一番じゃなきゃダメ?

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2010 [2010年06月21日 05時00分]
コーヒー愛好家を泣かせる話題が今夏も登場した。

 「パナマ スペシャルティーコーヒー“ゲイシャ”最高価格に」

 2010年5月25日、パナマコーヒー“エスメラルダ スペシャル”が 
 これまでの最高落札価格を超え、1ポンド(約0.45Kg)あたり170.20ドル
 という高価格にて、“ザ・ベスト・オブ・パナマ”として知られているオンライン
 コーヒーオークションにて落札されました。…今回のこの驚くべき記録は、
 スペシャルティーコーヒー市場においてパナマをトップの座に導き、
 その高い品質を証明する機会となりました。(パナマ共和国大使館 大使館ニュース)

世界最高値で入札したサザコーヒー(茨城県ひたちなか市)の落札劇を読売新聞は、
「同社は、昨年も同じオークションで高額の1ポンド当たり117ドル50セントで
落札したが、昨年の落札価格を大きく上回った」(2010年6月20日付)と報じたが、
昨年のサザコーヒーはHacienda La Esmeralda単独の‘Esmeralda Special’
(2009年5月19日)で、対して今年はSCAPの‘Best of Panama’(2010年5月25日)
で落札したのであって、「同じオークション」報は甚だしい全くの誤りである。
こんな乱暴な報道では、パナマでのコーヒーオークションの内実がここ数年来は
エスメラルダ農園の商魂に振り回されている、という事実が見えてこないばかりか、
八百長試合を真実味のある入札と信じてしまうコーヒー愛好者に対して無礼であろう。

今回の「ベスト・オブ・パナマ2010」PA-01ロット(スコア93.81)の
入札経過を覗いてみると、1ポンドあたり22ドルを超えた時点からはサザコーヒーと
ワタルの2者が47回に渡って競り合い、その結果が170ドル超の高値になっている。
ちなみに小川珈琲用にワタルが最高落札した昨「ベスト・オブ・パナマ2009」の
ロットはカッピングスコア93.06で1ポンドあたり71ドル50セント、つまり
スコア0.75の上昇に約100ドルの価値を付したことになるわけで、傍ら痛し。

総額6万ドル余で購入したパナマ・ゲイシャをサザコーヒーが予定通り今秋販売すると、
焙煎豆換算で約1400万円、カップ換算で約2000万円になると予想できるのだが、
それらの金額の約87%がワタルと競り合った分に相当し、昨年対比スコア0.75高
が1カップあたり300円高に相当すること、を承知しながら味わうことになりそうだ。

商いで高付加価値を追求するサザコーヒーやワタルに関して、私は単純な非難をしない。
しかし、フェアトレードだの生産者理解だのをやたらと喧伝するコーヒー業界が、
同時にオークション価格高騰をバリューにして商売する風潮には首を傾げざるを得ない。
コーヒー愛好家、特にスペシャルティコーヒー礼讃者には、高値のパナマ・ゲイシャを
味わう際には、「柑橘系の甘い香りと上品な赤ワインのようなコク」と同時に、1ポンド
あたり50セント程度で生死が決まる他国の貧しいコーヒー生産者の恨みを受け止め、
その塩辛くて渋い泣かされる風味も投影して味わってほしい、と私は思う。
加えて、通俗だが某議員よろしく、「一番じゃなきゃダメですか?」とコーヒー業界にも
仕分けを考えながら「値もスコアも高いからおいしいハズ?」のコーヒーを飲まれたい。
 
コメント (10) /  トラックバック (0)

コメント

No title
ナカガワ URL [2010年06月22日 00時57分]

この2、3年いわゆる「最高価格」のコーヒーたちは一体誰のおなかに入っているのでしょう。いま飲んでいるコーヒーがそれなのかどうか?を誰が証明してくれるのでしょう。
出来レースまで透明化してしまう、ある意味すごい世界です。
小田急ハルクにスタバ豆売りが初登場したとき「コーヒーの試飲はいかがですか?」「この抽出、膨らまないですね」「はい、当店のコーヒーは膨らみません」----隠さなければ正義?なんだ。まっすぐ前を見て、目と目を合わせて自信満々な態度でした。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2010年06月22日 12時11分]

ナカガワさんの言う「スペシャルティはコモディティの別称」ならば「グロースバル」な「存在」になるんでしょうけどねぇ・・・消費市場の狂騒をみると「芸者」じゃなくて「幇間」というブランドに名を変えた方がマシじゃないかと…
膨らまないコーヒー売っているのも悲しいけれど、「グロースバル」な「存在」のコーヒーが膨らむ日は来るのでしょうか?

