コーヒーを除いてみよう

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2010 [2010年08月19日 05時00分]
うだる暑さの昼下がり、一年振りに中部学院大学各務原キャンパス大講義室へ向う。
 
2010年8月18日
「第22回 コーヒーサロン コーヒーから世界をのぞいてみよう。」
  コーヒーサロン0818-1 
講演3題とパネルディスカッションを聴講参加。
 
 
1.池本幸生氏の講演「コーヒーと人々の暮らし」に思う

自身主催するコーヒーサロンで池本氏本人が講演するのは今回が初めてだそうだが、
その趣旨は、JAICAF「国際農林業協力」Vol.32(2009年度)No.3掲載の
ベトナムにおけるコーヒー農民の食料安全保障」、及び
先6月10日東京大学での第4回東文研・ASNET共催セミナー
講演「コーヒー豆の不平等-ベトナム・コーヒーの美味しい飲み方-」を踏襲したもの。
 
1990年代半ば以降のベトナムコーヒー大増産がその後の世界コーヒー価格暴落
(コーヒークライシス)を招いたとする「ベトナム悪者=陰謀説」を否定的に説明された。
ベトナムの主生産はロブスタであるから(代替財にはならない)アラビカ価格の暴落に
因果関係は追求できない、とする池本氏の論は反証としては弱い、と私には思える。
これに関連して、講演後に司会・川島良彰氏が「UCCハワイ時代にベトナムコーヒー
取扱阻止の旨、アメリカ政府から圧力があった」と語った話は興味深かった。
但し、当時の国際政治関係から考えると、「ブラジルを牽制しつつ他の中南米生産国を
追い落とすべくベトナム増産に火をつけたのはネオコン企業と連邦政府だ」とする
私のいわば「USA悪者=陰謀説」、両氏の説明がこれを覆したとは感じられなかった。
 
池本氏がベトナムの『貧困』問題を「カッコ付きの」と前置きして語った意味を
理解した聴講者は残念ながら少ないだろう。他方で「コーヒーの様々な『認証』は
生産者側の様々な情報を消費者に伝えようとする」との説明に納得した聴講者は
多いだろう。但し、私から見れば認証コーヒーの『認証』も所詮カッコ付きであり、
字義通りに情報が過不足なく伝達されるとは到底考え難い、陳腐な実態でしかない。
最も興味深かったエデ(族)のコーヒーに関して説明が少なかったこと、残念である。
  コーヒーサロン0818-2
 
 
2.伊藤亮太氏の講演「コーヒーとサステイナビリティ」に思う
 
同じ「サステイナブルコーヒー」に関しても伊藤副理事長の説明には川島理事長とも
(直に講演を聞き比べないと伝え難いが)一味違うテイストを感じられて面白かった。
 
「コーヒーのユニークな特徴」として「熱帯」の「日陰で育つ」「換金性」の「農作物」という
定義付けは明解でユニークである。但し、伊藤氏の言う特徴はあくまで貿易財として
商業ベースのものであり、生物学的な原論は不在。加えてサスティナブルコーヒーの
栽培自体が「自然保護と貧困削減の両立」を促すとする説明も単純簡潔ではあったが、
ここで叫ばれる「貧困」は先の池本氏の用語と異なり、私には憐憫をも臭わせ低所得を
指し示す多様性無き概念にしか聞こえなかった。サスティナブルコーヒー栽培による
効用の一連説明に関して、後に「コーヒー産業・ビジネスありきの自己撞着的な
スキームではないか?」と問うてみたが、腑に落ちる回答は得られず残念に思った。
  コーヒーサロン0818 -3
 
 
3.香坂玲氏の講演「私たちの身近な生物多様性」に思う
 
CDB-COP10支援実行委員会アドバイザーとしての香坂氏の講演を聴くのは
4回目、今回で直接コーヒーに関連した話題といえば最終盤にCIのホットスポット
に僅か触れたのみで、(私の勝手な目線でのことだが)特に目新しい内容はなかった。
 
