使い古しは…

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2011 [2011年04月03日 06時00分]
フレーバーコーヒーの中川正志氏より実験の依頼があった。曰く、
「ちょっと実験してくれませんか。新品のネルにエスプレッソを適当な回数通して…
そのあとネルを普通に洗って使うと使い古しのネルのようになると思います。
つまり…最初からオイルが通るみたいです。実験してみてください。」
 
では、やってみよう。実験の方法と手順は私の独断によるものである(かなり粗雑)。
 ネルドリップ実験
1.同じ素材のネル(丸太衣料)コーヒーフィルターを3つ用意する。
  A=既に使い古した(約150回使用)ネル、B・C=新品の(湯で煮沸してある)ネル。
 ネルドリップ実験 (4) ネルドリップ実験 (1)
2.ネルBにエスプレッソコーヒー(BRIELのFirst Class使用)のダブルを一気に注ぎ
  入れて透過、軽く水洗いして水気を切る。これをBに対して3回繰り返す。
 ネルドリップ実験 (2) ネルドリップ実験 (5)
3.A(使い古し)・B(エスプレッソ通し)・C(新品ママ)のネルフィルターで、
  同じ豆(メキシコのフレンチロースト:各18g)を同じ方法(注湯法・湯温※)で
  同じ液量(80cc)までビーカーに抽出する。
 ネルドリップ実験 (6)
4.ビーカーの抽出液を観察した後、試飲して比較対照する。
 ネルドリップ実験 (7)
5.抽出液をコーヒーカップに移し(ビーカー内の液面上層はオーバーフローさせて
  除去し、さらにカップに移した後も静置後に液面上層をスポイトで除去)、
  試飲して比較対照する。
実際にはネルの状態の違いによって透過速度が異なる(遅A>B>C速)ために、
  同じ全く透過状況にはならないが、可能な限りの手加減で近似させた。
 
 
4=ビーカー抽出液の液面をハンドライト(GENTOSのSG-305)で照らし観察する。
 ⇒A抽出液には油滴と思われる細かな浮遊物が多数見られる。
  B抽出液にもAと同様の浮遊物が見られるが数ははるかに少ない。
  C抽出液にはA・Bに見られた油滴と思われる浮遊物は全く見られない。
 
4=ビーカー抽出液を試飲する。
 ⇒鼻に近づけて香りを嗅ぐが、A・B・Cの間で香りの違いは感じられない。
 ⇒口に含んで味をとると、A抽出液には最もコクと粘性を感じて丸い味わいを感じ、
  C抽出液には最もキレと鋭さを感じて硬い味わいを感じる。
  B抽出液にはAとCの中間的な味わいを感じる(どちらかと言えばAより)。
 
5=カップに移した抽出液を試飲する。
 ⇒口に含んで味をとると、A抽出液には最もコクと粘性を感じて丸い味わいを感じ、
  C抽出液には最もキレと鋭さを感じて硬い味わいを感じる。
  B抽出液にはAとCの中間的な味わいを感じる(どちらかと言えばCより)。
 
5=カップに移した抽出液を妻及び子2人に(A・B・Cの3液が何の違いであるかを
  全く明かさず)試飲させる。
 ⇒3人共に私と近似の味わいの印象を述べ、最も好んだものはB抽出液である。
 
実験の結果は…「新品のネルにエスプレッソを3回通すと最初からオイル(?)が
通るみたい」である。但し、「使い古しのように」というほどには通らないようである。
「使い古し」化させるには、さらにエスプレッソを通す回数を増やさなくてはならない?
(あっと言う間に「使い古し」にするには、やはりそれなりの回数が必要なのかも…)。
 
以上は、極めて粗雑にして主観的な対照実験であり、その意義に関しても私自身は
深く細かくは断言しない。フレーバー中川氏のいう「オイル」と「コク/キレ」といった
香味との相関には未だ課題も多いからである(ついでに言えば、実験手法やその
解析のマズさは自覚しているので、百珈苑Tambe氏においても寛恕されたい:笑)。
 
