イエメンもかっ!

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2010 [2010年01月12日 01時00分]
「モカコーヒー」の故郷であるイエメン、ここを取り巻く国際情勢の雲行きがどうも怪しい。1990年代のハニーシュ群島紛争以来、紅海のシーレーンと近辺の天然資源を手中にしたいばかりのUSA(及び一部の西欧諸国)が、昨年12月25日の「航空機爆破テロ未遂事件」を都合の良い材料に、イエメンをテロの「温床」「隠れ家」「輸出拠点」と煽る猿芝居。「哀れなアラブの最貧国に救いの手(?)を…」という作為的な論調自体が、「緑のアラビア」「幸福のアラビア」と言われるイエメンを破壊していくことが、私には悲しくも腹立たしい。
 
もう一つの(いわゆる)「モカコーヒー」であるエチオピア産コーヒーに関して、日本では、残留農薬問題で輸入制限が続き、産地商標問題で関係機関が争っている(「新豆を入れる袋」 及び「存在無き豆を争う」)。「エチオピア・モカ」の国内在庫が払底している状況に加えて、イエメンでの政情不安や抗争激化によっては、今後「イエメン・モカ」の流通が停止する可能性も…イエメンもかっ!
 
 
「モカコーヒー」という呼称については、「旧来はイエメンの山岳地帯で生産されてモカ港から船積みされたものであり、その後モカ港自体が廃港となり、他方エチオピア産までモカと呼ばれるようになった今では、混同をさけるために(あえてモカの呼称を捨てて)イエメンコーヒーとかアラビアンコーヒーと呼ぶべきだ」という至極ごもっともな意見がある(Kenneth Davids “Coffee: A Guide to Buying, Brewing, and Enjoying”)。
これに対して、ワタルのocha Club(モカクラブ)では「モカは親しみを込めて呼ぶ名、つまり愛称と考えたらよいと思われます」という商魂から離れられない反論をしている。しかも論拠として「例えば、日本で人気の高いタンザニア産のキリマンジャロコーヒーは全てがキリマンジャロ山やその山麓で産出されたコーヒーとは限りません」と説明しており、さすがは「モカクラブ」、作られたモカブランドを守るが為に別のブランドを貶めるという「問うに落ちず語るに落ちる」状態には、もはや笑うしかない…イエメンもかっ!
 
 
「モカコーヒー」とそれらを取り巻く生産国の状況認識にも、固着した観点ばかりが目立つ。例として、イエメンでもエチオピアでもコーヒー栽培を押しやって主要な換金作物となっている‘Khat’(Catha edulis)をあげよう。イエメンをはじめアラビア語圏ではKhatカート、エチオピアではChatチャット、ケニアではMiraaミラー、と呼ばれ、摘み取った芽や葉・枝を口中で噛むタイプの嗜好品とする、ニシキギ科の常緑樹(和名:アラビアチャノキ)である。驚くべきことに、このカート、コーヒーと同じアカネ科であると誤解して紹介されることが多い。そして、「現地の農家が食うためには換金性が高いのである意味仕方が無いが、生産に井戸を枯らすほど水を使い、他の農産物の作付けと収入を圧迫し、国によっては麻薬として非合法」という、その存在を悪とした前提ばかりの観点と取り上げ方が目立つ。カートを、麻薬か薬か嗜好品か食物か、と区分することは時代的・社会的な価値観によるので(日本では規制無し、USAではほぼ麻薬扱い)、私にはカートが憎むべき存在では無い。
 
イエメンのカートは、北東部ハッジャ地方産を最高級とし、首都サナアの市場高級品ではハムダン地方産、それ以外もアルハブ地方、ネヒミ地方、サナハン地方、ダマール地方、マフィート地方、と産地によって特徴と品質がかなり明確に分かれているらしいのだが、こうした観点で検証したり言及した話を私は目にも耳にもしていない。たとえ仮にカートをコーヒー転作の敵として見るにしても、「イエメン・モカ」のブランドに能書きを並べ立てるのと同じくらい関心を寄せて、カートとコーヒーの産地別特徴の相関関係くらいは解明して語る関係者が現れてもよさそうなものである。
 
その「イエメン・モカ」に話を戻しても、日本ではMattari(マタリ)の名ばかり通っていて、準じたグレードのYaffey、Anezi、Sanani、Sharki、Harazi、さらにRemi、Bourai、Shami、Yemeni、Maidi、と産地によっての特質を明快に語っている説明は見られない。カートどころかコーヒーに関しても、偏重で狭隘な視点ばかり…イエメンもかっ!
 
 
「No.9って何を示す数字?」とか「モカ港の商館廃墟に残る3つの丸穴装飾がどうしてコーヒー関連を示すサインなのか?」とか、他のコーヒー関連の話題と同様に「モカコーヒー」に関してもまだまだ謎は多い…イエメンもかっ!?
 
コメント (2) /  トラックバック (0)

コメント

No title
y_tambe URL [2010年01月19日 18時52分]

最近は、品種に関する文献をあさりまくってますが、そっちでもやっぱり、イエメンがいちばんややこしいと言うか、わけわからんと言うか…。

#エチオピア自生種群の方が、まだ「多様」の一言で片がつく分、可愛げがあるというか。

to:y_tambeさん
kisanjin URL [2010年01月19日 23時41分]

種や品種を深く掘り下げるところはお願いするとして、きっと浅目の通念でも日本人の多くが間違っていることがありそう…まとまったらまたご教示ください。
イエメンにしろエチオピアにしろ「モカ」に対する思い入れについても、その湿っぽさは日本独特のような気がします。神話や伝承を交える民俗芸能的なブランド感覚も憎くばかりはありませんが、理系の深堀りには邪魔な偏見も多いのでは?自生だろうが栽培だろうがコーヒーノキ自身には何ら罪はないのでしょうがね。

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
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