ラバは泣いている

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2009 [2009年06月04日 01時00分]
一昨年来の雨量過多により、今2009年のコロンビアのコーヒー豆は生産も輸出も低迷する見込みで、品薄と価格上昇が始まっている。だが、コロンビアコーヒーの市場混迷の原因は天候だけではない。他にも肥料の価格高騰や古いコーヒー樹の植え替えも因子にあげられるし、それも間違いでは無いが、私はこの混迷にもっと根深いものを感じている。
 
コロンビアコーヒーは、古く1960年代より口髭が印象的なコーヒー農夫をキャラクターとしたマーケティングを消費大国USAで展開し、ブラジルなどとは異なる高品質イメージを獲得して着実に増産を進めた。しかし、1990年代まで世界第2位のコーヒー生産国であったコロンビアが、2000年代に急進したベトナムにその座を奪われて第3位に凋落する。この半世紀間の世界市場の変遷が、現在のコロンビアコーヒーを苦しめている。
 
コーヒー生産最大国ブラジルは、1975年の大霜害以降、不安定な世界相場を掌握するために輸出の規制と解禁を繰り返す。特に、コーヒー市場に伸長するコロンビアを狙い撃ちにするべく、豊作だった1987年にはインドネシアと組んで意図的に価格下落を図った。他方USAは、このようなブラジルの市場主導への動きを嫌い、1990年代前半まではメキシコを中心に中米のコーヒー生産国を、1990年代後半からはベトナムのコーヒー生産大国化を助長して対抗する。ブラジル、コーヒー新興国(インドネシア・ベトナム)、USA、3軸の政治的思惑も含めたコーヒー市場争奪戦の中で、1990年代半ばには20万戸のコーヒー農家が廃業したことに象徴される様に、コロンビアはコーヒー市場での体力・発言力が弱化していったのである。
 
また視点を変えて、コロンビアの実態経済を見ると表向きの統計とは別に、世界に冠たる主要農産業としてコカイン市場を見逃すことはできない。ごく近年でも、コロンビアのコカイン栽培量は面積10万ヘクタール弱で、コカインの世界流通に対して6割以上のシェアを持ち、700億ドルを稼ぐという。重量にして千倍の70万トン前後を生産しているコロンビアコーヒーは、栽培面積80万ヘクタール前後で22億ドルしか外貨を獲得していない。メデシンカルテル・カリカルテルの壊滅策すら虚しくなるようなデータを見ると、コロンビアコーヒーを真に対コカインとしての栽培作物として捉えるならば、今回の価格高騰は実質歓迎され放置されても仕方が無い(?)事情とも思える。
 
前述の通り農夫ファン・バルデスの絵柄で世界的に知名を高めたのは、FNC(コロンビアコーヒー生産者連合)であるが、そのFNCも1970年代以降は実質弱体化をたどる一方である。大きな背景には、USAが主導したネオリベラルモデル政策があり、この政策の維持影響が南米諸国で最も大きく出たのが、コロンビアにおけるコーヒー産業だからである。昨今のコロンビアでは生活不安から全産業的に労働者のストライキが頻発し、港湾倉庫のコーヒー生豆在庫が減少し続けていることも、山間の各生産地区から運搬するトラックがストライキで動いていないからだが、現在のFNCはこれを嘆いて発表するだけであり、対処する力は無い。
 
豊作不作に関わらず、どちらにしても収穫したコーヒーが、競合生産国や消費大国による世界市場での策謀や都合に振り回され、港に運べない国内情勢下にあるコロンビアコーヒー、農夫ファン・バルデスの隣に描かれた(収穫したコーヒーを運ぶ)荷役のラバ「コンチータ」も泣いているに違いない、と私は思う。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
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