コーヒーの「脂質」・「オイル」・「オイル感」・「コク」…「化学」・「成分」・「官能」・「表現」が
複雑に絡みあう課題である。また、それらを実践的に考えるにあたり「ネルドリップは
ペーパードリップなどよりも遥かにフィルターの状態による差が大きい」ので、一元的に
どうこう断定することは困難である。ネルドリップの「難しさ」は極限ココにあるのかも。
女房と畳とコーヒーネルは、完全に新しいモノよりも「適当に」古びた方が好い?ので…
 
コメント (10) /  トラックバック (0)

コメント

No title
y_tambe URL [2011年04月03日 23時19分]

えーと、そもそも「ネルの前処理」ってのは、「ブロッキング(blocking)」とも呼ぶべき処理でして…。

フィルター材のうち、ペーパーは「隙間が小さく、薄い濾過材」で濾過する(表面濾過の割合が大きく、内部濾過の割合が小さい)のに対し、布は「隙間が大きく、厚い濾過材」での濾過(内部濾過の割合が大きい)になります。

「厚い濾過材」を使うと、微粉等の混入は避けられるのだけど、その分、目詰まりもしやすいのですが「隙間が大きい」分でそこが帳消しになる、と。ただし、厚い濾過材を使った場合には、濾過材(繊維)への成分の吸着によるロスもその分大きくなるので問題になってしまう。その成分吸着を減らすには、あらかじめ、同じような成分を十分に吸着させて、それ以上の成分の吸着を「ブロック」させる、というわけです。通常、ネルの「前処理」では、抽出した後の滓と一緒に煮ますけど、コーヒーの抽出滓には、抽出しきれなかった脂質が多めに含まれてるので、それで煮ると丁度いいわけですね。ただし、一回の前処理だけで状態が決まってしまうわけでもなく、使いこんでいくに従って、その状態も変わっていく…で、エスプレッソのように、脂質や成分の濃度が高いものを通せば、比較的短期間のうちに「使い込んだ」ような状態に近づきやすい、という理屈ですね。

…ってまぁ、今更な説明だよなぁ、とは思いつつ、呼ばれたような気がしたので(笑)一応コメントまで。

to:y_tambeさん
帰山人 URL [2011年04月04日 00時25分]

松屋式ドリップにしろフレーバー中川式プレスにしろ、極力抽出中の粉を動かさない、つまり粉全体を濾過材として極力機能させる方法ともいえますね、結果として液への脂質抽出を抑える方向に工夫されている。その他方で、強制減圧抽出したり穴を開けたりエスプレッソを通したりして、通常では通り難い脂質を抽出液へ落とし込む工夫を追求されている…この遠回りなんだか近道なんだかわからないようなフレーバー中川さん独特の発想の幅とズレが面白いです。
本当はエスプレッソを通す回数を増やしていって、どのあたりで「使い込み過ぎた」=「使い古した」ネルになってしまうのか実験すれば良かったのですが、ネルももったいないし…実はネル漉ししたエスプレッソも実験中にできてしまうので久しぶりに飲みましたが、改めて「面白い香味になるなぁ」と…但しさすがに連続ダブル3杯分で私の口には充分でした(笑)

No title
y_tambe URL [2011年04月04日 09時46分]

>松屋式ドリップにしろフレーバー中川式プレスにしろ、極力抽出中の粉を動かさない、つまり粉全体を濾過材として極力機能させる方法ともいえますね

その部分はどっちかというと、透過抽出の「度合い」を高める方への作用が大きいと思われます…ただし、もちろん、脂質等の一部の成分に対しては粉自身が濾過材となる(ケーク濾過)作用も働く、ということについては同意です。

