Deux Cafés(ドゥー・カフェ)

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2010 [2010年05月12日 23時00分]
『トゥー・エスプレッソ』(2 Espressos) (高浜寛:著/太田出版:刊)
  ※フランス版“2 Expressos”(Kan Takahama著/Casterman刊)
 トゥー・エスプレッソ  2 expressos
 
この作品がフランスでバンド・デシネ(B.D.)として「9番目の芸術」に相当するか(ちなみに1文学、2音楽、3絵画、4演劇、5建築、6彫刻、7舞踏、8映画…?)は未詳だが、Frédéric Boilet(フレデリック・ボワレ)が提唱する通りに作家主義(対義:商業主義)の漫画作品やその運動・潮流を「ヌーベルまんが」と称するならば、『トゥー・エスプレッソ』は作品内容も出版形態も「ヌーベルまんが」だといえよう。
 
もっとも、版元から帯で「絶美の漫画家・高浜寛、待望の復活!!」と鼓吹されても、果たして作者自身が「絶美」な女性か否か?は私の関心する事ではないし(失礼?)、堅いのか緩いのか判然としない画の質感に(好みも含めて)「絶美」とまでは賞賛できない。また版元紹介の「海を越えた漫画家がみつけた、愛と再生の物語」という文句も??半端なく描き込んだ凄まじい画調と、嘲弄しあう作中の人物群との落差こそが、戯画的な滑稽さを支えているのであって、卑俗な紹介文言は無用邪魔だろうと思う。
 
作中、パリでカフェを営んでいる父親をもつフランス人漫画家が、居候先の喫茶店主にコーヒーの淹れ方を教える。「本場仕込み」を描きたかったのかネルドリップである。巻末で作者が「珈琲美美」店主・森光宗男氏に謝辞を述べており、作品に登場するネル布の形状をみても明らかにその影響がわかるのだが…
 
残念ながら、現代のパリでカフェに行き、「コーヒー2つ!」(=Deux cafés!)と注文すればエスプレッソが2杯出てくる仕儀にいたること尋常であって、森光流のネルドリップコーヒーなんぞはまず望めない。この実状から見れば、表題『トゥー・エスプレッソ』は適正であるのだが、作者が表題とのギャップも含めフランス文化の実状を揶揄するべく敢て森光流ドリップを描いたのか?と邪推しても…そこまでのシカケとは考え難い。やはり疎漏であろう。
 
ネルドリップで『トゥー・エスプレッソ』…以前に漫画『クッキングパパ』に登場した時と異なって「美美」や森光氏が直接描かれたわけではないが、何とも皮肉な扱い。さらに作品が「日仏同時発売!!」、“2 Expressos”に「本場仕込み」として描かれる森光流ドリップをフランス人はどのように感じるのか、はなはだ興味深いのである(これを記した時点では、この点に触れたフランスのサイトやブログは見出せない)。
 
MANGAとB.D.とが融合して日仏の架け橋たる「ヌーベルまんが」は大いに結構、だが変節したカフェ文化と孤立した喫茶店文化は共に凋落したままに融合できない?
 
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コメント

No title
teaR URL [2010年05月13日 00時12分] [編集]

こんばんは。この本読みたいというより、フランスでどう捉えられているのか興味深いですね。フランスではエスプレッソが主流とは言っても、ネルドリップの存在すら知らないってことはないんですよね?

to:teaRさん
帰山人 URL [2010年05月13日 11時21分]

>フランスでは…ネルドリップの存在すら知らないってことはない…?
ソコなんですよぉ、捉えどころの基盤は…コーヒーに特段の思い入れが
ない方々にとっては、日本でも「ネルドリップ」を事実上「知らない」のが
実状だと思います。で、フランスではそれをはるかに上回る割合でネル
ドリップが認知されているかどうか…目下、追跡調査中です。
ただ、森光・大坊・標・関口・本部(順不同)各氏のフランス版という
存在は期待薄ではないか、と勝手に憶測しているところであります。

No title
y_tambe URL [2010年05月13日 12時04分]

