JCS集会参加記(1)

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2009 [2009年12月08日 01時00分]
2009年12月6日
日本コーヒー文化学会(JCS)第16回年次集会に参加。

まず、岡希太郎氏(東京薬科大学教授)の講演「コーヒーと健康」。
論旨は、氏の書籍やブログに著述されている範疇内だったので、
目新しさは無かったが、集会に相応しい内容と雰囲気で好ましい印象。

例えば、コーヒー飲用によるカフェインとカルシウムの関係。
巷間では乱暴にも喫煙や飲酒と一絡げにして、
 「…喫煙は胃腸の働きを悪くしてカルシウムの吸収を悪くし、
  過量のカフェインは尿へのカルシウムの排泄を増やします。
  また、過量のアルコールはカルシウムの吸収を減らして、
  排泄を増やします…」(日本医師会Webページ内健康の森)
と悪し様に言われるのが関の山だが、
岡氏が説明すると、筋力増強・強心・神経伝達活性・免疫力増強など、
カフェインとカルシウムとに相似の作用機序から共通の効能を示して、
その上で、「カルシウムが足りている健康な人には、カフェインは
安心して飲める病気予防の栄養素」と表現される。
JCS岡氏
他方、話題が多岐広範で時間の制約もあるからだろうが、
かなり粗暴な説明も見受けられ、聴衆の誤解が怖い内容も。
エンタカポン(商標名コムタン)は、既存のパーキンソン病治療薬
レボドパの作用増強を狙った薬であり、コーヒー成分のクロロゲン酸が
分解したコーヒー酸(=カフェ酸)の作用を模して開発されたもの。
当然、薬理学専門の岡氏も著述ではそれを説いているのだが、
講演では「パーキンソン病の新たな治療薬コムタンは、
コーヒー成分のクロロゲン酸からできた」という説明のみ。
聞き手は単純に「コーヒー飲用はパーキンソン病予防になる」と解釈する。
やはり薬理の世界は、その検証に加えて表現自体がかなり危ない因子だ。

もっとも、このコムタンが薬になった理由を、「既存自然の成分では
儲からないから、製薬会社は特許の取れる類似の成分を作って儲ける」
と明快に言い切った岡氏には、exactly!

講演総じて、コーヒー擁護派という立場で集会を括った岡氏の弁舌、
演芸(?)として充分に楽しめたし、「カフェインに限らず、薬は毒に、
毒は薬になる」という当然の原論には改めて共感を覚えた。

私個人としては、仮に「コーヒー成分は毒、コーヒー飲用は不健康」と
断ぜられても、自身のウマいコーヒー偏愛は全く揺らがないので、
健康論に関しては正直「どうでも良い」のが原論なのだが…
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コメント

No title
y_tambe URL [2009年12月09日 11時44分]

うーん、岡先生もどんどん妙な方向に進んでるみたいですねぇ。大丈夫なんかいな? 怪しげな内容の講演をするよりは、「本業」の方というか、きちんと研究論文を出す方向で、頑張っていっていただきたいのだけど。

#きちんと論文を出していってる点では、某先生よりもきちんと「研究者」しているので、その点では期待しているんだけど。

別にエンタカポンはコーヒーから見つかったわけでも、デザインの段階でクロロゲン酸がリード化合物になったわけでもない(COMT阻害剤なんだから、カテコール化合物の代表みたいなカフェー酸はそりゃあ当然スクリーニングしますよ…)コーヒーとはまるっきり縁もゆかりも無い薬剤なんで、さすがにそれを持ち出してくるのは「こじつけ」というものでしょう。

#きちんと文献をチェックしてれば、コーヒー飲用によるパーキンソン病予防の効果(一応、疫学的にコンセンサスを得てます)については、カフェインの方が着目されてるというのは判るでしょうに…。


それからカフェインの作用についても、かなり乱暴な説明みたいで、よろしくなさそうですね。基本的にカルシウムまわりの作用メカニズム(リアノジン受容体による細胞内カルシウム濃度の調整)はかなり高濃度のカフェインでないと効かないもので、試験管内(in vitro)で効き目があっても、生体内(in vivo)ではあまり意味のないものも多い……致死量近い濃度を摂取しないと、体内の濃度がそこまで上がらない…部類の作用なので。

カフェインの薬理作用のメカニズムについて語るのであれば、少なくとも話の7割以上は、アデノシン受容体(A1受容体、A2A受容体)との関わりでしゃべらないといけないくらいなのだけど…このあたりはちゃんと解説してたのだろうか?

