珈琲狂なら読まずに死ねるか!

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:日本珈琲狂会 [2010年03月23日 01時00分]
CLCJ推薦図書 その1
『旅のラゴス』 筒井康隆:著
 
 
【新・コーヒー発見伝説】
 
南方大陸内の大草原に囲まれた寒村キチは、ある意味で人類発祥の地、
その最初の約千人はキチから南へ約50キロに移動して、森に囲まれ
泉あり川ありの豊かな盆地を生活の場と定め、ポロという村を創った。
約2千年後、遥か北方大陸から来た旅人が、ポロの盆地を囲む森の中で
赤い実をつけた灌木を発見する。やがてポロに到着し滞在する旅人は、
村で「カナの実」と呼ばれているものが「コーヒーの実」であること、
かつてのポロ移住者は当初森でコーヒーを栽培し繁殖させていたこと、
その後に飲用習慣が失われてコーヒーは野生化してしまっていたこと、
などを知る。旅人は専門書の記述にしたがってコーヒーの実を加工し、
2千年ぶりにコーヒーという飲み物を味わう最初の人間となった。
これが旅人ラゴスを主人公とする、新たな「コーヒー発見伝説」である。
 
 
【傑作の最適装置・コーヒー】
 
『旅のラゴス』は、いつともどことも知れない異世界を舞台にして、
ラゴスという男の数奇に満ちた長い長い遍歴、波瀾万丈の生涯を描く。
この作品は、反骨芬芬(ふんぷん)としたエログロやドタバタが隠忍され、
落ち着きと高揚感が程好く融和したままに物語が展開し収束している。
良い意味で筒井作品らしからぬ(?)異質な印象を受ける『旅のラゴス』、
ツツイストなどの熱狂的筒井作品ファンでなくとも支持が高い所以だ。
ところで、奇跡(?)の傑作というべき物語の中で、「コーヒー」が
重要なアイテムとして登場する、その果たす役割がまた絶妙に良い。
先のコーヒー(再)発見から展開する章「王国への道」は、物語の半ば、
ラゴスの旅を一旦は絶頂終息させ、そして再始動させる不可欠な要所、
だからといって、物語全体を支配するほどにコーヒーがのさばらない。
「コーヒーを傑作の舞台装置として欠かせないまま最適に扱った作品」、
コーヒーが登場する数多の小説の中でも、この恰好良さは貴重である。
 
 
【コーヒー史上のMVP】
 
ラゴスは、ポロの村民たちに「発見」したコーヒーの栽培法を教え、
乾燥室や焙煎機や粉砕機の設計をしてやり、加工や流通も教示する。
やがてポロのコーヒーは北方の都市で五十倍百倍の値で取引きされ、
富をもたらされ急速に発展した村はコーヒー王国となる。この間や
この後に主人公の身に起きる詳細は小説本編を読んでいただくとして、
ラゴスのコーヒーに関する功績は、単に発見者としてだけではなく、
栽培から加工、流通までの産業化などの全てを成功に導いたことにある。
たった一人がこれほどコーヒーに大きく関わった話は、稀有また空前、
カルディとド・クリューとハワード・シュルツを束にしても敵うまい。
現実と空想とを並べる笑止を超え、コーヒー史上最大の人物登場の愉快、
同時にコーヒーを傍らに読み進めるに最適な一書『旅のラゴス』である。
 
(注:推薦は主宰・帰山人の独断による。他の会員に罪は無い)
 
コメント (4) /  トラックバック (0)

コメント

No title
ちんきー URL [2010年03月27日 09時35分]

筒井氏の作品あんまり読んだ事ありません。
どちらかと言うと洋物SFが好きで・・・
ちなみに日本人では夢枕氏をよく読んでましたね。
(格闘技好きなもんで)

そういえば最近小説全然読んでないなぁ~
近いうちに「旅のラゴス」読んでみたいと思います。

to:ちんきーさん
kisanjin URL [2010年03月27日 17時42分]

>どちらかと言うと洋物SFが好きで・・・
実は私もそうでございます。それも主にハード系・・・古いところで3巨匠、
ほかニーヴン、ベンフォード、フォワード、ブリン、ベア・・・
J・P・ホーガンと聞いただけでゾクゾクします。オースン・スコット・カードもイイ。
例えば「人類補完」と聞けば「機構」と続けてコードウェイナー・スミス!、
エヴァの「計画」はパクリだ!と叫んでいた私はアニオタじゃないでしょ!(笑)
(どっちにしても大衆から外れた存在か、トホホ・・・)
でも『旅のラゴス』は違う意味(SFという規定を外して)でも良作ですよ。

No title
ちんきー URL [2010年03月27日 19時27分]

すみません挙げられた作家さん達全然知りません・・・
ちなみによく読んでいたのはハインライン、C・L・ムーア、C・D・シマック、A・C・クラークなんかです・・・

to2:ちんきーさん
kisanjin URL [2010年03月27日 22時34分]

これは失礼しました。
ちんきーさんはクラシカルな作家群を挙げられましたね
(モチロン私も読んでます)。
私が挙げたのは、70年代後半から80年代90年代に出てきた
作家群です(青春の同時代的?SF作家)。
SFもサイエンス(科学)からスペキュレイティブ(思弁)、
ファンタジィー(おとぎ話)まで様様なジャンルがありますから…

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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