコーヒーに対する無垢の意気を、全てで腐す立場に私はないが、
 《吉:…巌さんがすごいのは、5年間、全部自分でコーヒーを出してたということ。…
  巌:燃え尽きてしまいましたけど(笑)。》
という対談中の言には、「笑い事じゃネェ」と顔をしかめる老獪手練の喫茶店主たちが思い浮かんでしまう。長ければ良しとも思わないが、5年で燃え尽きては、「EVIAN」や「アカダマ」では尽きて灰どころか塵すら残らないことになりはしないか? 心痛である。
 
 
『サイフォンコーヒー プロフェッショナル テクニック』は、著者2人の抽出技法が写真を多用して明かされているが、両者共に正攻なテクニックで特段に目新しいところは無い。同じ旭屋出版の2007年刊『コーヒー&エスプレッソの教科書』は、サイフォンコーヒーに焦点を絞ったものではないが、実に9店+2社の計11に及ぶサイフォンコーヒー抽出が採り上げられている。また、柴田書店の1982年刊『blend ブレンド―No.1』では、
 《いったんロートに湯が上がったら、火を弱めてロートの中の湯を少し下げる。
  そしてまたロートに湯を上げれば、コーヒーの粉に接触しない水はほとんど
  なくなる。》
という「はなふさ」の“二度だて法”を紹介している。これら旧刊の方が余程刺激的である。
 
『サイフォンコーヒー プロフェッショナル テクニック』では、著者2人の対談が吉良氏の「かかってこい、という感じ!?」という気勢で締められている。サイフォンコーヒーのテクニックを本書のみで学びきる、と謬論する次代のサイフォニスト(?)には私からの「かえしてこい、という感じ!?」という返本の忠告で絞めておきたい、そんな本である。
 
コメント (12) /  トラックバック (0)

コメント

No title
ナカガワ URL [2011年08月06日 19時31分]

昔、デロンギがアンティック・サイフォン、名は「オデット」だったような、の復刻版を販売したことがありました。原理はサイフォンだったと思います。最後は蛇口付きのコーヒーポットになります。シーソーを利用したオート・サイフォンで、コーヒーメーカーの先祖としては、なかなか素晴らしい「からくりもの」と思いました。何がいいたいのかというと、サイフォンって「コーヒーメーカー」ですよねえ。
日本のコーヒーメーカー初期のころ、粉を蒸らすために途中で一端無理やり湯を止めたりして、試したことが忍ばれます。
エッ!ということは、そのうちにパナソニック主催ジャパン「キャリオキスト」選手権なんてのもできる?かしら。

No title
ナカガワ URL [2011年08月06日 19時38分]

昔、鈴鹿にあった自家焙煎がサイフォンで、何かの取材で自店のサイフォン抽出メソッドを語っていたような気がします。
いっそバリスタ・チャンピオンとサイフォン・チャンピオンの間で統一世界戦みたいなのをやったらどうかしら。いや異種格闘技戦?かしら。

No title
y_tambe URL [2011年08月06日 22時12分]

思ったよりもカラい点数でびっくり…いや、書店でざっと見たときにはそこまで悪い印象ではなかったのだけどなぁ。まぁとりあえず、僕も「サイフォンを語るんなら、まずトンボべらを正しく評価してみて」という、大概にたちの悪い人種ではあるのだけど。

No title
teaR URL [2011年08月06日 23時06分] [編集]

こんばんは。例によってこの本知りませんでしたが、辛い評価ですねー。

グリーンズは神戸では好きなお店ですけどね(特に感動的な何かがあったわけでもないですが)。

チャンピオンシップのチャンピオンのお店だと、とむとむで痛い思いをしてますねー。それからこないだたまプラーザに行った際、そういえば小川コーヒーあったなぁ、豆でも買ってみようかなと寄ってみたのですが、あまりの煎りムラのすごさに買えませんでした。まぁ美味しいのもあるのは理解しているんですけどね。ちょっとあれを見て買うのは勇気がいる。

昔の本の方が内容が充実しているというのは困ったもんですね。二度だて法は興味深いな。ウチにあるサイフォンは完全にインテリアです…。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年08月06日 23時07分]