帰山人さんと概ね同意見です…が「ない」という証拠を探すのは難しいですね…「悪魔の証明」というヤツで。

「漉し布を使った抽出器具」として、ネルドリップの元祖と呼ばれることがある、ドゥベロワのポットも結局は、ドリップよりも浸漬(からの粉の分離)に頼るものであって、日本式のネルドリップには到達できないんじゃないかと…そのくらい、日本のドリップ技術のマニアックさは異常。

元々そんなマニアックなネルドリップ法が伝わってきたわけでなく、日本でも初期は鍋で粉と水を煮たものを「漉しとる」方法だけが紹介されてたわけで。それが今日の手法にまで辿り着いたのは、ひとえに先人達の努力と試行錯誤の賜物ですね。

日本のコーヒー抽出技術は(焙煎以上に)ガラパゴス化してるというか、文字通り独自の進化を遂げてますね…ただ進化の背景には、やはり生豆の種類と品質、そして焙煎方式の違いによる焙煎豆の性状が、有機的に絡んでいる……つまり「『日本の焙煎豆』を如何に美味しく淹れるか」という必要にかられた結果として、抽出技術が独自に進化してきたのだろうと思ってます。

to2:teaRさん to:y_tambeさん
帰山人 URL [2010年05月14日 19時25分]

えー、念のため、在仏渡仏歴があって食べたり飲んだりが大好きでコーヒーには関心が薄い友人に回答をいただきました。
「フランスでネルドリップの存在は見た事もないし、ネルドリップでいれている珈琲好きが集まるお店というのも聞いた ことはないですね。」「珈琲文化が浸透しまくっているフランスでも、ネルドリップできちんといれた珈琲なんて、一般家庭はもちろん、お店でも『そんな時間かけてられっか日常の飲み物にっっっ』っていう感覚でほとんどその存在は認知されていないと思います。」「結論は、ネルドリップそのものを知らないフランス人の方が多分圧倒的に多いと思いますよ。存在は知っていても見たことないっていう人がせいぜい1割くらいかな?」
とのこと。えー、キッチリと「ない」という証拠を探すのは難しいですが、ヤッパリ「知らない」が実状優勢かと…調査は継続しますが…
 
しかもtambeさんご指摘の通り、歴史的にみても「日本のマニアックな」ネルドリップ抽出技法が過去のフランスにあったとすらいえない、というよりどの国にもなかったかも…なんすよteaRさん。この「フランスから来たネルドリップ」幻想の震源地が銀座某店にある、って話も聞き及びますが、そこまでは私は断定できません(笑)が、幻想は徐々に拡大してますねぇ、困ったもんだ。
 
話は違いますが、最近「辞書のサイフォンの定義、1世紀近くも誤ったままだった?」っていうAFP=時事の記事を目にしました(この伝聞記事の説明がまた酷くヘタクソ…)が、日本に限らず欧米でもサイフォン原理とコーヒーサイフォンの原理を混同する人が多いからだとしたら、笑ってられないけど笑える話だと思いません?
ドリップもサイフォンも罪な曲解だらけ、っていうことに…

No title
teaR URL [2010年05月16日 22時40分] [編集]

帰山人さん、y_tambeさん、勉強になります。

そういえば日本人もネルドリップ知らないですね。僕が職場の休憩中、ネルでコーヒーを点てていたら、同僚にエコのために使ってるの?って聞かれたことがあります。そっ、そうだよ…って答えました(笑)

日本のネルドリップは、日本独自のものなんですね。まったく知りませんでした。ヨーロッパでは巨大なネルを使ってドリップしてたなんて聞いたこともあるのですが、どうなんでしょう。

日本のネルドリップの原型を作ったのは誰なんでしょうか?襟立さんや関口さんよりも前?

