悪魔の辞典 2

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2010 [2010年10月15日 05時00分]
昨秋「コーヒー 悪魔の辞典」の続きで「コーヒーな人」篇を作ってみた(尚、「コーヒー」を冠する接辞の場合は「コーヒー」を省いている)。
 
 
あ行
 
【アドバイザー】
コーヒーに関する助言者(adviser)の意。求めてもいないお節介をしたり顔で語る人。狭義には、日本デザインプランナー協会(JDP)認定「コーヒーアドバイザー」や日本レストランディレクトゥール協会(ADRJ)認定「コーヒー&ティーアドバイザー」など助言する実力に関わらない非力な民間資格販売団体のカネで買える肩書きを指す。また、コーヒー業界全般でのアドバイザーは、アドバタイザー(advertiser)と同義。
 
【インストラクター】
コーヒーに関する指導者(instructor)の意。権柄晴れて居丈高にコーヒーを語る人。狭義には、全日本コーヒー商工組合連合会(NCRAJ)検定「J.C.Q.A認定コーヒーインストラクター」(1級・2級)を指す。この民間資格検定教本はまだしも良質であるが、内容を熟知深耕してコーヒーの「先生」や「師」と呼称されるべき真の合格者はごく限られる。
 
 
か行
 
【カッパー】
コーヒーのカッピング(cupping)をする人(cupper)の意。栽培産物として品質を判定するカッピングジャッジから、流通購買物として特徴を判定するコーヒーテイスター、果ては単なる販売価値として演出を目的とする者まで、カッパーを名乗る人は増加している。国際審査員を気取っても内心自信が無い「陸に上がったカッパー」は「屁のカッパー」であり、彼らの評価を唯々諾々として売られる「カッパーの川流れ」品も増加していると思われる。
 
【カッピングジャッジ】
狭義には、アメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)認定「カッピングジャッジ」を指す。害とみなせば国際機関にも国際協定にも参加せず利あらば自己規定を世界標準と押し付けるアメリカらしい姿勢の例に漏れず、SCAAのカッピング基準で世界統一を目論んでいる。日本でも日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)とUCCの協力によりSCAAカッピングジャッジ認定プログラムが開催され、目論見通りの支配が進んでいる。
 
【カップテイスター】
本来は、コーヒー生豆の流通売買に際して産地や銘柄「ごと」に品質を鑑定する味覚検査人で、その頭の中の主意は「使い物になるか」や「値ごろ感があるか」であって、品質向上は範疇外。ゆるくは、それらしくコーヒーの香りを嗅いだり啜り味わうしぐさをすれば称される人で、その頭の中の主意は「らしくどう言うか」や「ぽくどう言うか」であって、判定能力は範疇外。
 
【鑑定士】
広義には、「ゆるいカップテイスター」や「陸に上がったカッパー」と同じ意。狭義には、かつてはブラジルコーヒー院(ICB)その後はサントス商工会議所(ACS)認定の鑑定士「クラシフィカドール(Classificador)」を指す。クラシフィカドールの鑑定力は、1粒でも多くの生豆を高い等級で輸出産品とする利潤追求のために発揮され、素直に誇るべき称号。
 
【Qグレーダー】
アメリカCoffee Quality Institute(コーヒー品質協会:CQI)が唯一にして最高峰の国際認定と欺瞞し詐称しながら認める資格者。「CQIのCQIによるCQIのための」スペシャルティコーヒー、つまりコーヒー世界全量の数パーセントしか念頭に無いまま、点数をつけてはライセンス取得料を付加する証明書を発行する恐怖のコーヒー仕置人である。
 
【コーディネーター】
コーヒーに関する調整者(coordinator)の意。狭義には、日本創芸学院認定「コーヒーコーディネーター検定資格」を指す。マイスター・インストラクター・アドバイザーにすら遠慮したのか、カネで買ってもなお意味不明。資格商売は「こうでねーと」の意味か?
 
 
さ行
 
【ソムリエ】
ワインの給仕人(sommelier)に名を借りて、専門的知識がある振りをする厚顔無恥な人。多くの場合、他の資格を有しない自営業者が自ら箔を付けるために称して無能を吐露する。
 
 
は行
 
【焙煎士】
「士」は統治・支配を社会階級的に示す辞。焙煎士とは消費者を従属させている前提でしか名乗れないのが本道である。敬意による他称は認められても、自称は消費者を見下した証。ましてや天才焙煎士などと自称する人は、仮に焙煎技量に優れていても人品卑しく失格者。
 
