コーヒーの世界遺産

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2011 [2011年07月08日 06時00分]
‘Coffee Cultural Landscape of Colombia’(コロンビアのコーヒーの文化的景観)が、2011年6月19日から29日まで開催されたUNESCO(国際連合教育科学文化機関)の35th Session of the World Heritage Committee(第35回世界遺産委員会会合)において、新たなWorld Heritage(世界遺産:Cultural site文化遺産)に登録された。
 
  コーヒー世界遺産
‘Coffee Cultural Landscape of Colombia’(コロンビアのコーヒーの文化的景観)は、コロンビア共和国内の西寄りを南北に走るアンデス山脈域の中央部と西部に位置する。スペイン植民地時代からの伝統風景を残し、標高1300~1600mの山岳地でコーヒー栽培を約100年に渡って続けてきた、6つの農村地域の景観を世界遺産としている。
 
Zone Aは、San Lorenzoサンロレンツォの一部を含め、カルダス県のRiosucioリオスシオとSupíaスピアの周辺域。
Zone Bは、リサラルダ県のQuinchíaキンチア自治区とNaranjalナランハルの一部の農村地域。
Zone Cは、リサラルダ県のMarsellaマルセラ、Pereiraペレイラ、Santa Rosa de Cabalサンタロサ・デ・カバルの自地区群、及びカルダス県のAguadasアグアダス、Chinchináチンチナ、Neiraネイラ、Palestinaパレスチナ、Pácoraパコラ、Salaminaサラミナ、Villamaríaヴィラマリアの自治区群の、中央山脈近辺の農村地域。
Zone Dは、キンディオ県のArmeniaアルメニア、Calarcáカラルカ、Circasiaシルカシア、Córdobaコルドバ、Filandiaフィランディア、Génovaジェノバ、Montenegroモンテネグロ、Pijaoピハオ、Quimbayaキンバヤ、Salentoサレントの自治区群、及びリサラルダ県のPereiraペレイラ自治区、バジェ・デル・カウカ県のAlcaláアルカラ、Ulloaウリョア、Caicedoniaカイセドニア、Sevillaセビラの自治区群の、中央山脈近辺の農村地域。
Zone Eは、バジェ・デル・カウカ県のTrujilloトルヒージョとRiofríoリオフリオの両自治区の農村地域。
Zone Fは、カルダス県のAnsermaアンセルマ、Belalcázarベラルカサル、Risaraldaリサラルダ、San Joséサンホセの自治体群、及びリサラルダ県のApíaアピア、Balboaバルボア、Belén de Umbríaベレン・デ・ウンブリア、La Celiaラ・セリア、Santuarioサントゥアリオの自治区群、バジェ・デル・カウカ県のAnsermanuevoアンセルマヌエボ、El Águilaエルアギラ、El Cairoエルカイロの自治区群の、西部山脈近辺の農村地域。
 
上記の6つの景観域はカリからメデジンに至る道、アルメニアからペレイラとマニサレスに至る道で結ばれている。この世界遺産に登録されたコロンビアのコーヒー栽培地は、計47自治区で約2万4千のコーヒー農園と居住者約8万人の家を含み、合計面積は14万1120ヘクタールに及ぶ、日本の静岡市全域に匹敵する広大な「遺産」である。
 
コロンビアのコーヒー栽培は18世紀中葉が始原と推測されるが、その約1世紀後の19世紀中葉にはマグダレナ川流域の山間平坦地に資本主義プランテーション型のアシエンダ(大規模農園)が展開されていた。ククタ、ボゴタ、ブカラマンガ、サンタマルタなどのブランド名産地は、順次19世紀後半に確立していったものと思われる。しかし、この間に頻頻と起きた内戦を経て、中央集権主義勢力を支持する旧来のアシエンダは次第に衰退して、替わってより西部の山岳地帯に小規模なフィンカ(農園)を開拓するコーヒー栽培者が増大して分権自由主義勢力となった。コーヒー国際相場が暴落した1899年にはコロンビアの国家財政は破綻、新興のコーヒー栽培農家が各地で反乱を起こし、これを因に約15万人の犠牲者を出した「千日戦争」(~1902年)が勃発した。この後‘Colombianos a sembrar cafe’(コロンビア人よ何が何でもコーヒーを植えろ)の掛け声とともに、コロンビア産コーヒーにマニサレス、アルメニア、メデジンなどのブランド名産地を加えていった栽培者、彼らは19世紀終盤から20世紀初頭にかけて山岳地で「戦うコーヒー農家」でもあった。現在でも国内生産量の約3分の1を占めるこれらの栽培地は、その景観の歴史的後背に血の川が流れている世界遺産である。
 