脂質はそもそも抽出されにくい成分で、粉そのものに強くくっついてるので、いちばん手っ取り早く「出す」のは、微粉や微粒子ごと出しちゃうということになります。でなけりゃ、がちゃがちゃ撹拌するなどして、機械的に剥ぎ取る。ただ、どちらの方法にもどうしても他の雑味が同時に増すというデメリットがある。
通常は、コーヒー中に含まれる界面活性物質(泡のもと)で可溶化できた分だけを抽出するわけですが、そのため、通常のドリップでは泡の部分に結構な量が吸着(起泡分離)されてしまうし、せっかく抽出できたものも粉層やらフィルターに吸着する分で減ってしまう。
実際、ドイツのグループが通常のペーパードリップで抽出した後のフィルターペーパーのどの辺りに脂質が吸着しているかを検討した結果、粉層よりも上の部分のペーパーに高濃度の脂質が吸着していた、という報告も出てます…もちろん「脂質が吸着してる」ということは、いわゆるアクや質の悪いキツい苦みも、そこで止まってる、ということなわけでデメリットばかりでもないわけですが。

以前、バッハのママさんから、ちょっとしたコツ」として、普通にペーパードリップしていくときも、最後あたりでは「少し強めに湯を注ぐと油脂分が出せるので、それで味を調節することも可能」ということを聞いたことがあります。ドリップの場合、最終的には可溶化された脂質の一部が泡と一緒に粉層の表面にある程度集まってるので、これを再び「流しだす」ことで味をコントロールする、と。

この辺りは、フレーバー中川氏の松屋式の注湯と共通する部分が多いです…コーヒー豆の中に混在している味成分から、望ましい成分を選択的に分離濃縮するだけにとどまらず、いったん分離した成分を適度に「ブレンド」しなおして味づくりをするという、そういう高度な技術が両者に共通にして存在するのです。

本当は違う実験をやっていて・・・
nontan URL [2011年04月04日 13時05分] [編集]

もともと・・・エスプレッソのクレマを集めてオイルの乳化したものかを調べようと思ったのです。その時にオイルを考えていて思いつきました。ちなみに、ぼくはこの実験のために200gの豆を使いました。それとこのやり方のいいことは布がへたらなくて良好なネルができるので使える回数が増えると思います。(抽出時に液面にオイルが浮くようになるとネルはかえどきです)
この実験は・・けっこうおもしろかったです。

to2:y_tambeさん
帰山人 URL [2011年04月04日 13時13分]

>高度な技術が両者に共通にして存在するのです。
通常(←何をして「通常」なのかは抽出者の見解によりますが…)とは異なる「成分を適度に『ブレンド』しなおして味づくりをする」という狙いで「バッハ文子ママのコツ」と共通する技法、フレーバー中川氏で言えば「松竹コンボドリップ(松屋・竹田コンビネーションドリップ法)」だと解釈しています。通常の「松屋式」では「望ましい成分を選択的に分離濃縮するだけ」と中川氏自身は思っているでしょうから…
抽出工程の後半で味をコントロールする最強(?)の技法は、「べに善(静岡市)式」でしょうね。前半で通常にドリップした後、裂帛の気合と共に宙高く注湯ポットを振りかざしてポットの先を粉層の中にズボッと垂直に突っ込んで攪拌してしまう、というポット蓋から噴出す熱湯で指が焼けてもガマンする恐ろしい技です。ま、パーフォーマンスの派手さはともあれ、「味をコントロール」する範疇からはもはや逸脱している、とも思えますが(笑)。
こういう経験則っぽい抽出技法のアレコレにも「高度な技術」に共通する意図が垣間見えてオモシロイです。

to:nontanさん
帰山人 URL [2011年04月04日 14時15分]

