存在無き豆を争う

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2009 [2009年11月06日 05時00分]
エチオピアコーヒーに関する笑止な話題(2009年11月5-6日)。
 
 「コーヒー豆産地商標認めて エチオピアが提訴」(共同通信)
 「コーヒー豆 名称巡りエチオピア政府と業界団体が法廷闘争」(毎日新聞)
 
「シダモ/SIDAMO」と「イルガッチェフェ/YIRGACHEFFE」をエチオピア連邦民主共和国が日本で商標登録した後、全日本コーヒー協会が登録無効を請求し、特許庁が無効を審決したことに対するエチオピア側の提訴がネタ。上記の記事では「エチオピア vs 全協」という構図でしか報道していないが、この「エチオピアコーヒー商標問題」はそれほど単純な国内限定の係争問題では無い。
 
2005年 エチオピア政府がEU、アメリカ、カナダ、日本(9月)で商標出願
     (生産国側の市場支配を強化し価格を維持上昇させる商標戦略)
2006年 5月 日本でエチオピア政府が商標登録
     8月 全米コーヒー協会(NCA)が商標違法を提訴、米国商標局も違法支持
     (NCAと米国当局がスターバックス社の商標化反対姿勢を代弁した)
     10月 国際支援団体オックスファム(Oxfam)がスターバックス社を非難
2007年 1月 日本で全協が商標登録の無効請求
     6月 スターバックス社がエチオピア政府との和解表明
     11月 シュルツCEOとゼナウィ首相(元大統領)のトップ会談で協調確認
     (商標化反対を撤回しエチオピア他アフリカ諸国の生豆確保戦略に転換)
2009年 3月 日本で特許庁が商標登録の無効審決
     8月 日本でエチオピア政府が審決不服として提訴(係争中)
 
以上の経緯を見ると、ハッキリと二つの真相が浮き彫りになっている、と私には思える。
 
一つには、コーヒーの世界では毎度繰り広げられる戦場なき国際的紛争であること。エチオピア政府の一連の動きは、商標使用のライセンス契約を合法強化し、ブランド化でより外貨を獲得するという明白単純な戦略であり、弱い立場の生産国らしい喧嘩売りである。対して余分なカネを払いたくないし市場の主導権を失いたくないスタバの強硬反対姿勢、当時のブッシュ政権そのもののようである。この手の紛争には必ず偽善的にも顔を出すオックスファムまで登場したことで役者は揃い、狭細しくもドロドロの喧嘩が勃発した。この背景に触れずして、国内限定の商標ゴシップかのように論ずることは全く意味が無い。
 
二つには、近年の日本国を象徴するかのような日本コーヒー業界と関係機関の対米追従。しかも、他の政治や産業分野と同様に、汚い大人の対処とはいえ首(米国)はとっくに矛を収めている頃に、主体無き倣い性が災いしてシッポ(日本)は国際社会から笑い者になること必然な後手後手のあげくの騒動だけが残っている、それが冒頭の報道記事である。
 
最悪なのは、エチオピアコーヒーに関して現在の日本特有に深刻な課題は、言うまでも無く残留農薬問題にからんだ輸入禁止が2期連続で続き、国内在庫が払底しているにも関わらず次期にも流通復活の見通しがたっていないことである。豆自体が無いことをそっちのけで、「無い豆のブランド化を争う」というバカバカしい所業、この猿芝居に怒りを超えて笑ってしまうのは私だけだろうか?
 
ちなみに、商標無効の審決速報をデータベースから呼び出し読んでみたが、エチオピア政府と全協、双方の答弁と反駁の内容には、スバラシイ知識が詰まっている。普段は明かされない歴史的な経緯、政治的背景、流通に関わる企業実名など、係争の狭細しさを埋めて余りあるほど、最上のエチオピアコーヒー教書である。
 
コメント (4) /  トラックバック (0)

コメント

No title
ちんきー URL [2009年11月06日 23時57分]

コーヒーを取り巻く「世界」って複雑怪奇なんですね。
(最近コーヒーに対する見方が変わってきた気がします。)

to:ちんきーさん
kisanjin URL [2009年11月09日 17時36分]

そうなんですよ、私に言わせれば日常巷のコーヒー情報は発信者の都合によるごく一部のもの、真相は複雑怪奇です。
でも私の記事を読み続けると、コーヒー嫌いになりかねませんかね(笑)。私は決して嫌いにならないんですが…

No title
ナカガワ URL [2009年11月12日 04時38分]

この記事拝借します。mixiのコミュニティ機能を利用してスクラップを作っています。この素晴らしい記事をお書きになっている方を実名でお客様として迎えるコーヒー屋は勇気がいります。商売は「前略」「中略」「後略」で失礼します、というアナウンスしかしてませんので。
ほりぐちさんのおっしゃっていた「進化した消費者」が、ここにいましたよ。

to:ナカガワさん
kisanjin URL [2009年11月12日 17時51分]

どうぞ拝借でも介錯でもお好きになさってくだせぇ。
>記事をお書きになっている方を実名でお客様として迎えるコーヒー屋は勇気がいります
実名でお客様として迎え続けている素晴らしいコーヒー屋だからこそ言えることでしょう。勇気あるコーヒー屋がある限り、消費者も進化し続けるのでしょうよ。

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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