身勝手な希望を言えば、生物多様性やバイオセーフティの課題をコーヒービジネス上
での品種論と突き合わせるような話題を聴いてみたいのだが、この時期にこの程度の
触れようではCOP10開催以降には希望が叶えられることはまずあるまい、残念。
 
 
4.「会場とのディスカッション」で問う
 
川島良彰氏をモデレータに、パネラーは講演3氏に百瀬則子氏(ユニー株式会社)。
会場聴講者3名との質疑応答に終始、口火を切った私の質問2項の主旨は以下の通り。
 
A:コーヒーと生物多様性に関して
  「自然保護区を設定して人々を追い出すだけでは解決にならない」と伊藤氏は
  説明されたが、朝鮮半島の38度線非武装地帯のように反する事例もある。
  「コーヒー栽培が自然保護のツールとなる可能性」を「コーヒー栽培が自然保護を
  促進する」と言い切る表現は行き過ぎでは?商業ベースありきの自己撞着では?
  コーヒーを取り巻く生物多様性の課題において「多様性やホットスポットを知る」
  という人間からの視点を重ねるだけで生態系が自由と平等を獲得できるのか?
  (池本氏の専門分野に関わるケイパビリティアプローチの観点を環境にも適用し)
  「生物相自体が実際に多様性を選択できる機会」を論ずる必要があるのでは?
 
B:コーヒーとサスティナビリティに関して
  サスティナブルコーヒーの成果としてドミニカでのシェードグロウン栽培による
  貧困削減と自然保護を伊藤氏は取り上げたが、地続き隣国のハイチに成果は薄い。
  ドミニカの成果は相対的にハイチよりも遥かに高いGDPと社会インフラの上に
  あるのだと考えると、貧困削減は一定水準以下の貧困には通用せず、元ゼニが
  無ければ荒廃した国土も復興し難いことを隣国ハイチが示しているのでは?
  そのハイチでの今年1月の震災以降、今まで扱ったこともない業者まで乗り出し
  コーヒー販売によるチャリティが流行している。これら被災地支援のチャリティ
  と、サスティナブルコーヒーに発生するプレミアム設定による上乗せ価格、
  消費者にどこまで違いを感じさせているのか? 「まずは知ることが大切」とか
  「良し悪しの議論よりもまずは運動を盛り上げること」と言われ続けても、
  低所得を貧困の象徴とみなして「これまで買わなかったモノ買うことで満足する」
  金銭的なチャリティ意識ではむしろサスティナビリティが停止しないか?
  別の言い方で考えるとするならば、サスティナブル認証コーヒー団体の多くは
  生産国での社会生活の改善を謳うが、ケイパビリティアプローチから見ても、
  それらは生産国の人々が真に望んでいる変化であると断定できるのか?
 
応答主旨は、「ケイパビリティアプローチと言われたが同業者の方ですか?(笑)。
ベトナムの農業開発でも環境ケイパビリティという視点で研究中、成果は2~3年
待って欲しい」(池本氏)、「コーヒー栽培が万能とは思っていない」(伊藤氏)、
「倫理の観点から見ればヒトとその他の種という視点も必要。人間がいないことが
自然保護に最適かも?(笑)」(香坂氏)、「ディープな質問だが、ハイチの実状は指摘
の通りで、ドミニカとの違いは『教育』にあると思う」(川島氏)という内容であった。
  コーヒーサロン0818 -4

  
多様性や可能性を追求しながら「コーヒーから世界をのぞいてみよう。」とするならば、
時として「世界からコーヒーを除いてみよう」という柔軟な視点も必要ではないのか、
そこまで踏み込まない限り真のサスティナブルコーヒーは成立しないだろう…と思う。
  
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コメント

No title
ナカガワ URL [2010年08月24日 19時20分]

