焼き尽くした女

ジャンル:学問・文化・芸術 / テーマ:アート / カテゴリ:観の記:美面 [2010年06月07日 04時30分]
2010年5月23日
『ハンス・コパー展 20世紀陶芸の革新』 滋賀県立陶芸の森・陶芸館(美術館)
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Hans Coper(ハンス・コパー)の回顧展が日本国内を巡回中、滋賀で観ることにした。傘も利かず横殴りの雨にずぶ濡れで入場すると、いきなり最も観たかったコーヒーセット(ゴンペルツと共同制作)、想像よりは粗い作りだが鑑賞したいというよりコーヒーを淹れて使ってみたくなる機能美にあふれ、その美しさにしばし見惚れる。
 
テーブルウェア以上にティッスル・スペード・キクラデスなどのフォルムに象徴される彫刻的な陶芸作品は、古代文明の造形に刺激を受けた現代的な作風などと評されるが、心象の訴えを抑えきるように冷たく静かな作品群には「時代が無い」という感じを受けた。
 
ハンス・コパーは1920年ドイツ・ザクセン州生まれ、父がユダヤ人で母は非ユダヤ人という最悪に半端な出自で迫害され、16歳の時父親が自殺、19歳でナチスから逃れ母親を捨ててイギリスに渡るが、敵国人としてカナダへ拘引され、イギリスに戻って兵役に就いた後、26歳から作陶を開始し、38歳でイギリスに帰化し、55歳頃に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、61歳で死亡した、生涯結婚3回のなかなかの美男である。この来歴で鬱屈しないわけは無い、だからコパー作品には苦楽実態の「時代が無い」のでは? と私は勝手に想像している。そして死してなお、「すべては、ルーシー・リーとの出会いから始まった…」という浪漫的なようで実は酷く無礼なキャッチを受けて回顧されているのだ…
 
 
2010年6月5日
『ルーシー・リー展』 国立新美術館・企画展示室1E
 D.Lucie Rie1  DLC展新美
Luzie Marie Gomperz(ルツィエ・マリー・ゴンペルツ)の展覧会、コパー展に続けて他用に乗じて予定通りの観賞。さすが?新美の大混雑、当初は興味のあるテーブルウェアを瞥見するつもりだったが、色彩豊かなボタンやコンビネーションポットに目を奪われ、釉薬ノートや注文台帳や手紙にも目を遊ばされ、デヴィット・アッテンボローによる80歳のゴンペルツへのインタビューにも目を喜ばせ…圧巻充実の展示を長く堪能する。
 
Lucie Rieを名乗るルツィエ・ゴンペルツは1902年ウィーン生まれ、父母ともに裕福なアシュケナジム・ユダヤで、父は耳鼻咽喉科医師、少女時代は2人の兄と共にアイゼンシュタットの母方ヴルフ家の所領地で多くの時間を過ごして育った。24歳でヨハン・ハンス・リーと結婚、33歳で父を35歳で母を亡くし、36歳でナチスから逃れてロンドンに渡り、38歳でハンスと離婚、15歳年上のバーナード・リーチ、10歳年上のフリッツ・ランプル、18歳年下のハンス・コパーと親交を深めながら、88歳に脳梗塞で倒れるまで作陶に励み、93歳で死亡した、気概に富んだ美女である。
 
ゴンペルツは「リーチやコパーと並んで」20世紀を代表する陶芸家と評されるが、1968年OBEを、イギリス人であるリーチに18年遅れて1981年CBEを、1991年にはDBE、3度に渡って大英帝国勲章を受けDame(デイム=ナイト位)の称号を送られたユダヤ人であり、格で言えばリーチを抜きコパーを置き去っている。
 
夫ハンスを捨て、師リーチを踏み、先輩ランプルと遊び、後輩コパーを育てた、まさに陶芸も男も「焼き尽くした女」、スゴイババア・ゴンペルツの迫力には圧倒される…
 
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コメント

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しんろく URL [2010年06月08日 21時39分] [編集]

東京行のオプションはランではなく美術館でしたか。

to:しんろくさん
帰山人 URL [2010年06月09日 11時13分]

そうなんです、信楽に行った時点で東京でのオプションは既決、
伊吹山下見会を挟んで我ながら完璧なリレー観賞…と思いきや、
野辺山に行った際に大きな過ちをしていました。
ルーシー・リーの親友ガラス工芸家フリッツ・ランプルの展示会
「ウィーンのバーナーワーク BIMINIとその周辺」
http://kitazawamuseum.kitz.co.jp/kiyosato/
清里北澤美術館で開催中なのにすぐソバまで行って寄らなかった!
美術のソバより蕎麦が先にくるんだなぁ、どうしても:笑

No title
- URL [2010年06月19日 02時16分]

何とか見てきました。恥ずかしいチャーリーズ・エンジェルの女優と勘違いしていました。貴ブログに感謝です。我が家に1枚だけスリップを使った茶と黄色の釉の小皿があって、壁に貼ってあります。リーのコーヒーの器は大変好みです。ウエジウッドはリーを拒否したので倒産が続くのです、きっと。個人的に北欧素朴系の器は好きになれない。器はそれ自体華でよいかと。ウイーン時代の薄いレンガ色のカップにコーヒーをいれたら----どうなるのでしょうね。やってみたい。コパーも足を運んでみます。

No title
帰山人 URL [2010年06月19日 15時58分]

Lucy Alexis Liu(ルーシー・リュー)とカン違い…いいんです!リンチーリンをユーリンチーとしか覚えていられない我が一族より余程マシです!w
そう、ゴンペルツデザインのジャスパーは製品化すべきでしたねぇ。
どっかの時代に依拠した懐古趣味でもなく、ぶっとびをカマしたがる奇天烈でもなく、技法バカの見せつけでもなく、「用の美」っぽい味気なさも無い…つくづく焼くのが好きだったんだろうなぁこのババア、だからリューよりモテても納得です。
コパーはコパーでイヤラシイ奴なのでお楽しみくださいw

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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