また総論的に見ても、カルシウムとの関係については、日本医師会の解説の方がまだ真っ当で、それを「悪し様」と感じるようでは、どうもいけません……「コーヒーと健康」を正しく理解する上で最大最悪最強の敵は、「人は誰しも、正しいことではなく、自分が信じたいと思うものを信じてしまう」という心理的トラップなのですから。

まぁ私も元が薬学で、今は医学部の方に来てるのですが、コーヒーと「健康」について、何かを語ろうと思ったら、一般的な薬学の知識だけでは不十分で、疫学データをきちんと読み解けないといけません(で、未だに苦労しつづけてます)

薬学とは、基本的に「医薬品」を生み出すための学問であって、コーヒーそのものの健康への影響を考えたりするのは、「日本の大学で行われてきたような」薬学の守備範囲からは少しだけ逸脱します(…というのが、自分自身が薬学の外に出て見えてきましたので)

#まぁ医学知識だけでも、化学に関する背景知識が薄くなりがちだし、それはそれで力不足なのですけどね。

No title
y_tambe URL [2009年12月09日 18時10分]

この話題に触発されて、久しぶりに岡先生のところのブログを見に行ってみましたが……こりゃ駄目だ orz

タミフルとカフェインがどうこう、という話に至っては、不勉強を通り越して、下手すると有害ですらある。

#カフェインがタミフルの異常行動を増強するかどうかは専門家の間でも両論分かれてて、現在検証が進められてる段階だというのに、あんな妄言を書かれちゃ困る。

『珈琲一杯の薬理学』は、まぁ細かい部分はともかく、大筋においては「先を越されたなぁ」とすら思ったものなのだけど。一体、どうしてこうなっちゃったのか…。

to:y_tambeさん
kisanjin URL [2009年12月09日 18時25分]

来ると思っていたけれど来たら怖いコメントが…キターーッ!(笑)

>岡先生もどんどん妙な方向に進んでるみたいですねぇ。
うーん、一般書や講演よりもワルツコーヒーと開発した「カラダ想いブレンド『爽』『快』」の方がさらに怪しげだと思いますけど…

>エンタカポンは…コーヒーとはまるっきり縁もゆかりも無い薬剤なんで…
うーん、講演での説明は真逆の「こじつけ」で押し通してましたよ。

>コーヒー飲用によるパーキンソン病予防の効果については、カフェインの方が着目されてるというのは判るでしょうに…
私は判ってます。岡氏も講演で触れました。しかし、問題なのは、この件とコムタンの件をごっちゃにして、「予防効果」を謳っていた(と、聴衆の大半が思うであろう)表現なのであります。

>カルシウムまわりの作用メカニズムはかなり高濃度のカフェインでないと効かないもので…
えー、この件については一切説明も提示もありませんでした。なるほど、致死量に近い摂取が前提では、このカフェイン作用をコーヒー礼讃に使うのはチョットまずいですねぇ。記事に取り上げた私も反省します…

>カフェインの薬理作用のメカニズムについては…少なくとも話の7割以上はアデノシン受容体との関わりでしゃべらないといけないくらいなのだけど…
ハイ、「受容体」という言葉も説明も一切ないので、そういう意味ではほぼ0割でした…