>日本のコーヒーメーカー初期のころ、粉を蒸らすために…
「注湯が始まる前に電源を切って蓋を開けて手淹れで蒸らし、再び電源を入れた後も監視を続け、過抽出を防ぐために最後も電源を切る、これが正しい使い方だ!」っていう投稿を見たことがあったんだけど、どの雑誌だったかなぁ…(探すのメンド臭い:笑)。
私はネ、昔に山谷の珈琲店で、買ってきたバゲットをオカズにして「ケッコウいけるじゃん」って皆で飲んだ珈琲が、コーヒーメーカーで淹れた至高の味だと今でも思っているんですよ。だから「キャリオキスト」選手権も、原料は「バッハブレンド」に、採点対象は待っている間の「話題」で、行うべきであります。

to2:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年08月06日 23時38分]

>昔、鈴鹿にあった自家焙煎がサイフォンで…
それって、駒沢に移転されたH店さんのコト?つまりスペ大全書評「進取の新種」でコメいただいた「世界珈琲科学技術研究所」のKさん?たぶん、あの方ならば一人でコーヒー「世界統一」されていると思いますけど^^;
統一世界戦だろうが異種格闘技戦だろうが、「プロレスのリングでおこなわれるものは、すべてプロレス」であるように「コーヒー用の装置で淹れられるものは、すべてコーヒー」であります!…あ、コーノ式サイフォンは紅茶兼用で売り出されたんだった!違うトコロで統一していたワケね^^;;

to:y_tambeさん
帰山人 URL [2011年08月06日 23時54分]

やっぱり辛過ぎ?いや、巌さん吉良さんを責めたいワケじゃないんですがネ、強いて言えば旭屋出版を責めているワケで…だって、玉石混淆が常とはいえど旭屋さんはイイ本とショボイ本の差があり過ぎるモン!『コーヒー&エスプレッソの教科書』を超えない限りはショボイ企画としか言えません^^; まぁ、「コーヒー業界にも出版界にも、内容は焼き直しでも表現を変えて時宜にかなった押しが必要、って嫌なオトナの論理」を知っていて叩くタチの悪さは自覚しているんですがね、私も。

to:teaRさん
帰山人 URL [2011年08月07日 00時49分]

>昔の本の方が内容が充実しているというのは…
まぁ、昔の本を読めない方々にはイヤミに聞こえるかもしれません。でも、同じ出版社が数年置きに焼き直し(しかも内容が劣化し退行している)本を出す酷さに関しては、コーヒー本は顕著ですね、そんな出版社多いです。そんな中で『blend ブレンド』はムック系で未だに最高の本ですね…つまりムック系だけでも約30年間に渡って日本のコーヒー本は進歩していないワケでして^^;まぁ、山内さんがもう一度、今度は石脇さんや旦部さんと組んで作ればイケるかもしれません…

No title
ナカガワ URL [2011年08月10日 13時25分]

旭屋さんは焙煎技術にまつわるムックも発売しました。また「お仕置き」お願いします。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年08月10日 21時36分]

ハイ、Amazon待ちです。Konozamaをくらうかもしれません。ところで「仕置」は裏家業のハズ…「珈琲界の昼行灯」帰山人には、何のことやらとんと見当もつきませぬ…

No title
じょにぃ URL [2011年08月11日 09時34分] [編集]

帰山人さん。
ど~も。

私も
サイフォンの本と
焙煎技術にまつわるムック
アマゾンで到着待ちです。

帰山人さんのお話楽しみにしています。

blend ブレンド―No.1

私も手に入れたくいろいろ探しましたが
見つからず。

一度読んでみたいです。

to:じょにぃさん
帰山人 URL [2011年08月11日 12時58分]

『blend ブレンド』みたいなMook形態の出版物は、復刻され難いですから、見つけた時に即確保しかありませんねぇ。書籍形態の駄本(?)では到底届かない価値があるのに・・・単なるコレクションを超えて、刊行された意図や背景、その出版物の存在そのものや資料的な価値、そんなところにまで気を配った「コーヒー本図書館」があればいいのになぁ、と思っているのですがネ・・・担い手がいない^^;

この記事にコメントする

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://kisanjin.blog73.fc2.com/tb.php/370-a3eb789b
編集

kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

10 ≪│2017/11│≫ 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
Powered by / © Copyright 帰山人の珈琲漫考 all rights reserved. / Template by IkemenHaizin