どこから焼けるか

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2009 [2009年10月02日 01時00分]
関口一郎著 『珈琲辛口談義』 を遅ればせながら?読了。
 
季刊「珈琲と文化」にて既読の内容ばかりで目新しいところは無いし、大御所関口氏の説く内容には頷ける話題も納得し難い観点もある。
 
通読してみてもやはり気になってしまう記述の一つ、「コーヒーは豆の表面からではなく芯から煎り上がっていくのだ」。関口氏自身が述べている通り、大多数の人が「コーヒーは表面から焙けて、徐々に芯まで焙けていく」と思っているだろうし、私も概ねそう思っているのだが、この「内(芯)から焼ける論」は関口氏に限らず、他複数の大学教授や自家焙煎店主も唱えている。
 
私も含めて「内から焼ける」否定派の論拠は至極単純である。熱伝達の原理から考えて、焼ける対象(豆)の表面から熱が伝わるのは当然であり、表層を飛び越えて物質の内側から熱が伝達されるハズは無い!という考え方である。
 
ところが他方で、豆粒ごとの焼けムラに目を転じると、表面ばかり焦げて芯が生焼けの「芯残り」とは逆の現象で、表面よりも豆の
内部の焙煎度が進んでいる状態=「中焦げ」「芯焦げ」といわれる焼けムラは確かに存在するのである。どうしてこんなことが?
 
以下は、私の推論である。
 
焙煎の前半で起こる主現象は「乾燥」である。そしてこの乾燥状態は、コーヒー豆が加熱されるにしたがって、コーヒー豆の自由水が豆の表面から蒸発する「定率乾燥」期が先行し、続いて内芯からの表層への自由水の移動よりも蒸発速度が上回る「減率乾燥」期へと移行する。
 ①焙煎当初、豆温度が急速に上昇(釜温度は急速下降)=乾燥の予備段階
 ②定率乾燥速度に達する=俗に「中点」「下死点」
 ③定率乾燥期で豆温度は上昇が緩和(停止)=俗に「蒸らし」「水抜き」
 ④減率乾燥期に移行し、豆温度が再度急速に上昇
焙煎の前半過程を整理すると以上のようになる。
 
そして④の段階で、豆の自由水に由来する過熱水蒸気が乾燥逆転点である150℃~180℃に達して、乾燥工程をより微妙で複雑な変化にしている、と私は考えている。コーヒー豆の表層と内芯で乾燥過程に時間差が生じているのは当然として、より内芯部に残存した自由水が過熱水蒸気となった場合、乾燥逆転現象がその部分で(大きく先行して)生じてしまうのではないだろうか? 仮にそうだとすれば、より乾燥工程が進んだ内芯部は、その後の焙煎後半過程で「中焦げ」「芯焦げ」していくことは自明の理だといえる。
 
巷間言われる失敗例として「中焦げ」「芯焦げ」が生ずる焙煎過程は、
 A:適正以上に低温で長時間に焼いた場合 を指摘する説と、
 B:適正以上に高温で短時間に焼いた場合 を指摘する説とがある。
Aの場合は豆の内芯部で減率乾燥の進行に先行して乾燥逆転現象が起き、Bの場合は豆の内芯部で定率乾燥を終える前に乾燥逆転現象が生じている、と考えられないだろうか?
 
閑話、この私の推論は、コーヒー豆一粒ごとの焼けムラだけではなく、豆同士の焼けムラ(焙煎度のバラつき)にも適用できる、と考える。(焙煎前の複数の)豆同士の水分量や含水率を完全に揃えることは不可能なので、豆の粒ごとに定率乾燥期が異なり、焙煎中の全ての豆粒が定率乾燥期を終了する前に、豆温度が乾燥逆転点を超えると、それが「全体に焼き揃わない」という現象を引き起こす、と思われる。
 
休題、私の目下の結論は、コーヒー豆は概ね「表面から焙けて、徐々に芯まで焙けていく」が、ある特異な(私には適正とは思えない)焙煎過程の状況下では「内から焼ける」場合もあるし、別のある特異な(最も適正と思える)焙煎過程の状況下では「表面と内が同時均一に焼けていく」ことも(理論上)あり得る、である。そして、この結論の最も大きな課題は、カフェ・ド・ランブルの焙煎は私には適正と思えない特異な焙煎であることを、関口氏が自らの主張で吐露してしまっている、といわざるを得ないことである、ワイクルー。
 
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コメント

y_tambe URL [2009年10月05日 18時47分]