【バリスタ】
バリスタ(varistor)は、高電圧に弱い部品を突発的な高電圧から保護するためのバイパス、バリスタ(barista)は、ドリップに弱い抽出者を突発的な注文から保護するための職業名。本来は、イタリアのバール業態において客と環境を読んで即座にエスプレッソを提供する人。国際カフェティスティング協会(IIAC)認定「エスプレッソ・イタリアーノ・スペシャリスト」、日本バリスタ協会(JBA)認定「バリスタ・マエストロ」など企業主体の肩書きを指す場合も。広義では、シアトル系といわれる亜流業態の口とデザインコーヒーが達者な人を含む場合も。
 
 
ま行
 
【マイスター】
コーヒーに関する達人(Meister)の意。ワルツ(放浪修行)を経なくても威張っている人。狭義には、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)認定「コーヒーマイスター」を指す。この民間資格もまだしも良質ではあるが、熟練や技能伝承に関わるサービスマン意識より、自らの知識や鑑定の技能を妄信し他の資格と判別がつかないマイスター(my star)も多い。
 
 
今後も他者からの評判・意見・追記などにも耳を傾け、充実を図るか否か検討していく所存である。
 
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コメント

No title
nakagawa URL [2010年10月15日 22時58分]

ワイン業界から学ぶ姿勢は許容できるのですが、礼を失した模倣や比較も多いようです。コーヒー業界では、「ソムリエ」を杜氏などと混同する人もいます。また「ソムリエ」と「クラシフィカドール」を同義的に捉えている人もいます。「ソムリエ」を「パティシエ」「キュイジニエ」などと同カテゴリーと混同する人もいます。
消費者に直接接する可能性で括ると「ソムリエ」「バリスタ」「コーヒーマイスター」あたりは近い職種と考えられます。失礼を覚悟で付け加えると「ソムリエ」は日本ではやや過大評価されているキライがありますかしら。

to:nakagawaさん
帰山人 URL [2010年10月16日 16時43分]

SCAJ2010訪の昼食時、丼に無様に米粒を残し箸をつっ込んで椅子を引いたまま躊躇無く立ち去る来場者を見かけました。チャンピオンシップ決勝戦に見入る姿を会場でも見ましたが、彼が日本人らしい真の「バリスタ」になる日は遠い、と思いました。まず「サービスマン」としてスジが通っていなくてはプロ(を目指す人)とは言えませんネ。認定証・襟章・エプロン・コート・道具…そこしか目が向かない輩には性根からコーヒーを愛好する気持ちが無いのだと思います。ま、こんなオヤジ臭い愚痴をこぼしていても、そのうち「陽に焼けていないコーヒーハンター」とか「マシンを掃除できないバリスタ」とかがコーヒー界のナントカ王子になるのかもしれません(笑えねぇ!)。

No title
珈子 URL [2010年10月18日 07時05分] [編集]

どの項目も興味深く拝見しました。
「コーディネーターはコーデネート」の項目該当者です(笑)
確かに・・・!
しかし超初心者には親切で、楽しみ方を広げることが出来ました。
でも満足してはいけないですね。農産物であるコーヒーを取り巻く全ては刻々と変化しています。SCAJ2010の会場で購入したコーヒー屋さんのオーナーが書いた本では、ホンの10年前にはケニアとかあまり注目されていなかったんだなーと知りました。
どこかで読んだのですがコロンビアは収量にこだわり味が昔ほどで無くなった・・のはそうなんでしょうか?
昔のコロンビアを知らないので分かりませんが?

to:珈子さん
帰山人 URL [2010年10月18日 14時00分]

ありゃりゃ、珈子さんはコーヒーコーディネーターでしたか…それは失礼しました(笑)。ま、記事自体が全部失礼しているので勘弁してください、悪魔ですから(笑)。

ケニアについては、ヨーロッパでは伝統的に(20世紀初頭から)タンザニアより高い評価を安定的に得ていました。当時のコーヒー後進国日本では、ケニアの酸味を嫌ってヨーロッパ市場残りのタンザニアを買っていたのです。それを逆に「キリマン」ブランドにしちゃった。「キリマン」神話が通用し難くなったトタンの日本でのケニア評価、ヨーロッパ市場からは「今更かよ、バ~カ!」って思われているハズです。

コロンビアについては、国策で量産優先のヴァリエダ・コロンビアを主要栽培品種にしてしまい、香味が悪くなったのは事実ですが、最近少しずつヴァリエダ以外の品種に植え替えはじめています。スペシャルティ陣営的には「ヴァリエダはダメ」と悪くいいますが、単なる利益追求でヴァリエダに切り替えたワケじゃありません。耐さび病品種で市場占有率を維持する必要があったこと、その背景には(本来争い続けるコーヒー生産大国と消費大国が手を組んで)1970年代後半からコロンビアをコーヒー市場から引きずり降ろす圧力を受けたこと、があります(http://kisanjin.blog73.fc2.com/blog-entry-135.html参照)。こうした経済や政策の恣意を無視したヴァリエダ叩きを脳天気にしている輩、コロンビア農民からは「今更かよ、バ~カ!」って思われているハズです。