  コーヒー世界遺産 (2)
コーヒーに関連する世界遺産には、‘Coffee Cultural Landscape of Colombia’(コロンビアのコーヒーの文化的景観)に先行して、2000年に文化遺産に登録された‘Archaeological Landscape of the First Coffee Plantations in the South-East of Cuba ’(キューバ南東部のコーヒー農園発祥地の景観)がある(※)。 これは、キューバ共和国のサンティアーゴ・デ・クーバ州とグアンタナモ州にまたがるマエストラ山脈一帯の原生林を開拓した考古学的景観であり、171のコーヒープランテーションの遺跡が散在する合計面積8万1475ヘクタールの土地が登録されている。19世紀初頭にフランス領サン・ドマングがハイチとして独立すると、隣島のスペイン領キューバにフランス人農場主と黒人奴隷が移住し、サトウキビ栽培に並んでコーヒー栽培のプランテーションが移入開拓された。しかし、一時は凋落したハイチのコーヒー産業が独立後には次第に(世界第3位の生産量にまで)復興したのに比し、キューバでのコーヒープランテーションは約1世紀間に漸次衰退していった。その要因の一は、ブラジルに続いてコロンビアのコーヒー生産が急速に伸張したことによる。すなわち、キューバのコーヒー栽培地が世界遺産に登録される遺跡となった背後には、後追い同じ世界遺産に登録されたコロンビアのコーヒー栽培地の伝統景観が作用している、コーヒー関連の世界遺産2件の間には極めて辛辣で悲愴な歴史的相関があるのだ。
 
  コーヒー世界遺産 (1)
‘Tropical Rainforest Heritage of Sumatra’(スマトラの熱帯雨林遺産)が、35th Session of the World Heritage Committee(第35回世界遺産委員会会合)において、World Heritage in Danger(危機遺産)に新たに移し加えられた。この2004年に登録されたNatural site(自然遺産)は、グヌン・ルスル、クリンチ・スブラット、ブキット・バリサン・スランタンの3つの国立公園からなる計259万5124ヘクタールに及ぶ熱帯雨林地帯だが、違法な密猟や乱伐や農地開拓が横行し、熱帯雨林を横切る道路の建設計画が立ち上がったことから、危機遺産入りした。その背後にはコーヒー消費国の関連企業が存在し、コーヒー栽培地に棲息する生物の絶滅危惧が直結する課題であることは言うまでもない、コーヒー危機である。
 
 
世界遺産に登録される対象は、‘Outstanding Universal Value’(「顕著な普遍的価値」)を有している必要がある、とされている。しかし、UNESCO(ユネスコ)のWorld Heritage(世界遺産)というシステム自体に「顕著な普遍的価値」を認めていない私としては、コーヒーに関連する世界遺産が増加することを手放しで喜悦することは致しかねる。昨今ではオリンピックやワールドカップの誘致合戦と何ら変わることがない巷間の迎合、こうした浅慮で愚劣な騒ぎを起こす生物種(=ヒト)自体を自然遺産とし文化遺産とするのであれば、世界遺産の「顕著な普遍的価値」も真っ当に感じ、コーヒー研究も捗るか?
 
  
  ※直接的では無いもののコーヒーに関連する世界遺産としては他にも、
   チリ共和国の「ハンバーストーンとサンタ・ラウラの硝石工場群」(2005年:危機文化遺産)
   パプアニューギニア独立国の「クックの初期農業遺跡」(2008年:文化遺産)
   ベネズエラ・ボリバル共和国の「コロとその港」(1993年:危機文化遺産)
   などが挙げられる。いずれも歴史的・社会的にコーヒーが関与する世界遺産である。
   また、新規に登録された世界遺産Ogasawara Islands(小笠原諸島)とコーヒーについて、
   エチオピア共和国のコーヒー農園を世界遺産に残す「ジェルジェルツー ワールドヘリテージの会」
   の活動などには今般は触れない。これらについては後日別稿にて言及する予定である。