芯焼けについて。

コーヒー焙煎の比較的初期の過程、いわゆる「水抜き」から一ハゼ前の段階は(主に水の蒸発による)吸熱的な反応なのですが、一ハゼの手前辺りの「煎り上げる」段階から発熱的な化学反応(要は燃焼反応で炭酸ガスとかが出る)が起こります。吸熱反応が収まるのが大体170~180℃くらいで、それから発熱反応に転じて200℃くらいになると急激に発熱が進みます。
#一応、科学的なデータとしては中林先生の『コーヒー焙煎の化学と技術』あたりに論文から引用された示差熱分析のグラフなどが載ってます。

なので、もちろん焙煎初期の過程では、熱を「表面から」与えていきますが、豆の表面にせよ内部にせよ、ある一定以上の温度になったら、そこから先は(紙に一旦火が点いたら、後は発熱しながら勝手に燃え進むように)焙煎がどんどん進行していってしまうわけです。
コーヒー豆の場合は、「水分がほとんど存在しない状態で、かつ170~180℃に到達する」というあたりが、この「着火」のための条件になってるというか…

つまり
(5)発熱反応が進行しはじめ、豆温度が急速に上昇
を付け加える方がより正確かと。(4)と(5)との間隔はおそらく比較的短く、重なることも多いと思います(不確かな数値ですが、170℃くらいのポイントと、170~180℃スタートで200℃くらいがピーク)。
#実を言うと、コーヒー豆みたいに予め含水量が減ってる素材で、はたして恒率乾燥過程と減少乾燥過程にはっきりと違いがでるのかどうかは(過熱飽和水蒸気焙煎とかの特殊なケースは別として)疑わしいとも思ってるのですけどね…感覚的には、違いを感じないわけではないのだけど、科学的にはっきり証明できる差までは見れないような予感。

「急速な」温度上昇には(5)の発熱反応がどっちかというと大きく関与すると考えられます。ハゼ以降の「足の速さ」というのは、(5)によって温度上昇にポジティブフィードバックがかかるからだと。
焙煎後期の過程では、場合によって(おそらく排熱が弱かったり、時間が長くかかったり、温度が高くて発熱反応も豆全体で一気に進んだりすると)、豆から発生する温度が逃げやすい表面よりも、内部の方が温度が高くなってしまう状況が起こりえます(極端な例だと、煎り止めで表面だけを冷ましても内部の温度がまだ高いままのように)。おそらくは、そこらへんが芯焦げの原因になるのだと。


それともう一つ。植物組織として豆の断面を観察すると、胚乳部分の表面(外部内胚乳)と内側(内部内胚乳)では、組織の硬さに違いがあります。構成する細胞自体は性質や大きさにあまり違いがないのだけど、その並び方が外部では不規則なのに対して、内部では長方形状の細胞が規則的に並んでいるため、構造的に弱く、柔らかく、もろくなってます。
#All about coffeeにも植物学のセクションに組織断面図の挿絵や写真が載ってたはずです。

このため、内部の方が焙煎後期での組織崩壊を起こしやすく、比較的「適正な焙煎」をしても、断面を見ると焙煎が進んだように見えることがあります。特に2ハゼのステップでは豆組織の崩壊が顕著になるので(さらに、ハゼそのものによる組織崩壊もあるので)、2ハゼ以降にきっちりと深煎りにする豆ほど、「そう言われればそう見える」という状態になるかと。

#この豆組織の「硬さ」の違いは、実際の火の通りやすさにも影響しそうな感じを持ってますが、これもはっきりとしたデータは持ってないです。

いずれにせよ、このような状態になった豆を「結果」としてだけ観察すると、確かに内部と表面では内部の方が温度が高く、焙煎が進んでいるように見えます。だから結果の現象だけを見て解釈して、「芯から焼ける」と誤解してしまったのだろうと考えてます。
関口さんなんかは、特に、試行錯誤の過程で芯焦げなどの失敗も含めて自ら体験を積み上げてきたからこそ、2番目のタイプの深煎り豆を見ても同様に「表面でなく、芯から焼けた豆だ」と解釈するんじゃないかなぁ、と。実は芯焦げしてない、比較的適正な豆であっても。

to:y_tambeさん
kisanjin URL [2009年10月08日 13時28分]