独自の進化をたどる要因、豆の種類、質、焙煎などがどうヨーロッパと違ったのかも気になります。
サイフォンの話もすごいですね。もしかしてサイフォンもヨーロッパにはすでにないのかな?

to3:teaRさん
帰山人 URL [2010年05月17日 10時40分]

「>勉強になります」どころか、オソロシイ課題提起をされました。
巨大ネル→コーヒーアーン→ヨーロッパ各国のカフェ全盛期、コーヒー抽出技法の実態…未解明! 日本独自のネルドリップ→原型は誰?…未解明! サイフォンもヨーロッパには既に無い?…未解明!
tambeさーん、サイフォンでも「悪魔の証明」することになったらどうしましょう?(笑)
えー、全て追跡調査をボチボチってことで…

No title
y_tambe URL [2010年05月17日 12時37分]

そもそも、日本でのサイフォンの知名度の高さは異常。

思うに、60~70年代に(ロースター主導で、「でもしか喫茶」にまで)広まった、というのがその主因かと…余所の国では、器具の実物を見てもそれが何だかわからない、というのが「普通」ではないかと。


「サイフォン」は本当にややこしいんですよね…ウィキペディアの「コーヒーサイフォン」の記事は何年か前に僕がメインで書いたものでして。で、そこからリンク先として引いてある"Vacuum coffee pot"という海外のサイトの情報が、大いに参考になるかと。
http://baharris.org/coffee/History.htm

日本では「サイフォンは河野が開発した」、あるいは「発明した」とすら言われてますが…どうもそれは疑わしいというか。
元々、上下二つの器具をくっつけて、蒸気圧の違いで湯を行き来させる「今のサイフォン」と同じ構造のものは、既に1830年代にドイツにあったようです。さらに、1800年代にはヨーロッパ各地でパテントが取られてて(国が異なるので、その分特許も複数存在する)、その中には「コーノが独自開発した」と主張してる、両球がガラス製のもの(Double glass balloon)もあったようです。ただし、これらは"Vacuum coffee pot"であり、「サイフォンを応用したもの」とは認識されてなかった。

で、"siphon"という言葉で呼ばれる(ことがある)器具を発明したのが、「ジェームス・ロバート・ネイピア(or ナピアー)」で、1840年代とされてます。実はこの人、一般に言われてて、しかもAll about coffeeや上記のサイトでも挙げられてる「ロバート・ナピアー」とは別人だという説が濃厚。

実はこの二人は親子で、「ジェームス」の方が息子です。ナピアーの開発した"Napier's pot"は、二つ横に並んだフラスコを、水管で「橋渡し」してて、見た目がいかにも「サイフォン」っぽいです。これが「サイフォン」と呼ばれることになったきっかけでしょう(つっても、結局は蒸気圧で湯を送るので、サイフォンの原理は働かないんですが)。
「オデット」に代表される「天秤式サイフォン」も同じくらいの年代にガベット(Louis Gabet)が開発してパテント取ってます。天秤式サイフォンは、ひょっとしたら水を移動する最後のあたりでは、サイフォンの原理もちょっとは働くかもしれません。それと、ナピアーとガベットのどっちが早かったのかは、よく判らないです。

で、河野が「サイフォンを開発した」としてるのは1925年ですが、その10年くらい前にはすでにアメリカで同型のものはパテント出てたようで。実際、1915年にはアメリカで"Double glass balloon"型のSilexが発売されてますし、All about coffeeの挿絵で見ても「今のサイフォン」そのままの型です。

河野は「シンガポール留学中に、イギリス人が工夫してた器具から発想して、実験器具を組み合わせて作った」と言ってますが…まぁ上記のような経緯から察するに、残念ながら、その記述の信憑性は高いとは言えないというか。ただ、"double glass balloon"の器具を(発想のオリジナリティはともかく)「初めて日本で作って」「サイフォンという名前で発売した」というのは、確かと言っていい、とは思います。

#ここで「サイフォン」という名前にしたのが、さらに国内での混乱につながってるというか。

このあたりの時代は「バックトゥザフューチャー」の「日本製=コピー商品」の時代、どころか、アメリカだって、ヨーロッパで開発されたものを独自にパテント取ってコピーしてたくらいの時代だろうから、当時の感覚としては「全く当たり前」のこと、現代の感覚で「パクリ」があったとしても、非難するのは筋違いだろう、と思います。

ただ、河野珈琲サイフォンの公式な発表は、過去のパテントの図案やSilexの造形から見ると、どうみて「無理な釈明」に見えて、却って「信用できない」印象を受けるのが正直なところです。