 
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コメント

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チームリバティベティです URL [2011年07月10日 16時36分]

ご無沙汰しております。
掛川マラソンのときご一緒させていただきました。
夏本番ですね。島田にいらっしゃるときは、お声を掛けてくださいませ。
帰山人さんが、こんなにコーヒーに精通なさっているなんて想像もしておりませんでした。
並ではありませんね。

to:ベティさん
帰山人 URL [2011年07月11日 10時32分]

どうも~^^、その節(掛川)ではお世話になりました。
精通…いやいや、日本にも世界にも、もっとスゴイ方々はイッパイいますから…まぁ、(商売や学究の)プロじゃない立場の中では「並」ではないかもしれません…でも、ランナーとしては「並未満」ですから^^;;

No title
ナカガワ URL [2011年07月14日 21時36分]

日本ではすべて「○×農園」式に訳されるのですが、アシェンダ、フィンカの違いはやはり規模の違いと考えた方がよいのでしょうか。
最近はエステートなんていうところもあります。コープ○×とか。
マムスとかポパヤンとかいう言い方はもうしないのですね。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年07月15日 16時11分]

アシエンダ(hacienda)とフィンカ(finca)の違い・・・またややこしいところをツッコんできましたネ^^; 記事本文では、スペイン植民地(ヌエバエスパーニャ)における大土地所有制度(latifundioラティフンディオ)の一形態として「資本主義プランテーション型」のアシエンダ制をコロンビアコーヒー農園の初期形態と捉えました。同じスペイン領地でもカリブ海諸島が先駆したencomiendaエンコミエンダ制から伝統的なアシエンダ制に移行していったことに比して、コロンビアではそのプロセスが確立しないままに「資本主義プランテーション型」化しつつある変性アシエンダ制から導入されたのではないかと…。これに対して、世界遺産に登録されたMAMs(メデジン=アルメニア=マニサレス:マムス)エリアでは、小規模土地所有(minifundioミニフンディオ)も発生し、互恵共同作業を伴う農村共同体が成立していった、と推測しました。但し、これをグァテマラやキューバで呼称されてきたフィンカ(finca)と同じものと捉えることには、専門的には異論がありそうです。しかし、適切な所有形態の呼称が見つからない!えー、ここから先は私が歴史的地理経済学者では無いのでお手上げです^^;;・・・アシエンダとフィンカ、明確な規模で区分規定できないが、厳密には各農園の開発端緒の経営形態によって違いがあるもの、と考えています。ま、20世紀以降のコロンビアの歴史を考えると、プランタシオンと呼ぼうがエステートと言おうが何でもアリかもしれません。ここらへんを追っていくと本3冊くらい書けそうですが、私ゃ面倒臭いので逃げておきます…

No title
ナカガワ URL [2011年07月16日 22時14分]

いつもていねいにありがとうございます。わたしも一度パナマで尋ねたら、「同じ意味」だみたいな回答。あまり詳しい人とは、なかなかお話もできず。思ったより大きかったり、小さかったりして、驚かされています。「大農園」「小農園」の規準を誰かきちっと教えてくれないかなあと。とれる量と質の問題になりますし。思ったより小規模で、リクエストに応えたていねいな収穫をしてくれる、とか、反対にやや規模が大きいために、その農園の中でグレード分けをしてもらった方が良質なものが簡便にセレクトできる、とか。農園の呼称や規模から、もう少しポテンシャルが予想できるくらいまで、整理できないかなあ、と。
別な話になりますが、最近「ナチス・ドイツの有機農業」という本を読みました。もし読んでいたら感想を聞かせてくださいな。

to2:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年07月18日 22時32分]

>農園の呼称や規模から…整理できないかなあ、と。
難しいんじゃないでしょうかネ。いや、ムダだとか間違っているとかいう意味じゃなくて、それを求めている珈琲屋がホンの一握りしかいない…という意味で。コーヒー生産の各国各地方各農園の背景にある政治や経済を自力で確認する意志あるコーヒー関係者には基準や呼称ルールが必要かもしれませんが、だって世間の99%はブランド宣伝文句コピペ珈琲屋だもん。
『ナチス・ドイツの有機農業』…読んでいません。今後もし読んだら感想を述べます^^;

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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