芯焼けについてのコメントありがとうございます。

芯焦げの主因論は、「焙煎後期の豆自体の発熱反応による」ということで私も良いと思っています。 この点に関しては、今回の記事についてフレーバーコーヒーの中川氏からも全く同様の指摘を頂戴しましたし、金沢の広瀬氏グループの研究著作を見ても納得できていました(他の部分ではかなりアヤシイトコロはありますが)。 私も理解はしていたつもりですし、実際に自分のワガママ焙煎はこの発熱反応を逆手にとったプロセスで焼いていますから。

じゃあ、何で焙煎前半の乾燥過程などに焼けムラの原因を論じた記事を書いたんだって言われそうですが、ちょっとフザケタ一石を投じてみようかと… 焼けムラの主因論とは別に、或いはその前駆的副因論として焙煎前期に目を向けて今まで考えていたことを書き散らしてしまいました。 目下としては、この副因論は実証にもとづくものでは無いので、ご指摘の通り今後も証明できないかもしれません(この点でもフレーバー中川氏からも同様のツッコミを頂戴しました:笑)。
ただ、「ムラシ」とか「水抜き」とかいう用語に縛られた是非論に象徴されるように、この焙煎前半過程の豆そのものの変移を解明する観点が巷間あまりに少ないのでは、と思っていたので、整理するついでに焼けムラ副因論として憶測を語ってしまった次第です。 豆自体の(含水量でみると)僅かな?自由水の乾燥逆転現象はさらに憶測を重ねた説でしょうが、さりとて現象にも影響度にも否定する論拠も見つかっていないので、今は私の脳内アソビでしかありません(この点でもフレーバー中川氏から「頭の中で焙煎している状態」と指摘を受けました。サスガ!)。

そういう意味では、私の焙煎前半を「乾燥」で語った①~④に「(5)発熱反応が進行しはじめ、豆温度が急速に上昇 」を加えるご提案は、説明する視点と目的から見ても(決して間違いではないが)「とってくっつけた」的なものになってしまうので気がひけます。 私の観点に妥協的に則れば、という気遣いと優しさは充分感じ取りましたが(笑)、焙煎プロセスを並べてみる論としては「吸熱」的な違う言い回しで再整理が必要かと…

さて私自身がここまで言うならば、関口氏焙煎を「適正と思えない特異な焙煎」と記しているのは、「憶測副因論でランブル叩きをしている」酷い話ということになるわけで(この点でも上手くフォローしたコメントありがとうございます)… むしろ「内(芯)から焼ける」ことを看破している関口氏に感心すべきなわけで…
しかし、私見では(それのウマイマズイや好き嫌いはともあれ)ランブルの焙煎豆は「別のある特異な(最も適正と思える)焙煎過程」を経たものとは思えないのですよ(怖い発言だなぁ、我ながら)。つまり、巨匠の語る正論とその人が焼く実物とのギャップを探るための副因論仮説なわけで、ここに余人は関わらない方が身の為かもしれないですね(あ、山内さんには振ってみようかな、アワワ)。

コメントいただいた中林先生の共著作は発刊当初に入手しましたが、それ以前に私のS大生時代、中林敏郎先生には「また私の研究室まで質問に来るのに、どうして違う学部(人文学部)に入ったの?」と笑われた記憶で、懐かしい思いがよみがえりました。

No title
y_tambe URL [2009年10月08日 17時28分]

あ、そうか。(1)-(4)は「焙煎前半の過程」だ、ということであれば、(5)は蛇足ですね。失礼しました。

一応、焙煎中の豆表面と芯部の温度変化を直接見てる(わりとまともな)論文というのはあって、ハンブルグ・ハールブルグ工科大のEggersにより、Coffee:Recent development内の一セクションと、ASIC(10年くらい前に神戸でやってた国際会議の母団体)カンファレンスで発表された論文で、それぞれデータが出されてます。ただし、彼らはフルードベッド型(ポップコーンロースターみたいなもの)もしくはオーブンを使って実験してるので、これに比べると、日本で使われる直火/半熱風式のドラムロースターでは温度変化自体がかなり複雑なので、直接当てはめて考えていくのは難しいです……まぁ大筋では同じ(焙煎初~中期には芯温度が50℃くらい表面より低く、進行に従ってだんだん追いついていく)になるでしょうけど、細かい過程を考えていくと違う部分が出てきそうだな、と。

ここらへんは、さすがに本業でそっち方面の研究やってるくらいのところでないと手が出せないなぁ、と思ってます。おそらく石脇さんのところくらいに研究環境が整っているところなら、きちんとしたデータを出せそうだ(あるいは、実はデータをもう取ってそうだ)と思ってるのですが。