いつも楽しみに拝読しています。こうした会に出席しなくてよいので助かっています。その間にショーバイショーバイさせていただきます。
最近ある自家焙煎コーヒー店で、手作りのケーキの方が売れてしまうので「困る」と相談が、エッなぜ?売れるならいいでのでは?いえいえダッテうちは「自家焙煎コーヒーの店」ですから!ケーキが売れたらマズイと思います。「あなたが」作ったものが商品ですから、何が売れてもかまいません!いつでも自家焙煎コーヒー店の職人であるという意識を忘れさえしなければ、ケーキといっしょにコーヒーを理解してもらえる機会がめぐってくるはずですから、今はケーキがよく売れる自家焙煎コーヒー店でもイイヨ!
わたしたちは小さいので、生きるのが先です。もし生き続けることができていたら、他者のことも考えます。
すいません、今はこんなカルネアデスみたいなことしかいえません。
今度から署名は「オッカムのウイリアム」にしようかな。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2010年08月24日 21時10分]

お言葉ありがとうございます。
ケーキがバカ売れの自家焙煎珈琲店、イイですねぇ。神保町にもカレーがバカ売れのエチオピアコーヒー店がありますね、もはや皆カリー店だとしか思っていないし、あの店に「コーヒーを理解してもらえる機会がめぐってくる」とは断言できませんが…だって私もカリーしか食べないもん(笑)。
すいません、コメント読んでいたら「冷たい方程式」を思い出しました。
さらに、コーヒーサロンでのオジサンオバサンの会話を反芻してアインシュタインの言葉をパクりたくなりました「善意はできるだけ単純にせよ、だが限度というものはある」。

No title
ナカガワ URL [2010年08月24日 23時32分]

そういえばハイチという名のカフェ?もありましたよね。あそこは赤十字「認証」とかとってないのかしら。結構カレーにのめりこむコーヒー屋さんってありますね。東松山とか上尾でも目撃しました。
最近、インドのコーヒーのカッピングのとき「どうですターメリックの風味がしませんか?」ということにしてます。大方苦笑しながら半ば白い目で見られてしまうのですが。ターメリックで黄色く染めた風呂敷に着物は包みますし、コーヒーもカフェインが防虫になるようだし、共通項があるから味風味も似てるかも----とすると、エチオピアさんやハイチさんは実はやっぱり立派なコーヒー屋さんなの?
こうなってくるとマエストロ・ダイボーさんあたりがカレーに凝ったらどうなるのか?ちょっと食べてみたいような----。

No title
ナカガワ URL [2010年08月24日 23時54分]

横浜に「アステカ」さんという店があります。ここも今ではコーヒーとカレーの店。でもかなりディープな自家焙煎コーヒー店だった経歴のはず。
すいません、脱線が過ぎましたね。でもインド人は朝カレーを食べ、昼は弁当箱にカレーを詰め、夜は帰ってカレーを食べると聞きました----うらやましいなあ。
個人的に日本のルーを使ったジャガイモがゴロゴロしたカレーは好きじゃありませんが。

to2:ナカガワさん
帰山人 URL [2010年08月25日 11時11分]

ハイチも時々いきますよ。あそこはセットで食べるのでラムダッシュのコーヒーも(嫌でも?)飲むことになるわけで…
>「どうですターメリックの風味がしませんか?」ということに…
アリだと思います。随分以前に名古屋の「えいこく屋」(そういやココも紅茶とカリーの店だなぁ)さんが発注したインドコーヒー生豆を焼いたことがあります…んっ?変わった匂いがするゾ?後で「フレーバーティーとコンテナ混載したら匂いが移っちゃった」モノでした(笑)。当時は「マイッタ」って思ったけれど、エキゾチック飲料の原点には外れていないワケでアリだと思うんだけど、お堅い「認証」バカの世界からは「白い目」なんだろうなぁ。

to3:ナカガワさん
帰山人 URL [2010年08月25日 11時36分]

>マエストロ・ダイボーさんあたりがカレーに凝ったらどうなるのか?
「カレーください」、「スパイスとルーの量で1番から5番まで濃さをお選びいただけます」、「…じゃ、スパイス25gでルーが150gの1番で」、で隣で村上春樹が3番食べているとか…えっ?そーゆーコトじゃない?(笑)きっと辛味の中に(スパイスだけで)甘味を感じる「カラアマ」を追究するんだろうなぁ、日本咖喱狂会ではカラマっていう用語で認定!…えっ?そーゆーコトでもない?(笑)

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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