お久です
浅野嘉之 URL [2010年07月10日 20時10分]

なんの連絡もなく《東京会庵》の突然の退店申し訳ありませんでした。親会社との兼ね合いがありあまり公に出来ない状況でした。お店自体はおおむね順調だったのですがリーマンショックの影響でファンドとの関係の問題で。道半ばの撤退は無念ですがこれも運命です、いたし方ありません。まあ生来のポジティブな思考なもんで、一から地元の宝塚で小さく始めました。別のブログ(コーヒーとお茶 お家が喫茶店)で僕のことが書かれていたので、「なつかしい、連絡をせねば」と思い帰山人
さんのブログにコメントしております。ほんと東京会庵でお世話になりっぱなしで申し分けなく思っています。
またいつかお会いしたいものです、よろしくおねがいいたします。

to:浅野さん
帰山人 URL [2010年07月10日 23時03分]

こちらこそご無沙汰しております。拙愚のブログにまでお越しいただきありがとうございます。
いやぁ、teaRさんブログへの私の勝手なコメントでの反応とは、今更ながらインターネットは怖い、勝手なことばかり言って、こちらこそ申し分けありません。
しかも、この私のブログの傍若無人ぶり、冷や汗ものです・・・が、生来の厚顔なもんで、これを機に遠慮の無いコメントをいただければ幸いですし、日本珈琲狂会にもお誘いしておきます(笑)。
また直に珈琲談議にもうかがいます。今後ともよろしくお願いします。

いちばんのコーヒー
鈴木太郎 URL [2010年11月15日 03時53分]

何となくGoogle から到着しました。
カッピングスコアをつける事も仕事の一部にしています。
また、自らコロンビアでコーヒーを生産しているのですが、世の中には本当にすごいコーヒーを作る人たちがいます。
その人達は大きく運に恵まれていて自ら恵まれている場所へ導く能力があると思っています。
その人たちが作るコーヒーは他の農園のどのコーヒーとも味が大きく違いとにかく甘い。
足を運べば土地、品種、手入れ、とにかく何処にもまねできない凄さがある。
特にこのエスメラルダ農園は細かく区切られた畑ごとに気候が違い味も違う。
有料でサンプルを送ってもらって一度試されるといいと思う。
私はこのコーヒー毎日飲みたいと思っていますが、当然お金が続かないので、ならば、こんなコーヒー作れるものなら作ってみたいとコロンビアの自分の農園に通っています。

to:鈴木太郎さん
帰山人 URL [2010年11月15日 11時06分]

ようこそお越しくださいました。落札関係者からコメントをいただけるとは、望外の喜びです、私の記事趣意をどう感じられたかは別としまして…(笑)
「すごいコーヒーを作る人たち」がいて、それを「すごいと思う人たち」がいる…そのこと自体には何らの不可解もありません。エスメラルダの畑ごとに味をとる…やってみたいです!でもカルレイダもドンパチも他の畑も並べて同時にです!エスメラルダがすごいことと、エスメラルダだけがすごいこととは違いますよね。
運に恵まれない農家のコーヒーを集めて、スコアに関わらず明確なチャリティーで「最高価格」を更新するコモディティコーヒー・オークションを開催できたら面白いかな、などと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。

続:いちばんのコーヒー
鈴木太郎 URL [2010年11月17日 19時13分]

長くてすみません、どうしても伝えたい気分になったので、現在コロンビアの自分の管理しに農園に来て、この記事を書いています。しかも、驚きの長さで書いた本人もびっくりしています。

 パナマにはエスメラルダ以外にもいい農園があると思います。
エスメラルダ農園の凄いところは、この農園がパナマゲイシャの二次的なオリジナルという点です。コスタリカから持ち込まれたゲイシャを導入した農園はいくつかあります。

エスメラルダのオーナーは、そのような農園をたまたま買ってゲイシャのをほかのコーヒーと分離し、品種ゲイシャがうまいと味で再発見した所からほかの農園と情熱に根本的な違いがあるように思います。

ゲイシャの味の発見者は、現オーナーの30代の息子のダニエルで、この人は少しおかしなぐらいコーヒー畑にいる人で、たくさん植えた中から特徴別にモニタリングなど実験が好きな人でして、味の違いを再び畑にフィードバックするブリーダー的なこともやっています。彼らの味の違いに共感できるところが多く、特に収穫にかける手間、特にコスト的にも情熱的にも他の中南米諸国やアフリカでもみたことがない気迫を感じます。

 ある程度公的な品評会ベストオブパナマなどは公募で登録されてブラインドで評価するので、チャンスは平等だと思います。エスメラルダ以外によいコーヒーを売る農園は多いと思いますが、いったん競売にかけられたら自分の思う値段以下で価格が決まっても売る義務が生じます。そのためマーケティング的に成功している場合は、妥協点が農園側にあり、品評会に出品しないケースも多いと思います。

出品しても味の評価の前に多くのサンプルはダメージの質的量的問題ではじかれます。意外とここがみそでここをクリアすることは意外とハードルが高いのです。安定した味の精製やクオリティーコントロールは、意外と手間や知識や経験、そしてお金がかかり土地の条件が恵まれているだけではよいものができないと感じます。

