浮薄色でえずく

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2011 [2011年04月15日 06時00分]
「喫茶店とカフェの違いは何ですか? そんな疑問を持つすべての人へ―」という腰巻の惹句に対し、《自由に定義していい》と本文末で回答する本は歎ずるべき?
  アンバー滴77
 
『東京の喫茶店 琥珀色のしずく77滴』 (川口葉子:著/実業之日本社:刊)
 
著者川口氏は旧著で《肝心なのは正しい答ではなくて、適切な質問。》と語っている(『カフェの扉を開ける100の理由』 情報センター出版局:刊)。こうした寛容にしてグダグダの感性を私は持ちあわせていないが、今般の77店選定には首肯できる。
 
第2章「一杯の珈琲からたちのぼるもの」では自家焙煎コーヒー10店が紹介される。これを約30年前に刊行された類書『TOKYOグルメブックⅤ コーヒー■ケーキの店』(企画集団ÉDO 高橋幹夫:著/柴田書店:刊)に対照して時の流れを感得しよう。
 「カフェ・ド・ランブル」  ブラン・エ・ノワール 450円⇒790円
 「カフェ・バッハ」  ブレンドコーヒー各種 250円⇒450円
 「大坊珈琲店」  ストレートコーヒー各種 450円⇒800円
採り上げたメニューに違いはあるが3店200円~350円の価格上昇である(ちなみにバッハに関しては『コーヒー■ケーキの店』当時は「珈琲屋バッハ」という表記である)。
「ウエスタン北山珈琲店」と「十一房珈琲店 Café BECHET(カフェ ベシェ)」の2店は、『コーヒー■ケーキの店』に収載されていない(ちなみに北山珈琲店は最近になって様々なところで店紹介の露出が激増している…世代交代に向け気が弱ったのか?)。
「堀口珈琲」と「CAFÉ DEUX OISEAUX(カフェ ドゥ ワゾー)」と「ヴェルデ」と「山猫珈琲店」と「草枕」の5店は、『コーヒー■ケーキの店』刊行後に開業している。逆に、『コーヒー■ケーキの店』に載っていた「珈琲ダボス」や「もか」などは、今般の『東京の喫茶店 琥珀色のしずく77滴』に推そうにも存在が無い、烏飛兎走である。
 
巻中に大坊勝次氏(大坊珈琲店)が「コーヒーをおいしくする本の効能」と題してエッセイを寄稿している。安東次男らの連句や西脇順三郎の詩を採り上げつつ自らの焙煎について説明し、氏の焙煎と香味の捉え方が開示されている貴重な文である(文中の〈苦甘〉・〈酸甘〉に関しては、帰山人の過去記事を参照されたい)。大坊珈琲店独特の味わい、その是非や好悪の評は人ごとに分かれるだろうが、味わいをどう捉えていて何をどのように狙っているのか、が大坊氏自身の言葉で述べられたこと、この点だけでも『東京の喫茶店 琥珀色のしずく77滴』は値千金。
 
《カフェの扉を開けるとき、ひとはかならずしもコーヒーが飲みたいわけではない。》…これも前掲旧著に記されているいかにもカフェマニアらしい川口氏の言であるが、この喫茶空間に対する価値観の投影は、珈琲狂である私(帰山人)には受け容れ難い。「喫茶店の扉を開けるとき、私はかならず旨いコーヒーが飲みたいのである。」私、加えて「肝心なのは問いかけの美化ではなくて、適切な悟性で正しい認識。」である。喫茶店を一歩選び間違えれば「琥珀色のしずく」は「浮薄色でえずく(嘔吐く)」ことに…それでも本書を参考にして未訪の「琥珀色のしずく」を味わいに出向こうかとは思う。
 
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コメント

No title
ナカガワ URL [2011年04月15日 18時06分]

「みんなが格闘技に走るので、私、プロレスを独占させていただきます」1989年頃の全日本プロレスのキャッチフレーズ。移動用バスにジャイアント馬場の顔写真と共に。それを引用して最近「みんなが○○○○に走るので、私、自家焙煎珈琲を独占させていただきます」をキャッチフレーズにしようかしら、と。「○○○○」はまあいろいろ当てて楽しんでください。
ただ、「川口曰くカフェ」は「バーリ・トゥード」なので、とても血なまぐさく感じています。川口某氏は、本当は「モンドヴィーノ」にでてくるパーカー高得点ワインを仕立てるコンサルタントみたいな人なのでは、と思ってしまいます。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年04月15日 20時30分]

新たに開業したカフェが悪いワケじゃないし、新たに提供される飲料や空間にどんな価値を見出しても自由だとは思います。けれども(本書で取り上げられた)自家焙煎珈琲店が続いているのは30年で半分以下ですよ…東京都には8000店の喫茶店があるのに…8000滴の77滴しか拾ってないことは仕方がないとしても、カフェだろうが喫茶店だろうがどっちでもいいけれど100年続きそうな店は…扉を開けようにもしばらくすると開かなくなる店、さて本書の30年後に何件あるでしょう?ま、3年くらいで改訂版を出さないと役に立たなくなるかもしれませんねぇ、本書の場合。

No title
y_tambe URL [2011年04月15日 20時48分]

「琥珀色のしずく77滴」というタイトルなので、てっきりランブル(l'Ambre)門下が、東京だけで77店もあるのかと…(違う

to:y_tambeさん
帰山人 URL [2011年04月15日 23時31分]

あ、そういえば10店のうち宗家も含めて半分が一門だ…えーと、あとミネルヴァとテディとコジロウも足して…77店には届かないなぁ…(やはり違う

No title
ナカガワ URL [2011年04月16日 00時49分]

名前は残るけれども、すべての自家焙煎が、モエヘネシー・ルイヴィトン・グループみたいになっているかも----。

to2:ナカガワさん
帰山人 URL [2011年04月16日 02時23分]

まず一昔前では考えられないような、それまでの主張と経歴と規模を超えた自家焙煎最大コングロマリット「LUMH」(マルヤマ・ホリグチ=ランブル・UCC)が登場しました。これを放置できないと対抗コングロマリット「PPR」(Pasticceria&Pizzeria&Ristorante)が、その名の通りに外食産業コーヒーブランドを傘下に収めました。両者が拮抗しているうちに勢力を伸ばしたのが第3のコングロマリット「リシュモン」(Riche者)で、いわゆる成金趣味のコーヒーブランドでした。意地光とかヘタルとか枯松とかアホカ通商とか日珈亡とかも3つのコングロマリットに逆支配されていずれかの傘下に置かれる運命にありました。俗に「ダークロースト」とも呼ばれたコーヒー暗黒時代が長く続いたのです。(『エンサイクロペディア・ギャラクティカ』の「コーヒー太古の歴史」より抜粋)

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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