ワインで考えるコーヒー

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2010 [2010年06月19日 23時00分]
ワイン界に対するコーヒー界の劣等感と憧憬は凄まじいらしく、味覚表現の模倣を超え、昨今では自恃の念無き「コーヒーソムリエ」とかいう滑稽な名乗りまで横行闊歩している。こうした低俗な風潮はさておき、コーヒー界も注視すべきワイン関連の本を読了した。
 ワインで考えるコーヒー
 
『ワインで考えるグローバリゼーション』(NTT出版ライブラリー レゾナント058)
 (山下範久:著/NTT出版:刊)
 
著者は世界システム論や帝国論を専門とする社会学者でありワインフリークでもある。ワインを具体的な切り口にグローバリゼーションの課題を教養講座風に語った著作は、(グローバル化の影響でワインの世界とコーヒーの世界が互いに似てきている、と別のワインスクール講義で山下氏自身が触れている通り)コーヒーをワインに対照し、ワインをコーヒーに置換して読み解くと、刺激的な概念や事項が満載の論考である。
 
 《…現在世界のワイン産業の最大の課題は、グローバルなワインの過剰生産
  にいかに対処するかということであり、そしてまたグローバリゼーションの進
  展にともなう「産地」の意味の見直し──多様化と透明性の両立──である
  からです。》(p.92)
 
 《…「テロワール」は、ワインの世界における普遍的価値を代表する言葉である
  かのような趣もあるのですが、一般に、普遍的価値が、あえて声高に述べた
  てられているときというのは、本当に普遍的というよりも、むしろイデオロギー
  的な主張であることが多いものです。》(p.148)
 
上記抜粋部のワインをコーヒーに、テロワールをスペシャルティに置換しただけでも、これら犀利な記述がコーヒー界でも正鵠を射たものであることは論を待たない。
 
他方、「再帰性」「フォーディズム」「マクドナルド化」「グロースバル化/グローカル化」などの概念を自在に操り記された山下氏の論述だが、どこかパッチワークの繕い仕事の様に感じられ、ゆっくりと味わうと喉越しが良いことよりもライトボディが心象に残る。特に、グローバリズムとテロワール主義の二項対立を脱構築した上で、生産者と消費者との相互の関係にある種の共同性を再構築する「価値の共有」へ導く終結部は軽薄である。グローバリズムとテロワール主義の不毛なイデオロギー対立を脱する基準に、生産者と消費者との価値の共有の「厚み」を提案する山下氏だが、それとても新たなイデオロギー的な主張に過ぎない、と私は捉える。ワイン界でもコーヒー界でも、混乱・離反・壊滅を回避する志向を暴露した時点で、その論考は陳腐化しいずれも嫌な酸化臭を放つ。
 
それでもなお、このような軽快洒脱にまとめられた本が登場するワイン界は羨ましい。同時に、ソムリエに対してカッパーだとか称しても、こうした喝破も無く商業主義のコーヒー本しか著せない学無き日本のコーヒー界は謙虚に恥じ入るべきであろう。コーヒーのワインに対する劣等は、呼称や用語ではなく、こうした論述が出現しないコーヒー業界の浅薄な頭脳が課題なのかもしれない、そう思うと冷笑を禁じえない。いずれにしろ『ワインで考えるグローバリゼーション』はコーヒーも考えさせる佳作。
 
コメント (2) /  トラックバック (0)

コメント

No title
ナカガワ URL [2010年06月29日 01時15分]

感想を強要したようで恐縮です。わたし的には商売がかかってますので「他者へと通じる『ツーリズム化』」に線を引きました。「遠回りしてでも行く価値がある」「わざわざ計画をたてる価値がある」店、人、物を目指すことになるのかなあ、と。
ワインとコーヒーを比較したとき、ワインで「焙煎」にあたる部分はどんな行程だと思われますか。

to:ナカガワさん
帰山人 URL [2010年06月29日 10時19分]

>ワインで「焙煎」にあたる部分はどんな行程だと思われますか。
コレ結構緊張する問いかけですねぇ。あんまり身構えないで、単純に
いえば「醸造」でしょうか。液体として仕上げる「抽出」が同じ直前工程で
「瓶詰」だとすれば、少なくとも「焙煎」は「醸造」の一部もしくは全部と
いうことになるのでしょう。でも「澱引から」か「二次発酵から」か
「主発酵から」か「搾汁から」なのか、う~ん迷うところです。
他方、「焙煎」を液化前の最終工程と捉えると、wine-makingというより
Viticulture(ヴィティカルチャー)の範疇だとも考えられますね。
つまり「焙煎」を生産加工の最終段階とみるか消費加工の起点とみるか、
でワイン製造に当てはめるところがまるっきり違ってしまう。
この「焙煎」に対する認識に軸がなければワインに例えることもムリ、
ということを明らかに承知した上での問いかけはイジワルです!
・・・てな解答のない回答ではダメですか?センセイ!

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
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