 チャリティは、管理されたコンペが行われるため、既に役割を十分に果たしていると思います。農家は味の面で共感してもらえれば、高値で買い付けてもらえます。いろんなチャンスがあるのでコンペ参加することを目標にしている私も含め農民のモチベーションがあがっていると思います。たまたま農家をやっていてそれがコーヒーだったというだけで、努力の矛先は品質である可能性はそんなに高くない農家はたくさんいます。厳しいことをいえば、普通の人は特別に不特定多数の農家に対してボランタリー精神がある訳でもないので、コーヒーに限らず味で共感できないものに手間とお金を払う共感者は少ないと思います。

 意外と良質なコーヒー豆生産するというのはエネルギーを使います。私は茨城の自宅でもコーヒーを育てているのですが、その気があれば育ててみませんか?

to2:鈴木太郎さん
帰山人 URL [2010年11月17日 21時02分]

重ねてコメントいただきありがとうございます。
 
エスメラルダのように高品質のコーヒーを生産する農園には他の農園とは異なる気迫と情熱があること、良質なコーヒー生産には想像以上に手間も知識も経験も金も総じてエネルギーを使うものであること、そして何よりもその生産者たちの努力を仲間として正当に捉えてほしいという鈴木さんの心情、いずれも文面から感じとれます。
 
それを受けとめた(つもり?の)上で、生産者の手間や情熱を無視したり嘲笑することが主意ではないこと、を再度申し上げておきます。ましてや高品質のコーヒーを生産すること自体を否定するつもりもありません。
 
しかし、各々の生産者の意図も事情も全てが思い通りにはならないことも多いのと同様に、農産物としてのコーヒーを相対的に評価して需要ベースに沿った流通をシステム化することも全てが思い通りにはなりません(シャカに説法でしょうが)。そして、その流通市場には品質以外の、ブーム・ファディズムといった一時的・変動的なファクターが大きく作用して各々の価格決定要因となっているのも事実です。これはスペシャルティコーヒーだけではなく、フェアトレードコーヒーや各種の認証コーヒーにも生じている事実ですね。
 
私が(表現の快不快という観点は別として)衝きたい点は、主としてこの「思惑とは外れたところに生ずる流通システムの矛盾」と「思惑外れの矛盾には背をむける業界関係者の了見」であります。要は、鈴木さんたちが意図していなくても、今や「パナマ」「ゲイシャ」「エスメラルダ」というキーワードだけで品質とは無関係な「高価」という化けの皮を被った周囲の亜流商売を引き起こしている実態、そこを非難しているのです。
 
厳しいことをいえば、「そんなつもりじゃない」という陳腐な現象にこそフツーじゃない熱きコーヒー関係者が手を差し伸べるべきで、意図しなくても種を蒔いた者には遠慮なく責任を追及する、未必の故意を許容させない、それこそがプロフェッショナルのハズだ、と申し上げたいのです。メジャーや巨大資本が欲得だけで需要を「作る」、そんな馬鹿げた状況を打開するためにも、高品質コーヒーの生産・流通・販売の関係者たちには顕示より自省を優先に求めていきたい、それが私の想いです(チョット言い過ぎの感はありますが:笑)。
 
コロンビアの自社農園で自省も廉恥も踏まえた善良なるコーヒーが収穫されますよう願っております。

No title
鈴木太郎 URL [2013年01月09日 09時49分]

ようやく、コロンビアの農園でエスメラルダ農園から持ち込んだゲイシャが実を付け始めました。
これから本格的に選抜を行う事になります。
焙煎して飲んで評価して生かすか殺すか決める。
これの繰り返しでコロンビアにしばらく滞在するはめになりそうです。
また、大学時代の先攻の接ぎ木によるクローンがやっと役に立つのかもしれません。
今年末ころから店頭で販売予定ですが、記事のエスメラルダ農園の品質になるまでものすごく長い道のりを感じます。
品評会でエスメラルダ農園のような評価を受けて農業で成功できるようにがんばります。

鈴木太郎

to3:鈴木太郎さん
帰山人 URL [2013年01月09日 13時26分]

近況報告、ありがとうございます。
>ゲイシャが実を付け始めました。
あぁ、サビ病の被災からもう3年経つのですね。ゲイシャの出来不出来以前に、まずは農園再起の証としての「結実」をお祝い申し上げます。ゲイシャも気にはなりますが、タンボやマラゴジッペの具合はいかがでしょうか?(またもや悪辣な言い方に聞こえるかもしれませんが)私はコロンビアでの品評の順位云々よりも、耐病の「農業復興祭り」(?)としてのアピールを心待ちにしたい、と存じます。…百姓(←私、大学時代が日本古代史専攻なので、差別用語と思っていません:笑)の「ものすごく長い道のり」は、もっと周囲から敬われるべき仕事ですから。
時にエスメラルダから移植したゲイシャはT.2722系統のものでしょうか?出自がハッキリしている株ほど、栽培地の違いがどう香味に現れるかも気になります。
また今後も時時にお報せをいただければ幸いです。

この記事にコメントする

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://kisanjin.blog73.fc2.com/tb.php/245-cca292e0
編集

kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

05 ≪│2017/06│≫ 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
Powered by / © Copyright 帰山人の珈琲漫考 all rights reserved. / Template by IkemenHaizin