半端でヘタレな実験をしてスイマセン(笑)
私の実験のB抽出液の状態は、「抽出時に液面にオイルが浮く」と判定して「かえどき」とされますか?それとも明らかに液面に膜状に脂質が浮いた状態まではヨシとされますか?前者であれば、「エスプレッソ通しブロッキング法」は「使える回数が増える」ことにはならないんじゃないかと思うのですが…
と判断を追及する他方で、私の実験の失敗は「フレンチロースト18g粉で80cc」という高濃度イイトコどりで対照してしまったことですネ。この後も(別容器に分けてでも)出がらしに近づくまで抽出を続けるべきでしたし、もっと浅煎り豆でやれば結果がより顕著に現れたかもしれない、と反省しています(遅いわ!)。
ちなみに使い古しが手元にあった…用が済んだ「使い古し」を捨てないで残しておく貧乏性だけが幸いでした…あ、ネルAのことです…女房のことではありません、そっちは私の方が捨てられないで残されているワケでして^^;;;

いえいえそんな意味ではなくて・・・
nontan URL [2011年04月06日 01時54分] [編集]

ぼく個人の見解では、ネルをコーヒーで煮た程度ではネルの良さがまだまだ出てこないと思っています。100回程度使うといい具合に汚れてきてコンデションがよくなるように感じるのです。その100回分の抽出をすっ飛ばして最初から使えるネルにするためにエスプレッソを通すことで可能となるという意味なだけなんです。ちなみに、ぼくが実験したのはわざわざ外起毛にして松屋式と同じ粗さで単純に松屋式でたてたコーヒーとの比較実験で調べてみました。オイルが浮くことに関しては同じ抽出をしていてネルの繊維が痩せて開いてきたサインと考えています。まぁ・・・新品であっても外起毛で乱暴な抽出ではオイルが浮いちゃいますけどね。

to2:nontanさん
帰山人 URL [2011年04月06日 14時06分]

ナルホド…つまり「せっかくネルドリップするならばネルでしか味わえない状態に一気にもっていく裏技」としての「エスプレッソ通し」ってことですね。まぁ、抽出液が抽出者の理想状態になることは(言うまでも無く)使用回数だけでは規定できない、と思っています。
私個人の見解では、片面起毛の内外向きの差や両面起毛の差と同様に、ネルの生地厚や番手でも(同じ粉に同じ注湯プロセスを施しても)大きな差異が生ずる…けれどもココに踏み込んでオセッカイな教示を垂れること(←そんなことを私は望んでいませんが:笑)すら無い、業界の盲点だと思っています。もっとも「取り寄せる度に原反生地の状態が違うんだよな」と丸太さんが言っていたし、現に自作ネル用に頒けてもらった生地自体が昔と今では全く違うし…。実際の使用では、1つのネル毎に、そしてその使用経時ごとに、さらにその時に欲しい可溶成分の構成イメージごとに、手加減できる技量がなければ真の「ネルの良さ」は理解できない、と考えています。
こんなことを突き詰めて語るから、私自身も日本の珈琲抽出技法の「ガラパゴス化」に寄与(?)しているワケなのですが…反省?(笑)

No title
teaR URL [2011年04月11日 00時37分] [編集]

面白いですねー。僕はフレーバーコーヒーさんにも行ったことがあり、ネルは100回から~なんて話も聞いていたので、余計楽しく読めました。

エスプレッソマシンがないので自分では試すことが出来ないのが悔やまれます…。

今月は北海道に行きます。大学時代4年ほど暮らしていたのに、存在を知らなかったリヒトに行くのが楽しみです。

to:teaRさん
帰山人 URL [2011年04月11日 15時27分]

ネルに意図的に焙煎豆の脂質分を吸着浸透させる手段と考えれば、エスプレッソ以外にも手立てはあると思います(全く同じ状態になるかどうかは別として狙うところは同じなワケで)。微粉で淹れたプレス式の液を何度も通してやるとか、それも液層を分けて効果的なところばかりで吸着浸透を促すとか…
 
リヒトの襟立さんは、人とあまり喋りませんが、「Mehr Light!」ではよく喋ります。できればバックナンバーもありったけもらえるように強請ることをオススメいたします…って最近の号を読んでないので、本当は私が欲しいんですけどね(笑)

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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