個人的には、このあたりは関わり合いになるのも面倒くさそうなので、出来ればお近づきになりたくないところだったりして。

to2:y_tambeさん
帰山人 URL [2010年05月17日 23時41分]

>余所の国では、器具の実物を見てもそれが何だかわからない…
ヤッパリそうですかねぇ…扱いも面倒な抽出器具だし生き残らないかぁ

>ウィキの「コーヒーサイフォン」の記事は何年か前に僕がメインで…
ハイ、百珈苑BLOGの「二人のナピアー」記事で存じてますよ。
余談、ウィキのコーヒー関係は全部tambeさんが書くべきですよ!(笑)

>「サイフォンは河野が開発した」…どうもそれは疑わしいというか。
>「無理な釈明」に見えて、却って「信用できない」印象を受ける…
tambeさんと概ね同じ見解ですね。もっとも視角を変えるとコーノ式、
サイフォンは下部の形状が絶妙で突沸無くきれいに湯が上がったし、
ミル(廃版の手挽き)の独自刃は粒子が安定して挽けるし(今も愛用)、
ドリッパー(名門)の円錐形状も理に適っているし(溝の理屈は別だ)、
彬氏・敏夫氏2代に渡って評価に値するモノづくり職人ではあると…
どーも雅信氏の代になって誇大な表現が増えたような気がしますね。
ドリッパーの色を変えるより以前のサイフォンとミルを復活させて
欲しいですね、私は…あ、いかん話がどんどん逸れていっている(笑)

「三人の河野」でコレですから「二人のナピアー」やむなし?ですよ。

追跡調査の途中経過
帰山人 URL [2010年07月05日 21時05分]

えー、以前この記事コメで紹介した友人より新たな聞き取り報告を
いただきました(結局他人まかせの調査報告でスイマセン)。
 
先日、フランス人と会ったのできいてみたところ。
「フランスにネルドリップで珈琲をいれるお店ってあるの?」
「ネルドリップって何?????」
「ほら、こうやってこうやって布でこしていれるやつ」
「あぁ!日本のカフェでたまに見るあの機械みたいなやつね!
 フランスにはないよ。見た事ない」
「じゃフランス人は珈琲好きでも、カフェならマシンでいれたもの、
 家庭ではネスカフェってこと?」
「ホントに好きな人はマシンを家庭に持ってるよ」
「ネルドリップはフランスからやってきたっていう話らしいんだけど?」
「聞いた事がないな」
「じゃサイフォンは?」
「サイフォンって何?」
「ほら、こうやってこうやって逆流みたいになってるやつ」
「あぁ、たま~に日本のカフェにある化学実験みたいなやつね!
 あれは日本の凝り性の人の機械だと思うけど
 フランス人は珈琲は直接いれる(布やらサイフォンやらを使わずに)、
 それが一番おいしいって聞いたけど」

以上でございます。
ランブル関口さんが若かりし頃のフランスにはネルドリップは
まだ健在だったのかどうか、というヤバイ邪推であてこすり
さらなる追跡調査に出かけます(ホントかよ!)。

No title
teaR URL [2010年07月06日 23時30分] [編集]

こんばんは。やっぱりフランスにはネルドリップもサイフォンも今はないんですね。

今はないだけじゃないくて、まったく知らないってことは、ネルの原型はフランスで生まれたにしても、文化とか伝統みたいなものでは全然なくて、たまたまフランスで生まれて消えていったものが、たまたま日本に伝わり発展してしまったということなんでしょうか?

なんかいろいろと興味深いです。

to:teaRさん
帰山人 URL [2010年07月08日 10時21分]

現代日本のコーヒー愛好家が認識する「いわゆるネルドリップ」がかつてのフランスにあったのか?それとも「布漉し」はあったにしても「いわゆるネルドリップ」はなかったのか?難しいところです。
「韓国」では近年ネルドリップのコーヒーを出す店があるらしいけれど、誰がどう認識して普及?しているのか…あたりもネルドリップ伝播の社会史的アプローチでは要調査かも、と思っています。

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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