何にせよ(こちらも、ほとんど「頭の中で」やってる状況ですが)、面白い話題が一つ出てくると、そこから掘り下げて考えていく過程で、自分の中での理論の整理も進んでいくわけでして、こういう風に話題が出てくる、ということ自体に非常に助けられてます。特に焙煎過程については、もう少しいろいろな現象を把握して、それらをおしなべて説明できるように、考えをまとめていかないといけない部分が多いので。一応、最終的な目標は、焙煎についても「大統一理論」的に説明可能な基礎理論を組み立てていくことなんですが、道のりはなかなか厳しいというか…

to:y_tambeさん
kisanjin URL [2009年10月08日 22時30分]

焙煎の大統一理論! なんと壮大な響き! 確かにtambeさんは、それを成し遂げる可能性のある方々の一人でしょう、期待してますよ。 私は特殊論を概念的に粗く解釈する程度でカンベンさせてもらいます。

ところでASICがらみで「10年くらい前に神戸でやってた国際会議」って何ですか? 私が参加して承知しているのは、92年のUCC招致の文化会議か、95年京都16th ASICあたりなんですが… 日本も甲斐の無い五輪招致に失敗し続けるくらいなら、そろそろASICを再度招致して欲しいなぁ。

No title
y_tambe URL [2009年10月09日 01時30分]

重ね重ね失礼を。UCCのと京都のカンファレンスが頭の中でごっちゃになってました。単にASICのことを平たく説明したかっただけでしたが、まさに蛇足だったというか。
なお当該の論文は、19th ASIC colloquiumのEggersの論文です。
http://www.asic-cafe.org/htm/eng/sectioneng.php?code=cp&number=19

to:y_tambeさん
kisanjin URL [2009年10月09日 10時49分]

瑣末なツッコミになってしまって、こちらこそ恐縮です。
京都ASICには全分野をツマミ食いしながら会期中ズッといたドシロウトは私だけだったかもしれません。 発表内容の精度よりも、掘り下げる水準がいかに日本は低いかを見せつけられてショックを受けた覚えがあります。

R.Eggersのような切り口は、ありそうでない実験のようですね。ご教示ありがとうございますm(_ _)m

真珈琲人 URL [2010年01月23日 18時34分] [編集]

お見事!と言いたいですが、芯焦げは特殊な焙煎をしているわけではないです。

ニュークロップ状態の水分を多く含んだ豆に見られる現象です。

芯焦げは、水分の蒸発、つまり自由水の抜け道はセンターカットの芯の部分を通って外へ出ます。

コーヒーの自由水はショ糖を水で溶かしたように少し粘り気があります。それは「等質」です。取り出して触ってみればわかりますよ。

水分が抜けて糖分が濃くなるので同じ温度でも中心の糖分はこげるのです。

砂糖の飴かけ細工とおなじですから155度以上で変化を起こします。

つまり、芯焦げは、糖質の焦げ。濃度の変化で起こる現象です。

特殊ではなく、豆の中の水分含有量の違いですよ。

焼き方を少し変えれば防ぐことが出来ます。

と、2年前に結論を出しました

to:真珈琲人さん
kisanjin URL [2010年01月24日 15時20分]

ご指摘ありがとうございます。

なるほど、いわゆる「芯焦げ」を「糖質の焦げ」として含水量と連動して考えるご指摘、勉強になりました。ただ、
>「コーヒーの自由水はショ糖を水で溶かしたように…」
は良く意味がわかりませんでした。確かにコーヒー生豆は水分以外の乾物量の最多成分は炭水化物ですし、その中でもショ糖などの糖類がかなりの比重を占めていることは承知しています。しかし、生豆中で糖類水和状態の「結合水」以外に、「>少し粘り気が」ある水を「自由水」として別にとらえると、現在発表されているコーヒー成分の構成比を書き換えるほど矛盾と無理があるような気がします…
また、私の本文記事では(裏で関口焙煎の理論と実際の矛盾という怖い主張を含みつつ)タイトル通り「どこから焼けるか」を取り上げたのですが、「芯焦げ」や「芯残り」を「悪し」として考え、その「回避策」を論ずることは、ある意味別論でやろうと思ってます。モチロン関連するテーマではあるのですが、tambeさんのコメントにもあるように観察表見上の「芯焦げ」と組成や成分のソレとを区分して論ずるには(私の手元では)データが少なすぎますから…

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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