>カルシウムとの関係については、日本医師会の解説の方がまだ真っ当で、それを「悪し様」と感じるようでは、どうもいけません…
まず、この点に関して(年の為に)は、医師会の解説を引いたのも「悪し様」と記したのも、私(帰山人)でありまして、岡氏は何らこの点に触れられておりません。その上で、「コーヒーと健康を正しく理解する上で最大最悪最強の敵は…心理的トラップ」という的を射た指摘はサスガです。特に私の場合は、コーヒー以上に喫煙や飲酒に対しても常人よりも「信じたくないものを信じない」傾向が強いと自覚していますから、科学的な客観論では「悪し様」はこの件では不適切な表現かもしれませんm(_ _)m
ただ(これを言っては薬理学や医学という世界から外れることは承知の上で)、例えば医師会解説の「意図」を悪意に「感じる」ことは、私固有の心情論としてはアリだと思っていますし、組織論や社会論という観点での人文社会科学(?)としては成立する余地アリかとも思っています。但し、これも論旨と表現を間違えると、先般のコーヒー経済論に関する辻村氏批判の矢が自分に突き刺さることにもなりかねず、時と場所と相手も間違えられませんが…

いずれにしろ、医学・薬学・生理学方面で「コーヒーと健康」を私が語るには、知識も知恵も不充分ですね、ヤッパリ。この辺は、論ずるキッカケを素人代表が提供している記事、ということで勘弁してください…あぁ、予想通り「逃げの一手」に追い込まれる返事になってしまった(笑)。

to2:y_tambeさん
kisanjin URL [2009年12月09日 18時49分]

シマッタ予想を超えて「スペシャリスト」魂に火をつけてしまった!(笑)
でも、どこがどう「妄言」かを指摘していただけるだけでも私のような非専門家にはありがたいです。もっとも、こういう「駄目」を探し続けて矯正し続けることは、どんな分野でも「疲れる」ことも(たぶん)共感できるので、あまり煽り切れませんが…
でも、折角コーヒーが好きなのに「コーヒーに疲れた男たち」になるのは間尺に合わないので、元気よく吼え続けましょう!それが「日本珈琲狂会」の流儀であります。

No title
y_tambe URL [2009年12月09日 19時48分]

うーん、「妄言」はさすがに言いすぎたかなぁ ^^;

特に問題となるのは「カフェインとスタチン」の項。
http://d.hatena.ne.jp/coffees_for_healthy_life/20090915

実はタミフルによる異常行動を、カフェインが増強するという報告が(動物実験レベルで)いくつか出てまして。最近、続報も出てますが、その作用メカニズムから考えても、注意する必要はあるんじゃないか、という状況です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19273546
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19963037

基本的に、これまでカフェイン以外の解熱剤の多くについて、インフルエンザによる異常行動とか脳症との関連は指摘されてるので、この報告があるからと言って、特別にコーヒーだけを取り立ててどうこう、ということはないんですけどね。

#市販の風邪薬によく見られる「ACE処方」も、Cのカフェイン以前に、Eのエテンザミドが問題になるので、インフルエンザ(特に小児)には禁忌です。

ただ、これまでカフェインについては特に問題視されてこなかったけど、実は関連があった、ということになったとしても、それほど「不思議な話」ではないわけで。そんな中で、安易にカフェイン+スタチンを薦めてるというのはいただけないです。

#加えて、Balb/Cマウスでインフルエンザの動物モデル実験をしてる、というあたりでも、判る人ならそれだけで「?」と感じるでしょう……しかも製薬会社&中国のグループからの論文なので……それだけで判る人なら内容をそのまま鵜呑みにしないよう警戒した方がいい、と判断する程度の論文です。

ここらへんの状況を知っていたら&新型インフルエンザを取り巻くややこしい情勢を知っていたら、「うかつなこと」は言うもんじゃないだろ、というのが、医学(特に感染症学)に関わる身としての、私のスタンスです。

まぁ別にこれに関しても、単に「素人」が言ってるのであれば、特に問題はないのですよ……私もそんなに偏狭ではない(はず)なので、ほとんどはスルーしますし、状況によってはやんわりと指摘するくらいかもしれませんが、まぁそんなに「怖い」ことはしない……はずです ^^;

が、仮にも「コーヒーと健康」についての専門家を自称する人が言うとなると、それでは非常に困りものなわけでして。

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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