No title
珈子 URL [2010年10月19日 14時19分] [編集]

ありがとうございます。以前の記事も拝見しました。

そうなんですね。
マスコミで話題にするものを鵜呑みにしてはいけないと分かっていても、他からの情報がないと、一方的であっても自分の中ではそれが「事実」となってしまいます。
なが~い間、コーヒーをドリップするときの器具はカリタ以外無い物と思っていました。
今でも生活圏内のスーパーにはカリタしか無いのでは?
コーヒーに関しては未だに誤解している部分が多いと実感します。

to2:珈子さん
帰山人 URL [2010年10月19日 16時29分]

「COP10を機会に生物の多様性を知り自然との共生を考えよう」という(誘導の)情報。「COP10は加盟各国の利害関係を調整するために集まる会議」という(体裁の)事実。「COP10はアメリカ非加盟だし参加国の大半がどうせ調整しきれないと思って集まる会議」という(合理の)真実。
「誘導の情報」を得たら「体裁の事実」を辿り「合理の真実」を探れ!コレが私の姿勢です。コーヒーに関しても情報と事実と真実を混ぜないで捉えていきたいものですネ。ちなみに『おいしいコーヒーの真実』って映画がありますが、あれ自体は「真実」ではなく怪しく(?)誘導する「情報」であります^^;;

No title
cocu URL [2010年10月20日 11時34分]

はじめまして。
フレーバーの中川さんに焙煎を教えていただいて、小さな自家焙煎店を営んでおります。
スペシャルティを扱うお店の方々は、商売としてある程度割り切ってスペシャルティの啓蒙活動をしているのだと思っているのですが、実際はどうなのでしょうね?
私自身は生豆の選び方、焙煎、抽出、わからないことだらけです。スペシャルティ最高!プレス最高!って考えることができたら楽なんだろうなと思います。

to:cocuさん
帰山人 URL [2010年10月20日 15時05分]

こちらこそ、はじめまして。
そうですネ、スペシャルティに限らず生豆の選択、或いは焙煎や抽出
に関しても、「ある程度割り切って商売すること」は好悪を越えて
不可欠なことでしょうからネ。お店経営自体にサスティナビリティを
追求すること、飲み手の消費者が思う以上に大事なことですから
(って、プロじゃない私が言い切るのも?とは思っていますが:笑)。
扱う以上はスペシャルティコーヒーの理念を「啓蒙活動」する、
これも不可欠で大切なことだ、と私も理解しているつもりです。
ただ、「理念の啓蒙」に名を借りて「高価格の宣伝」にする割り切りは、
「開き直り」としか私には映りません。川島さんのミカフェートも
立派なご商売だと思いますが、中川さんのフレーバーも立派な商売、
その存在意義には上下階層では無くて真の多様性を捉えています。
「スペシャルティ最高!プレス最高!って考えることができたら」
「楽」かもしれませんが、コーヒー世界の輪の広がりについては
スゴク小さい選択をしている、そう覚悟するならドウゾって感じ(笑)。
機会があれば一度お店にもうかがいます。今後ともヨロシクです。

No title
珈子 URL [2010年10月21日 23時46分] [編集]

「おいしいコーヒーの真実」・・ムムムすっかり誘導されていました・・・。
ああ言う誘導にはもの凄く弱い自分がいます。

この頃COP10のニュースの内容にがっかりすることがあります。利害がからんでいるのですね~。

to3:珈子さん
帰山人 URL [2010年10月22日 10時55分]

COP10華やかなりし(?)昨今、「生物多様性とコーヒー」っていうと
「サスティナブルコーヒー」って方向にスグいっちゃうワケですが、
例えば「遺伝資源の利益配分」というCOP10の最重要課題に焦点を
あてて考えると、コーヒー生産者も流通業者も加工者も販売者も
(通常のコモディティグレードでは考えられない)凄まじい高価格で
メッチャ儲けているパナマのゲイシャ種コーヒーは、遺伝資源国の
エチオピアに還元しなくていいのかよ?、って議論もできるハズ…
でも、こんな話はだ~れも言いません。ナゼって?利害が絡んで
いるからですね~。言い出すと損する話はシランプリってのが
COP10の大半実状のガッカリさ加減、開催前からの予想通りです^^;;

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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